7-5—メルアド交換—

 珠樹は家着に着替えた後、悠紀人の部屋の扉をノックした。


「勉強中のところ、ごめんなさいね。今日は留守番を頼んだけど、いろいろありがとうね」

「いえ、時子ちゃんが夕飯を準備してくれましたし、僕は何もしていないです。あ、そうだ。珠樹さんとメルアドを交換しておいた方が便利だと思うんだけど、今、交換できますか?」

「私も時子から聞いてその方がいいと思ってメモしてきたところよ」

珠樹は笙と交換しているメルアドを書いたメモを悠紀人に渡した。

「じゃあ、俺からこのアドレスに今から空メール送りますよ」

悠紀人はメーラーの宛先の欄に珠樹からもらったメモに書いてあるメルアドを記入し、空メールを送った。

「あ、もしかして、これ、父と交換していたメルアドですか?」

「ええ、そうよ。悠紀人さん達がイギリスに引っ越したときも時々連絡は取り合ってたの。それで、お父さんがイギリスから帰国してからも連絡を取り合って会うようにもなったんだけどね」

「父からもそのことはそれとなく聞いていたんですが、父と母は離婚してるし、珠樹さんと時子ちゃんも伯父さんが行方不明になって母子家庭で苦労してるからって父は言ってました」

「……いろいろと時子の相談にも乗ってくれてありがとうね」

「いえ、相談というほどのこともないですが、僕もなんでも話せる妹ができたみたいで楽しいですよ」

「そう言ってくれると嬉しいんだけど、時子も年頃だから、何か心配なことがあったら、メールでもいいから教えてね。私、仕事が忙しくてあまり構ってあげられないから心配でね。それから時子もそのうち連絡用にi-Padを持たせることにしたから、聞かれたら使い方を教えてあげてくれるかしら。受験勉強で忙しい時にごめんなさいね。英語のレッスンや勉強も教えてくれてるって時子から聞いてるけど、いろいろと本当にありがとう」

「僕も気分転換したい時もありますから、あまり気にしないでください。むしろ、休憩時間の話し相手ができて嬉しいですから」

「……悠紀人さんは自立してるのね。イギリスから帰国する時、お母さんと離れて寂しくなかった?」

「僕が日本に帰国することにしたのは母の方針についていけなかったということもありましたから。だからこそ、ここで自分の道を切り開いていけるよう、努力しないといけないから大変ですけどね。とにかくもう、18ですし、選挙権もある大人ですから、しっかりしないと」

「まあ、でも学生時代はいろいろなことを学んでいくんだから多少の試行錯誤も経験を重ねていく上では大事なことなのよ。なんてこと言われなくてもイギリスの高校をしっかり卒業している悠紀人さんならよくわかっていると思うけど。時子は私の心配性のせいで視野が狭いから、身近に悠紀人さんのような人生の先輩ができてとても喜んでるみたいだけど、これからもよろしくお願いします。じゃあ、勉強で忙しいところをごめんなさいね。何かあったら私にもいつでも言ってね」


それだけ話すと、珠樹は悠紀人の部屋を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る