7-4—奇跡的な巡り合わせ—

 一方、珠樹は長年の親友の美咲に行方不明になっていた圭と再会したことを美咲にそのうち連絡しようと考えていた。そう思いつつ、そのうち美咲の方からきっと連絡があるだろうから、その時でいいかなと思った。美咲とは今でも連絡を取り合っているが、今ではそれぞれが忙しいこともあって折々に携帯メッセージで近況を報告し合うことが多かったが、圭が失踪した時には多忙で追われるようだったり、珠樹が美咲に転居先の住所を知らせなかったりしたこともあって、音信不通になった時期もあったのだが、美咲が母に尋ねてくれて、再び、連絡が取り合えるようになった。その後はお互いの忙しい合間を縫って適度な距離で美咲の方から連絡がきて、長年の友情が続いていたし、電話で話す時にはお互いの子のことや学生時代の交換日記や文通の延長で、お互いの昨今の関心事から世間を賑わしているニュースの話題、最近、読んでる本の話題など、互いにまるで学生時代に戻ったような気分になれる友情を保っていた。


 笙と暮らすことになったことも事後報告ではあったが、美咲には伝えた。美咲はあまり細かなことは聞かず、珠樹と時子ちゃんにとって良い選択ならとそのまま聞き流してくれた。珠樹の仕事が忙しいことや住所が離れていることもあって、ふたりで会ったりすることはなかなか叶わなかったが、時子が中二になり、珠樹と美咲が出会った年代になったし、美咲の子ども達も交えてそのうち会えたらいいねと連絡を取り合ったりしていたのだった。


 圭が病院に運ばれてきたのはそんな矢先のことだったから、美咲にもそのうち話そうと思いつつ、それより先ずは時子の気持ちのことが心配だったし、笙とのこともあったから、タイミングよく伝えられる自信もなかったから、結局また事後報告になってしまいそうだ。でもきっと美咲なら許してくれるだろう。


 そんなことを思い返しながら、珠樹はふっと中二の頃に美咲と出会ったことを思い返していた。その頃はまだ笙とは知り合いではなかったが、同学年の生徒として中一の頃から笙と珠樹はすれ違っていたのだ。そして、珠樹は部活でいじめに遭って自信を失う一方で家庭的な事情も立て込んで、自律神経失調症を患っている時に美咲と出会い、少しずつ立ち直った。そして、美咲が引っ越した後、新しいクラスで笙と知り合い、話すようになったのだった。だから、笙と美咲も同学年ですれ違っていた時期があったのだが、直接、話したりすることが全く無く、お互いのことはよく知らないようだった。でも珠樹を通して、笙にとっては珠樹の長年の親友として美咲を認識しつつあったし、美咲にとっては笙は珠樹が昔、好きだった人でもあり、偶然、結婚した相手の弟で、今は一緒に暮らしている人として認識しつつあった。


 人との出会いというのは不思議だと改めて思う一方で、時子に父親を会わせることができるようになったことも圭が怪我の功名なんていってたけど、交通事故に遭って珠樹が勤めている病院に運ばれてきた奇跡的な巡り合わせがあったからで、そのことについても不意に感謝の思いが湧き上がってくる珠樹だった。

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