7-6—はやる気持ち—

 翌朝、時子はいよいよ明日に父と会うと思うとわくわくしてはやる気持ちを抑えることができず、学校でもふと気付くと笑みがこぼれてしまって、クラスで一緒に行動していた恭子にも呆れられるほどだった。


「何かいいことあったの?もしかして、悠紀人さんのこと?」

時子は恭子にはそれとなく悠紀人のことは話してあった。

「悠紀人さんとも昨日の夕飯はふたりきりで食べたんだ。私がスパゲッティを作ったのよ」

「それで、どうだった?上手くできた?スパゲッティ」

「うん。まあまあ、美味しくできた。悠紀人さんも喜んでたし」

「イギリス帰りのかっこいい従兄と一緒に暮らせば、にやつくはずだよね」

「まあ、頼りになるお兄さんって感じだけどね。英語も教えてもらってるし」

「きっと英語、ペラペラなんだろうな。何しろイギリス帰りだもんね」

「私もそのうち教えてもらいたいな」

「うん。そうだね。そのうち聞いてみるけど、悠紀人さん、大学受験があるし、悠紀人さんの受験が終わったら、私たちが受験だし」

「あ〜あ、中高一貫校、行きそびれちゃったからな。受験、面倒くさいけど、N高校目指して、頑張らないと!石田先輩とも再会したいし!」

「まあ、私たちの受験が大変になるのは来年からだし、今は一緒にいろいろなことがんばろっ」

「そうだね。時子のような友達ができてよかった〜」

「私も恭子とはずっと一緒にいたいよ」

「そうそう、英語部の台本、昨日、時子の分も預かってるから渡しておくね!」


休み時間に恭子とそんな他愛ない話をしながらもまだ父のことは話せずにいた。本当に会えるまでは話さない方が気がしたし、明日には会えると思うと嬉しい反面、話した後、会えなくなったらと思うとなんだか怖かった。


 その日も英語部に寄る気分にはなれずに家に帰った。その日、英語部では文化祭向けの英語劇の配役を決めることになっていたし、皆に悪いと思う気持ちもよぎったがどうしても明日のことを思うとはやる気持ちを抑えることができず、部活動どころでなかった時子だった。

「来週からは練習に出れるようにしようっと」

時子は心の中でそう思いながら恭子に今日も部活動を休むことを伝えると帰り支度をして、教室を出た。下駄箱で靴を履き替え校舎を出ると一目散に校門を通り抜け、校庭から外に出た。


—練習が始まったら悠紀人さんにもちょっとだけ練習に付き合ってもらおうっと—。


まだ配役も決まっていないのに渡されていた英語劇の台本を見ながら、時子は一人呟いた。




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