第40話 『ぼく』の失敗

 迂闊なことなんだけど、当初、その異変に『ぼく』は全然気が付かなかったんだ。普通の状態だったら、そんなヘマをしてしまうことなんかなかったと思う。でも、『ぼく』は次の時代の事ばかり思っていて、落ち着いて考えれば、とても無茶な行為を続けてしまっていた。それは別に快楽でもなんでもなく、『ぼく』の野生動物としての本能からくる行為なんだよ。性風俗が乱れている、人間なんかと一緒にはしないで欲しい。でも、そのせいで、『ぼく』はとっても疲れていたんだ。だから、能力が低下していたことは確かだ。今さら反省しても、もう遅いけどね。イルカのチェキがその異変をテレパシーで『ぼく』に伝えてきた時、なんだか冷静さを失っていたんだと思うんだけど、強い勢いで、チェキを怒鳴りつけてしまったんだ。「そんなわけないだろ! 日本にそんな沢山の攻撃型潜水艦があるわけがない!」ってね。

 でも、チェキにはチェキなりの能力がある。それに『ぼく』と行動をともにするようになって、チェキの基礎能力が普通のイルカよりもはるかに優れているものになっていたことは確かなんだ。たぶん、『ぼく』の能力の中に味方の潜在能力を活性化させるなにかがあるのかもしれない。詳しいことは全然、わからないけどね。

 チェキが再び話しかけてくる。「神奈川県の三浦半島から静岡県の焼津ぐらいの海底から潜水艦がイワシの大群のように現れてきている。それを率いているのはとてつもなく巨大な怪物のようなロボットみたいだよ」

 驚いた。人間に、それも愚かで心優しい日本人に、そんな物量の攻撃兵器が作れるなんてね。そう言うと、チェキは首を横に降った。イルカの首がどこにあるかって? そうか、きみたちにはわからないかもね。へへへ。とにかく、首を左右に振ったチェキは驚くようなことを言ったんだ。

「怪獣ロボットのコックピットの一番高いところに座って、威張っているのは人間じゃないよ。巨大なクマの化け物だよ。そして、おかしなことに海の中なのに河童が一緒にいる。人間たちはクマの化け物に命令されて、行動しているんだ」

 一瞬、ちょっとチェキの言っていることが、よくわからなかったよ。でもね、すぐに、遠い昔のことを思い返すことが出来たんだ。そう、『ぼく』が目覚めたあの日のことをね。そして、正確な記憶が脳裏に浮かんできたんだ。『ぼく』がエゾリスと隠れていたベッドの上でなにが起きていたかを。もちろん、実際に目で見たわけじゃないけれどね。でも、あの眩しい光の中で、一つの命が生まれ、一つの命が死んだ。それははっきりとわかったし、その命を失ったものが円山動物園のメスのエゾヒグマだったってこともわかる。ということは、生まれたのはもちろん、クマだ。少なくとも、半分はクマのDNAを持った生き物だよね。もう半分はわからない。それがその巨大なクマの化け物だということだろう。ということは、そいつはとても悔しいことだけれど、『ぼく』と同様か、またはそれ以上の能力を持っているに違いない。だって、あの光は、本当はそいつのための光であって、『ぼく』やエゾリスは知らず知らずにおすそ分けをしてもらっただけなんだから。こう思うと、一気に身体中の力が抜けていくように感じたよ。


 落ち込むおいらを勇気付けたのは、意外と言うか当然と言うか、チェキだった。チェキはクジラたちに事情を話して、協力してくれるよう要請するという。でも、クジラは北極か南極にいることが多いから時間的に間に合わないと思う。そう言うと、チェキは各所にいるイルカたちに協力してもらって、テレパシーを中継していって、クジラに一番近いところにいるイルカに状況を説明させると言う。原始的だけど、クジラにインターネットは使えないから、それが最善の策だね。どうしちゃったんだ、チェキ! なんで、そんなにやる気に満ち溢れてるんだい?

「海を人間から守るために」

 ああ、そうだ。『ぼく』はなにか本来の自分の使命を忘れていたような気がする。それをチェキは再び気がつかせてくれた。なぜか、両の目から涙が出てきたよ。でも、海の中だから、チェキにはわからないはずだよ。恥ずかしいからちょうどよかった。

 とにかく、チェキは海の仲間たちに呼びかけてもらい、『ぼく』はに人間の協力者たちから情報を収集することにしたんだ。海を守るための戦いだね。


 海の中で、そんなやりとりが行われている、数時間前。ぺこりは、秘密基地の下の階から数えて二番目の場所にある、スーパーコンピューターが何千台も設置された、情報統合司令室にいた。そして、情報統合庁長官の堀江紋(ほりえ・もん)を恫喝に近い大声で叱咤激励していた。

「堀江くん、わかっているだろうね。とにかくやつの現在位置を特定できなければ、我々の潜水艦大艦隊は宝の持ち腐れ。波をチャプチャプかきわけるだけの、大海原で迷子になったアホガキになってしまうんだよ。海中には親切なお姉さんも、迷子の館内放送もないんだからね」

「はあ、もしかしたら親切なダイオウイカがいるかもしれませんが……」

「ほう、この状況でギャグが言えるとは余裕ですな。ダイオウイカが竜宮城にでも連れて行ってくれますか? タイやヒラメが舞い踊り、飯は美味いし姉ちゃんはキレイだとな。ところでさあ、酸素はどこにあるのかねえ? おいら竜宮城の酸素の有無は知らないけれど、この基地にある、処刑用のギロチンの存在は知ってるんだな」

「ご、ご冗談を……」

「おいらの目が冗談を言っているように見えるかい?」

 ぺこりがこの小説で初めて、野生の表情を見せた。

「は、申し訳ございません。あと少しだけ、お待ちを。何しろブロッキングが多い上に、複雑で迷路のような通信経路が張り巡らされておりまして、職員一同死ぬ気で解析しておりますが……」

「ふふ、言い訳だけは超一流だな。タイムリミットは三十分だよ。それをすぎると、この小説初の残虐描写がなされる。レイティングはきちんと登録してあるから、きみの生首がお台場海浜公園の五輪聖火台設置予定地におかれているという、天知茂版、明智小五郎並みの……堀江くん、なんで失神しているの? 冗談に決まってるだろ!」

 ぺこりはしょうがねえなあという顔をして、そばにいた戦闘員に堀江を医務室に運ばせる。堀江がいてもいなくても職員たちが一生懸命働けば、やつは見つかる。いや、見つけさせる。そのために高い給料を払ってるんだ。まあ、堀江は殺しはしないが更迭だな、とぺこりが考えていると、

「索敵完了! やつは小笠原諸島近海におります」

 と情報統合部の職員が走って知らせてきた。

「よし、よくやった。あとはやつと人間界を繋ぐインターネット網を破壊して」

「はっ」

 職員は走り去った。

「これで、出陣できるぞ。総員、所定の位置につけ。敵の情報網を破壊ののち出撃する!」

 ぺこりが雄叫びをあげた。巨大な秘密基地が揺れ、気象庁は緊急地震速報を誤作動させた。


「あれ、なんで繋がらないんだろう?」

『ぼく』は焦った。インターネットが使えない。これでは地上の協力者たちと連絡が取れないし、敵の情報も知ることが出来ない。どうしよう。『ぼく』は目覚めてから初めて、恐怖というものを感じた。チェキがやってくる。

「この近海に数多くの種類のクジラたちが合わせて約千頭いました。ラッキーです。みな、戦ってくれると言っています。ねえ、なにを恐れているの? 海を守るために、みんな協力してくれるんですよ。イルカだってまもなく五千頭ほどやってきます。潜水艦より、動きが早いんです。勝てますよ」

「でも、地上の協力者との連絡が途絶えてしまったんだ」

「この期に及んで、人間などをあてにしてはいけません。彼らは海を、自然を破壊する者。容赦なく殺していいんです。そう教えてくれたのはあなたではないですか!」

 ここにきて何故か、チェキが強気になっている。なのに『ぼく』は初めて覚えた、恐怖の感情に押しつぶされそうなんだ。だって、相手はあの光の守護を受けた者なんだ。それに、イワシの大群のような攻撃型潜水艦に、ロボット怪獣。ムリだよ。チェキ。

「なあ、チェキ」

『ぼく』はテレパシーで言った。

「なんですか?」

「遠くへ逃げないか?」

『ぼく』には、イルカなのにチェキが怒っているということがすぐにわかった。

「腑抜け!」

 チェキはヒレで思いっきり『ぼく』の顔を殴った。思わず『ぼく』は顔を甲羅に隠してしまった。

「どうしちゃったの? あの、強かったあなたはどこへ行ってしまったの?」

「だって、敵は光の守護を受けた者なんだよ」

「じゃあ、深海まで、潜ればいいじゃないか。深海なら光は届かない」

「チェキ、ゴメンよ。説明が足りなかった。光というのは太陽の光じゃないんだ。別のものなんだ」

「意味がわからないよ」

「そうだよね」

「とにかく、戦おう。あなたの力は無敵だよ」

「……うん、わかった。仲間を見捨てはしない」

『ぼく』は覚悟を決めたんだ。死ぬ覚悟をね。


 こちらはぺこり軍の旗艦となったロボット怪獣カッパーキングの内部。問題点だったバッテリーは光子エネルギーという作者には理解不能なSFチックなものに変更された。仲木戸科学技術庁長官は「これで、無限の行動が可能になりました」と自慢げに言っているが、物理学的に正しいのかどうかはぺこりも理解してないようで「へえ、すごいなあ」とセリフ棒読みである。さらに、潜水艦としての機能がプラスされ、前後の足部、首部、尾部の継ぎ目には防水用の強化プラスチックを使用。それだけだと弱点になってしまうので、特殊な耐久素材がコーティングされた(すみません。詳しいことは仲木戸科学技術庁長官に聞いてください)。

 また、両目からはレーザービーム、前後の足の指は追尾型ミサイルになっており、それぞれ五百発まで連射可能。当然、腹部にもくまなく連射砲が装備されており、ぺこり曰く「これ一台あれば潜水艦を沢山作んなくてもよかったんじゃないの。潜水艦の維持費だってたいへんだよ」と文句の一つも出たものだ。だが、弱点もあって、あまり、スピードが出ない。だから、高度な能力を持つウミガメを仕留めるには小回りの効く、ドルフィン級の潜水艦も必要であり、任務終了後はこっそり第三国に売りつければいいというのが、責任者羽鳥真実の言い分である。真実よ、北朝鮮には絶対に売るなよ。


「ねえ、ぺこりさん」

 かっぱくんがぺこりに話しかけた。

「なんだよ?」

「ぺこりさんはぼくをカッパーキングの艦長にするって言いましたよね?」

「そうだっけ? 全くもって忘れてしまったなあ」

「確かに言ったんです。なんなら証拠の音声テープもあります」

「ああ、そう。それで?」

「じゃあなんで、艦長席にペコリさんが座って、ぼくは立ちんぼなんですか?」

「ふーん、かっぱくん。艦長の定義を簡潔に言ってみな」

「ええと、一番エライ人ですか?」

「まあ、かすったな。あのね、艦長は船の中で一番エライ人なの」

「でしょう!」

「でもね、艦長より、船主、つまりオーナーが一番エライんだよ! だからさあ、大元帥である、おいらこと、よろしくま・ぺこりさまが一番エライの! きみはパイプ椅子でも探してくるんだな。安定性は全くないけどね」

「えーん、ぺこりさんの、いじわる〜」

 泣きながら、かっぱくんはどこかに行ってしまった。

「まったくよう。カッパーキングは遊園地のアトラクションじゃないんだぜ。これから、命がけの戦いが始まるんだよ」

 ぺこりは毒づいた。


「ぺこりさま、東の方角に信じられないほどのクジラの大群が現れ、我らの船団に接近してきております」

 オペレーターが叫ぶ。

「これは、意図的なものですな。恐らくは、やつの仕業でしょう」

 あら、関根老人、こちらに乗っていたのね。

「ねえ、ご老人。久々にクジラのお肉がたんまり食べられますなあ。うふふ。よだれが出てきた」

「はあ?」

「クジラが知的生物だと反捕鯨国は言っているけどさ、日本が国際捕鯨委員会から脱退しているって、あいつらは知らないんだな。所詮はおバカさんじゃんよ。しかも、ここは日本の排他的経済区域。クジラのお肉は日本の伝統食だ。みんなまとめて獲って食べちゃおうぜ。食べきれなかったお肉は、系列のスーパー、鮮魚店、回転寿司店、日本料理店に卸そう。それでも余ったら、Amazonで大安売りだ! ホエール級全艦に告ぐ。二隻で一頭のクジラを銛で捕獲せよ。捕獲したら、それを持ってさあもう、基地に帰っていいや!」

「ま、待たれよ。ペコリさま」

 慌てる勤勉。

「心配ないよ、ご老人。どうせ、ウミガメの突然変異種をやっつけるのに、ホエール級潜水艦は無用の長物だよな? 真実くん」

 ぺこりは痛烈な嫌味を言った。

「も、申し訳ございません。私の判断ミスです。どうぞ、罰してください」

「アホを抜かすな。貴重な人材を罰するかよ。次の機会を待て」

「はっ、肝に命じて」

「よし! クジラ大漁祭りの始まりだよ〜!」

 なんで、ホエール級の潜水艦に銛が装備されていたかは謎だが、一頭対二隻という、忠臣蔵作戦がまんまと成功し、ホエール級潜水艦はクジラをぶら下げてホクホク顔で帰還してしまった。ところで、こんな大量のクジラを保管する大型冷凍貯蔵庫は、ぺこりの秘密基地にあるのだろうか?


「えっ、クジラたちが全滅したの?」

『ぼく』は呆然となった。

「終わったことは、忘れましょう。ぼくがイルカ全頭を引き連れて、潜水艦に突撃します。スクリューに巻きついてやれば、やつらは身動きができずに、いずれは窒息死します」

「でも、きみたちだって死んじゃうじゃないか?」

「この海にはまだ沢山のイルカがいますよ。ちょっと個数が減ったからって、生態系に問題はありません」

「違うんだ、チェキ。『ぼく』はきみを失いたくない。きみはぼくの友だちだ!」

「そう言ってくれて、とっても嬉しい。ずっとぼくはあなたの家来だと思っていたから。だからこそ、戦うよ。また天国で会おうね」

 チェキは行ってしまった。『ぼく』はチェキを巻き込んでしまったことを猛烈に後悔したよ。あの時、出会わなければ、ただのイルカで過ごせたのに……

『ぼく』はどうしたらいいんだろう? なんで、こんな能力を得てしまったんだろう? 動物園のウミガメでいたほうがよかったのかもしれない……


「ぺこりさま! 途方も無い数のイルカたちが突撃してきます。すごいスピードです」

 オペレーターの声がする。

「すごい数だな」

 ぺこりはメインスクリーンを見つめている。

「関根老人。麻酔弾は持ってきているの?」

「そんなものは、ありません。なぜ、そんなことを聞かれるのか?」

「さすがにあれだけの数のイルカを殺すのは気がひけるよ」

「ぺこりさま、これは戦争です。生きるか死ぬかですぞ。一瞬の躊躇いが命取り。イルカたちはおそらく我らの潜水艦の弱点であるスクリューを狙ってくるでしょう。潜水艦が海中で動けなくなれば、酸素を失って地獄のような窒息の苦しみを味わい、最後に潜水艦は巨大な棺桶に成り果てるのです。ペコリさまは味方を苦しめたいのですか!」

「……そうだね。おいらが甘かったよ。全艦に告ぐ。イルカたちに、集中砲火を浴びせよ!」

 ぺこりは大音声を上げると、目をつむった。イルカたちの死にざまなんか見たくなかった。なぜなら、自分だって動物に過ぎないのだから……。


『ぼく』はチェキのいなくなった海域で、しばらくぼんやりと漂っていた。また、組織を立ち上げ、捲土重来を図ることはできる。でも、もうそこにはチェキはいない。『ぼく』の友だち、チェキ。そうだ、やることは、一つしかないじゃないか! それに気がつくと『ぼく』は全速力で泳ぎだした。


 イルカたちは勇敢だった。恐れることなく、潜水艦群に突っ込んでくる。しかし、武力があまりにも違いすぎる。素手の三歳児の集団が世界最強の軍隊に攻め込んでも、傷一つ追わせられるはずがない。次々にレーザー光線や、ミサイルの雨に撃たれて、イルカたちが海の底に沈んで行く。グリンピースの人々がいたら、失神するような惨状だ。絶対に映像化は許可しない。そんな中、チェキは生きていた。そして、ちょっと賢くなった頭で考えた。

「あのロボット怪獣に親玉が乗っている。ザコはいいんだ。あいつだけを沈める」

 チェキは残っている仲間、約百頭に合図を送り、カッパーキングの後方に潜り込もうとした。だが、リニューアルしたカッパーキング全身に武器を配備している。百頭の群れにミサイルの嵐を浴びせた。至近距離でミサイルを撃ち込まれたイルカたちはもはや原型も留めておらず、アジやイワシのエサになってしまうという有様だ。それでもチェキはただ一頭。カッパーキングのメインスクリューに接近していた。


「ぺこりさま! メインスクリューに一頭のイルカが突っ込んできます。万が一、スクリューを止められたら、たいへんな事になります」

「ほう、この爆撃の嵐をくぐり抜けるとは勇気あるイルカだな。人間だったら重用できたのにね……全艦、全武力、かわいそうだけど、そのイルカに集中砲火せよ。悪いがおいら、窒息して死にたくないわ。やれ!」

 ミサイル、レーダー砲が一点集中発射された。もはや、そのイルカは細胞レベルまで砕かれるであろうと思われた。そして、水中に巨大な爆破の力が津波のように四方に荒れ狂った。

「終わったか……いや、肝心の『ぼく』を探さなくては!」

 とぺこりが思った時、目の前に信じられない光景が見えた。イルカが生きている。そして……

「敵軍の大将に申し上げる」

 突然、カッパーキングのメインディスプレーに文字が浮かび上がった。

「なんだ?」

 ぺこりが訝しがると、

「『ぼく』だよ。降参するから、もう海の生き物を殺さないで……」

「白旗だ。でも、了解したって、どうやって伝えればいいんだ?」

 悩む、ぺこり。

「言葉が通じるんじゃから、普通に伝えればいいのでは」

 勤勉が言う。

「でも、海中で音声は通じないでしょ?」

「そうでしたな」

 そこに真実が割り込んできて、

「遮断した『ぼく』のインターネットを一次的に開放して、通信すればよろしいかと」

 と献策した。

「おお、良案。こう伝えてくれ。『了解した。話がしたいので『ぼく』くんは、カッパーキングに乗船して欲しい』とな」

「はっ」


『ぼく』の脳に敵方の通信が届いた。あのロボット怪獣、カッパーキングっていうんだ。おかしな名前だ。それに乗れという。そう伝えると、チェキが猛反対した。

「殺されてしまうよ」

『ぼく』は答えた。

「殺されてもいいよ。海の平和がくるなら」

 チェキは興奮して、

「あなたが死ぬなら、ぼくも死ぬ」

 と言った。

「チェキ……」

『ぼく』はこの時、気がついてしまった。人間以外の生物は自殺なんか考えない。いつだって、生存を考える。チェキは……能力を持ってしまったんだ。

「きみが止めても『ぼく』は行くよ。きみはどこかへ逃げるんだ。命令だ」


 そう言って『ぼく』はカッパーキングへと泳ぎだした。

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