第37話 徳川信康の影と『ぼく』の暗躍

 悪の権化、ただし、最近はその呼び名の後ろに(仮称)がおまけについちゃうけど、とにかく、よろしくま・ぺこりは毎度おなじみ、四畳半の部屋でTVを観ていた。お代がわりの式典中継でもベイスターズの試合でもない。ああっ、ここで作者は気がついてしまった。今まで、作者の作品はどこかしらで繋がっている、つまりは同一世界観だったのだ。流行に乗っちゃったわけだ。全然、読まれていないから、どなたもわからないと思うけどね。そうすると、この世界観の場合は、横浜にあるプロ野球チームはベイスターズではなく、横浜マリンズでなくてはならない。どうしよう? ええ、考えるまもなく、書き換えればいいって話だが、あくまでも小ネタなので、どの話に書かれているかが作者なのにわからない。なので、全体を読み返しをしたときに直すかもしれなけれど、ご存知のように、作者は極度のものぐさを患っているので、今後の先行きは不明。妥協案として、どりあえず今後、プロ野球のネタは取り入れないことにする。読者さまには申し訳ございませんが、ベイスターズをとりあえず横浜マリンズに脳内変換していただけませんでしょうか? まあ、どっちでもストーリー上は関係ないんですけどね。なので、この章はとりあえず、このままでいっときます。


 話を元に戻そう。ぺこりの観ているTVに映っているのは関根勤勉と竹馬涼真の側頭部に取り付けられた高性能極小ビデオカメラだ。内視鏡の先端についているものと考えていただければ良い。ただし、蛇腹にはつけていない。蛇腹が半蔵の末裔とひと暴れするのが目に見えていたからだ。ここだけの話だが、ぺこりは三半規管がとても弱い。人間世界に紛れ込んでいた時、友人らしきものたちに、富士急ハイランドへ連れていかれて、“バイキング”とかいう、ただ前後に振り回されるだけの遊具でヘロヘロになり、さらにサマーランドに半ば拉致されて行って、友人らしき者たちに、ウォータースライダーをぺこりが半泣きで嫌がっているのに、無理やり滑らされて、完全にグロッキーになったという、かなりイヤな記憶があるのだ。もちろん、その時ぺこりを無理矢理連れ出した悪童どもが現在、なぜか悲惨で不幸な生活を送っていることは自明の理である。ぺこりは執念深いのだ。

 それはともかく、勤勉たちとは個別に話しをすることもできる。ぺこりは涼真に、

「ぼーっと前を見てるんじゃない! 半蔵の配下である伊賀忍者が襲ってこないか、後方に気を配りなさい」

 と指令し、勤勉には、

「半蔵と蛇腹の戦いが観たいので、彼らを追ってください」

 と命じた。そして、蛇腹には、

「おい、蛇腹。きみに嬉しいお知らせだよ。半蔵はなあ、完全なる敵だ。迷わず殺しなさい」

 と日頃のぺこりらしからぬことを言った。ぺこりは確かに、人命尊重主義である。しかし、半蔵は自ら、徳川信康の末裔を旗頭に据えた組織の設立を宣言した。まごうことなき敵である。しかも相当な強敵である。信康の末裔の力量はわからないが、戦いの主力は当然、半蔵である。それに生かしておいても、味方につくことは絶対にあるまい。狂信的に徳川家に仕えることを望んでいるようだ。これはもう、生かしていたところでぺこりにとっても、日本国にとっても害にしかならない。そう考えての命令である。

「半蔵対蛇腹も大切だけれど……な」

 ぺこりは舞子を呼んで、こう言った。

「三木麻臼と門木鳶山をこちらへ」

「はい、かしこまりました。ぺこりさん」

 舞子は三つ指をついた。

 ぺこりの目はTVに釘付けである。どうも伊賀方も棟梁の戦いに引き込まれているようで、涼真のカメラを観る限りでは特段の動きはない。

 蛇腹は手持ちの毒針や手裏剣を猛毒が入っているらしい布袋に入れて浸している。なんの毒かは恐ろしくて聞いたことはないが、蛇腹だし、毒蛇衆だから普通に考えれば蛇の毒だよな。マムシかな? まさか、キングコブラとかはないよね。フグの毒だったら、それはギャグだな。

 半蔵と蛇腹は睨み合って動かない。こういう、タイマン戦になったら、先に動いたほうが大抵負ける。動くとどうしても、隙ができるからだ。かといって、ずーっと動かないのもまずい。筋肉が緊張で硬直してしまって、肝心な時にうまく動けなくなるからだ。たぶん、グッドなタイミングで両者は何かしら行動を起こすのだろう。ぺこりはタイマンの喧嘩なんかしたことないので、よくは知らない。もし、そういう場面に出くわしても、一撃で相手をボロ雑巾にできちゃうし、体が巨大なので、毒とか鉄砲の玉なんか、全く効かないのだ。どこかの国の軍隊だか自衛隊の一小隊くらいまでならパワーとスピードでやれる。まず、そんなこと起きないけれどね。

 さて、麻臼と鳶山がやってきた。二人といえば、登場回数がものすごく少ない。これは、十二人主力の将軍がいたら作者のマネジメント能力の限界を超えてしまうから仕方がないことだ。本当は五人くらいがちょうどいい。だから戦隊ものは、ああ最近のは全く知らないけれど、たいていは五人でしょ。ゴレンジャー、ガッチャマン……例えが古過ぎる? ああ、涼宮ハルヒのSOS団だって五人じゃないか。ふふふ、若いね作者も。とにかくまあ察して欲しいところである。

「麻臼、鳶山。入ってくれ」

 襖の向こうからぺこりの声がする。いつもより、声が怖い。なにか、しでかしちゃった? 二人がビビりながら入室すると、

「おう、二人とも元気か? 今なあ、服部半蔵と蛇腹蛇腹の殺し合いを観ているんだ。一緒に観ようよ」

 ぺこりは別に怒っていないようだ。

「はっ」

 ぺこりの斜め後ろに正座する二人。すかさず、舞子がお抹茶を持ってくる。

「おい、武芸者に正座は禁物だ。楽にしなよ。しかし、この戦いは、下手な格闘技より迫力がある。命懸けだもの。にらみ合いだけで、手に汗握るよ」

「そうですね」

 真臼が答える。

「親分、ところで、なんで我々は呼ばれたんでゲス」

 鳶山が言う。急ですが、鳶山はこういうキャラにしました。それ以前の鳶山のことは忘れてください。あとで、直します。

「まあ、それはあとでいいよ。まずはこの戦いを観よう」

 ぺこりは、鳶山を相手にしなかった。


 春の心地よい風が、夕暮れに近づくに連れて、冷たくなってくる。だが、半蔵と蛇腹の心中は燃え盛っているのだろう。考えることは二人とも同じ。「目の前の相手を殺す」。本来、忍者は表立って戦うことはない。暗殺、謀殺。陰の役割を与えられている。しかし、今回ばかりは事情は別だ。実は並の武芸者より、一流の忍者の方が、数段強い。半蔵も強い。しかし、蛇腹も強い。ぺこりが十二神将に選んだだけのことはある。しかし、二人は初対面。体内から発する雰囲気で、強さの程度はわかっても、その必殺技はわからない。いや、蛇腹が毒を用いることは半蔵に知られている。その分だけ、半蔵が有利か?

「シュー」

 突然だった。勤勉のカメラは二人の瞬間移動を捉えきれなかった。あとで、スロー解析すればわかるかもしれないが、今はそれどころではない。戦いが始まったのだ。二人は森の中に入った。勤勉が「ぺこりさま、もう我々には追っかけられません」と言ってくる。

「仕方ない。とりあえず、森に近づいて、音だけでも聞かせてよ」

 ぺこりは渋い顔で言った。

 森に戻る。

 光のような速さで手裏剣が星のごとく大量に飛んだ。これは半蔵の技か? 続いて、刀の刃音。斬り合っているようだ。

「蛇腹は剣術はいけるのか?」

 勤勉が涼真に尋ねる。

「いや、少なくとも道場で見たことはありません」

 木の葉が二ヶ所揺れた。どうやら、二人は離れたようだ。

 鋭い、手裏剣の音。これはどっちだ? もう全然わからない。あたりはどんどん暗くなって行く。忍者だから暗闇でも見えるだろう。だが、勤勉と涼真の目はそこまでのものではない。森には電灯などない。勝負開始から三時間を超えた。これは決着がつく可能性は薄い。勤勉が姿の見えない半蔵に大声で呼びかけた。

「半蔵殿。今日は引き分けにしよう」

 森から声が帰ってきた。

「構わんが、後悔するやもしれんぞ」

 蛇腹も叫んできた。

「まだ、できる。あいつを殺す」

「愚か者! わしの命に従うのが、ぺこりさまとのお約束だったろうが」

「……そ、そうだったな」

「では、引き分けるぞ。半蔵殿、卑怯な闇討ちなど考えぬようにな」

「もちろんだ」

 こうして、戦いは消化不良のうちに終わり、勤勉たちはなんの収穫もあげられずに帰ることとなった。


「なんか、期待はずれだったなあ」

 ぺこりは、ごろんと畳に寝そべった。そして、そのままの姿勢で、麻臼と鳶山に命じた。

「きみたちは、これから徳川信康のことを調べてくれ。ただ、史実や小説のように織田信長の命令で父、徳川家康に殺されたとは考えず、服部半蔵正成に救われ、子種を残したという仮定で調査するんだ。忍者衆を好きに使っていい。ただ、その形跡はありませんでしたという報告は許さないよ。健闘を祈る」

「はっ」

 二人は出て行った。その姿を見届けると左前足を枕にして呟いた。

「おいおい。また敵が増えたよ。作者はバカか? こちらはまだ『ぼく』と、どう対決するかも決まってないのにさあ。この物語、閉じられるの? 作者にその能力あるの? 甚だ疑問だ。ああそうだ。畳かえすにこのこと連絡しなくちゃ。おい舞子、かえすを呼んでくれ。でも、とっても忙しそうだったら、本当はイヤだけど電話でもいいや」

「はい」

 舞子が返事をした。


『ぼく』はペルシャ湾でのタンカー攻撃をやめていた。なんだか、協力者である人間から、アメリカ海軍の空母や攻撃型の潜水艦がたくさんやってくるという情報をもらったからだ。さすがの『ぼく』も空母を破壊するほどのパワーはなかった。さらに潜水艦の最新鋭魚雷に付け狙われたら、おだぶつだ。『ぼく』は小笠原諸島の海に逃げた。イルカのチェキとその一族も一緒だ。できればクジラと遭遇して、なんとか仲間にできれば、空母にも対抗できるのではないかと思った。シロナガスクジラの大群に出会えたら最高だね。でも、残念ながら、いなかった。協力者に検索を頼むとスコットランドあたりに生息しているそうだ。今はムリに会いに行くこともないだろう。まずは海中内の組織づくりをしなくてはならない。人間にいつまでも協力してもらっていると、情がわいてしまって、目的達成後に殺せなくなってしまう。

『ぼく』はメスのウミガメをたくさん呼び寄せて、ハーレムを作った。羨ましいとは思わないで欲しい。ウミガメはたくさん産卵し孵化もするけれど、天敵の動物たちに幼いうちに食べられてしまう。だから成長したウミガメの頭数は少なく、絶滅の危機に瀕している。『ぼく』はメスのウミガメたちにテレパシーを送る。「『ぼく』は特別な力を得た、ウミガメなんだ。『ぼく』のDNAを受け継いだウミガメの子どもにはきっと、ぼくのパワーが遺伝すると思うんだ。だから、できたら『ぼく』の子どもを産んで欲しい」

 メスは本能的に優れたDNAを求める。だからこぞって『ぼく』のもとにやってきた。

「そろそろ、人間界に『ぼく』の力を見せつけないとね。やっぱり火力発電所の爆破かな? 人間のテロリストに連絡をつけよう」

『ぼく』は無表情に言った。ウミガメに表情など最初からないか?

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