第29話 コンビナート連続爆破テロの衝撃
お代がわりを直前にして、日本国民が恐怖に震えている。全国十ヶ所の石油コンビナートが何者かにより、連続で爆破されたのだ。死者、重軽傷者多数。たっぷりと石油を貯め込んでいるコンビナートは容易に鎮火できず、黒々とした煙によって、住民生活にも支障が出ている。これは完全なテロだ。正真正銘、日本初の本格的テロだ。さすがの阿呆首相も本腰になって、テロ組織の破壊を宣言した。ところが犯行声明が出ない。世間では警察庁・警視庁庁舎爆破テロや、大阪・神戸、ロボット怪獣襲撃事件を起こした『悪の権化(仮称)』の犯行を疑う声が多いが、「いや、彼らは人命を損なわない」と言う反対論も根強くある。阿呆首相はアホなことに「犯行を行った組織は速やかに名乗り出るように」という、小学校で先生が「鈴木くんの給食費の袋がなくなりました。怒らないから、先生に名乗り出てください」的な声明を出し、内外から日本の首相は名前も言うこともアホだと、大いに笑われた。
「うむ。阿呆首相は本当にアホなんだな」
いつもの四畳半の部屋のテーブルで、悪の権化、よろしくま・ぺこりは新聞を読んでいた。近年では新聞など、とらない家が多いのに珍しいことである。読んでいる新聞は毎毎新聞、ぺこりは右翼の闇雲、算計新聞や左翼の夕日新聞を好まない。発行部数が一番少ない毎毎新聞は中道だからペソ曲がりのぺこりには一番性が合う。えっ、東京経済新聞ですか? ぺこり自身は現在、経済に全く興味がない。経営経済をハーバード大で学んでいるのにおかしいじゃないかと思われるだろうが、経営経済は組織を完成させるまで必要だったのであり、それが成ったぺこりにとってはもはや要らぬ知識なのだ。万が一、組織をのらねこのように追い出されて無一文からのスタートになったら、ぺこりの脳みその奥にしまわれている経営経済の知識が再び顔を出すことだろう。
毎毎新聞の他に、地元で発行されている、横浜新聞をぺこりは購読している。理由は簡単、どのスポーツ新聞より、ベイスターズの情報が載っているからである。
「うぬぬ。東アウト。石田アウト。筒香両腿の張り、桑原絶不調……なんだよ。悪いことばっかりだ。おやっ、上茶谷好投ねえ。右投手は本番にならないとわからないからなあ」
……あっ、いけない! この小説内ではもう四月だよ。例年、三月の終わりに始まるプロ野球の公式戦はもう、熱戦真っ只中だあ! なのに、うかつにもオープン戦のことを書いてしまった。えーと、どうしようか? 読者の皆様、ベイスターズに対するぺこりのコメントはシーズン中のことなんですよ。上茶谷の記述がおかしい? ああ、本番っていうのは、夏本番ということです……いけない、焦ってしまって、です・ます体で文章書いちゃった。もう修正は効かないよ。えい! いいから、次に行っちゃえ〜。
「ああ、それにしても今度の連続テロ。犯人がおいらたちだと間違えられないかなあ。国民の皆さんが我々の組織に不快感を持ってしまうと困るなあ」
ぺこりがテーブルに頬杖をついていると、水沢舞子が部屋に入って来た。もちろん、お抹茶と和菓子付きである。
「あら、ぺこりさん。珍しく思案顔ね」
「うむ。例の連続コンビナートのテロなんだけどさあ、我々の組織が行ったと国民の皆さんに勘違いされたら、ちょっと困るんだよね。だからと言って、『我々は犯人ではありません』なんて言うバカな声明を出したら。自分が犯人だと言っているようにしか聞こえないよね。それもバカらしい。それじゃあ、阿呆首相のこの前の声明とおんなじだ」
「関根のご老人に相談をされてみればいかが?」
「それしかないか。ご老体には度々、世話をかけさせちゃうなあ」
四畳半の部屋に、関根勤勉がやって来た。
「ぺこりさま、何用ですかな?」
「察しはつくでしょ。例のテロだよ。我々への風評被害をおいらは恐れているの」
「ああ、ならご安心召されよ。我が組織のコールセンターを活用して全国電話アンケートをいたしました。回答率六十%と高いご回答をもらいました。その結果、我らが今回のテロに加担しているとしたのはわずか十五パーセントです。一番多かったのはイスラム系のテロ組織が密かに潜入しているというのが六十パーセントでした。実際はどうなんでしょうかね。ちなみに闇雲新聞系のジャパンテレビの電話調査では二十五パーセントと少し高く、夕日新聞系のテレビサンライズの電話調査では十七パーセントでした」
「ふーん。右翼系の人々は我々組織が嫌いなようだな」
「まあ、わずか差異でしょう。国民からの不信感はほぼ、ないと言えましょうな」
「しかし、なんでウチにコールセンターなんかあるの?」
「ぺこりさま、通信販売は我々に大きな利益をもたらしておりますよ。知らなかったのですか?」
「知らぬよ、そんなこと」
「最近、ぺこりさまは引きこもりが激しくて、正直、老人は感心致しませぬ」
「そう言えば、そうだね。でもさあ、読まなきゃいけない文庫本が溜まっちゃってなあ。新刊の文庫は毎月、たくさん出版されるよ。でもね、読書にあんまり集中できないんだよね。春のせいで、自律神経をおかしくしているのかな?」
「あの、ブログやらTwitterなどというものがいけないんではありませんか?」
「そうかもね。でも、おいらのブログって誰も読んでいないよ。おいらのさあ、文章を書きたいって欲求がさ、心からにじみ出ちゃうのよ。あとねえTwitterはやってないよ。と言うか止めたの。なんかさあ、誰かに乗っ取られちゃうんだって。怖いよね」
「まあ、なんでもよろしいが、あまり威厳と存在感がないと、若手にクーデターを起こされますぞ。どうも、旗揚げ当初お持ちだった、カリスマ性が薄くなっているような気がしますぞ!」
「ふふふ、そうか。カリスマ性ねえ。それより、クーデターを起こすような覇気のあるやつがいるなら、条件次第ではこの組織を渡してもいいよ。おいらはまた一から組織を作るのさ。最初ってワクワクするじゃないか。勤勉はついてくるか?」
「お断りしますよ。この歳で、またあの頃のような苦労はしたくありませんな」
「そうなの?」
「当たり前ですよ。だって、組織の首領が人前に出れないなんてこと普通はありえませんよ。ほとんど、私たちが他の組織やら、官公庁の上層部、危ない団体のトップと交渉したんですよ。東奔西走とはまさしく、あの頃のことです」
「かっぱくんはさあ、結構おもてに出てたのにね」
「かっぱくんは『ゆるキャラ』で押し通せますから。彼はよく、いたずらっ子や、疑い深い大人に後ろへ回られて、チャックを探されていました。ははは」
「愉快だなあ。かっぱくんは。それはそうと、北陸宮の学習状況はいかが?」
「正直に申し上げます。このままいくと、ぺこりさまを超える大器になりそうです」
「そいつはすごい。初めの会談の時の白痴ぶりを思うと、まさに奇跡だな」
「学問の方は大学入試レベルです。ぺこりさまのご了解がいただければ、来年にでも実際に大学入試をされてもいいかと」
「学習指導要領変わるけど、大丈夫?」
「まったく、問題なし。英会話はぺこりさまのお連れになったアインシュタイン先生がネイティブにしてしまいました。おかげで、物理、化学系にも精通しました。これは大学院レベルではないかと感じ入っております」
「まったく、受験に異議なしだ。ひらがなしか読めなかったのになあ。すごい潜在能力があった上に、皆の指導がよかったんだな」
「恐れ入ります」
「武芸の方は、どう?」
「いやはや、三十五の御歳まで、ほとんど動いていなかった方とは思えません」
「こっちもすごいのか?」
「剣は抜刀、弘樹のお墨付き。柔道、空手、弓道も及第点。これらについては、ちょっと一流には及びませんでした」
「まあ、すべて一流とはねえ……」
「申し訳ございません。ただ、面白いのは忠仁さまが蛇腹をいたくお気に入りのようで」
「はあ? あの小悪党にか」
「はい。初めは暗殺などの卑怯な行為を嫌われていましたが、蛇腹めが『忠仁さまは高潔だから、暗殺は嫌だろ。でも、考えてござんさい。戦争で駆り出された普通の人たちが止むを得ずたくさん殺しあうよりも、俺がたった一人の敵の親玉を殺す。その方が結果的には悲しむ人が減るんじゃないっすか』と言ったらしいのです。忠仁さまは、なぜかその一言にとても感動して、蛇腹の手を取り、『今まで、辛い思いをしてきたのだろう。わたくしも同じだからわかる。どうか、わたくしの側にいつもいてはくれないか』と涙ながらに仰ったそうです。蛇腹のやつ、珍しく心を打たれたらしく、今では忠仁さまの用心棒気取りです」
「蛇腹がなあ……なあ、あいつめ、おいらを暗殺に来ないだろうな?」
「さあ、どうですかねえ?」
「おいおい、あいつに狙われたら、おいら絶対殺されるぞ。あいつに首領は誰かよく言って聞かせてね」
「それはどうでしょうか。余計なことを言うと逆効果では。蛇腹はぺこりさまと同じで、へそ曲がりですからね。まあ、ぺこりさまが忠仁さまを大切にしていれば、まずは安心なのでは?」
「そ、そうか! よし、今日は忠仁さまの学習効果を祝って、おいら主催の大宴会としよう。皆にいうのだぞ。忠仁さまのためにこの、よろしくま・ぺこりが開く大宴会だよ」
「はいはい、準備いたします」
勤勉は半ば呆れて戻って言った。
ぺこりが身内の暗殺に、ちょっとびびっていた時、世間ではまた、衝撃的な事件が起こっていた。厳重な警戒をしてい他にも関わらず、全国五ヶ所の石油コンビナートが爆破されたのだ。死傷者はまたしても多数。政府はパニック状態になった。そしてついに犯行グループが声明を出してきた。
『日本国政府は海洋資源の破壊を即刻やめなさい。特に石油製品、プラスチック等の不法投棄、海に注がれる河川の汚染、辺野古の埋め立て。この三つを直近の課題とする。我々は海洋を初め、日本国政府の行動を監視している。我々の第一義は海洋資源の保護発展である。まずは、前に挙げた三つの項目を遵守せよ。そうでない場合は全国にある、火力発電所を破壊する。我々の組織は強大かつ緻密である。すでに全ての火力発電所の設計図は入手済みだ。必ずやる。死者が出ても一向に構わない。我々はどこかの惰弱な組織とは違うのだ。ついでに教えてやろう。全国の原子力発電所についても詳細な設計図を入手している。原子力は海洋汚染に繋がるから爆破したくはない。しかし、日本国政府が我々の三つの要求を満たさないならば、見せしめをしてあげよう 海洋保護組織 ぼく』
福島の悲劇が凶悪なテロリストによって再びおこる可能性が出てきた。どうするんだ、阿呆晋三!
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