第21話 捜査一課の執念
警視庁捜査一課長、新丸子安男は今回の連続テロ事件について、全然収穫が上がらないので、幹部連中から、やいのやいの言われていたが、天性のメンタルの強さで、それらを受け流していた。そして、今はなぜか東急東横線の路線図を見ながら、ブツブツと呟いている。
「うーん、流石に横浜はないだろう。妙蓮寺、中目黒、多摩川? 祐天寺係長は亡くなってしまったけれど、俺も含めて、苗字三文字が多すぎるよな。となると、渋谷かな? うんきっとそうだ」
何かに納得している、新丸子。そこへ、
「課長何サボってるんですか? 東京に続いて大阪まで破壊されたと言うのに!」
日吉慶子が怒りながらやってきた。怒った顔もかわいいなあ。いや、そんなこと口にしたら五秒で殺される。新丸子はキリッとした顔になった。
「日吉、俺は遊んでいるわけじゃない。新任の警部、つまり係長のことを考えていたんだ」
「ああ……でもなんで、東横線の路線図を見ているんですか?」
なぜか、しらけた雰囲気が辺りを漂った。
「ああ、間違えた。警視庁人名録、部外秘をね」
慌ててラックを探る、新丸子。そこへ、
「ちわーす。今度、こちらに配属になりました、大学学都(だいがく・がくと)警部でーす。よろしくです。ニックネームは大学芋なんですけど、ガクトって言ってもらえると嬉しいでーす。あれ、随分と美人な方が二人もいらっしゃるんですね。嬉しいな」
(なんだこいつは……綱島以下のバカじゃないか? それにしても二駅をくっつけるとは作者も苦心しているなあ)
新丸子の心の声である。そして、日吉はセクハラだと怒って、大学を殺すと思われたが、
「日吉慶子です。よろしくお願いします」
と笑顔で挨拶と握手をして、新丸子にはそれほど美人とは思えない、小杉も、
「なんか、褒められて嬉しいです。わからないことはいろいろ聞いてください」
と握手している。女心はわからない。
反町や白楽も笑顔で挨拶しているが、一見、気の合いそうな、綱島だけが無表情で挨拶している。
「綱島、大学警部と顔見知りか?」
新丸子が聞くと、
「いいえ、全然」
と美しくない日本語で答えた。恐らくは、女性二人に笑顔で挨拶された大学警部に嫉妬しているんだろう。
「ジェラシー〜🎶」
と思わず井上陽水になる新丸子であった。(前回、このジョークのことがわからなかった読者さまは、もう検索をしましたよね? してないの? 学習意欲がないなあ)
「課長、銘抜刀を殺人罪で全国に指名手配しましょうよ」
慶子が提案する。
「いくらなんでもそれは無理だ。具体的な証拠がない」
「あの画像での仕草。あれで十分な証拠のはずです」
「誰かが抜刀を陥れるために、わざとあんな真似をしたのかも知れないだろ。推定無罪の原則を忘れたか?」
「しかし、何か行動を起こさなければ、なにも変わりません」
「気持ちはわかる。だがな、奴らは『悪の権化(仮称)』というふざけたネーミング以外、何も証拠を残していない。それに、大阪を襲撃したロボット怪獣。その犯行声明さえ出していない。もしかしたら、他のテロリストが名前だけ借用している可能性だってある。正直、身動きが取れない状態なんだ」
「でも……」
「考えても見ろ。やつらが殺害したのは警察関係者三人だけ。そのうち、祐天寺係長の遺体は発見されていないんだ。これって、本当にテロなのか?」
「建造物を破壊しています」
「うーん、ということは主たる罪は建造物破壊ということになってしまう」
「何言ってるんですか! 三名も殺害したならば、死刑ですよ」
「それは、一人で三人殺害したときだろ。『永山基準』だ」
二人がもめているところに、反町が飛んできた。
「蒲田の望遠鏡マニアが横浜方面に着陸しようとしているロボット怪獣を撮影したと申し出てきたそうです」
「横浜方面だと」
「ああ、やっぱり、あの水沢家が怪しいわ」
「よし、小杉は電話番だ。俺も横浜に行く。全員支度しろ」
「はい」
捜査一課は動き出す。
新丸子はテキパキと指示を出した。
「大学係長に白楽は蒲田の目撃者に話を聞いて来てくれ。その後は追って調整する。残りは俺についてきて、野毛を徹底捜索だ……あれ?」
「どうしました?」
慶子が尋ねる。
「大学係長。きみのキャラクター的にはさあ『僕、慶子ちゃんと一緒がいいです〜』とかぐずらないの?」
「はあ? キャラで人を判断しないでほしいっすよ、課長。それに日吉さんは、初見で、相当な武芸者とお見受けしました。それで、握手して確信しました。僕日吉さんには殺されたくありませ〜ん。それに日吉さんは課長のことが……」
「それ以上言ったら、殺す」
慶子の手刀が大学の首筋に入った。
「はい。かしこまりました」
大学が固まる。
(大学学都係長。すごい人物眼だ。かなりチャラいけど。しかし、こうなると、綱島の存在価値がなくなるな。作者に殉職させられるかもしれない。カワイソ)
新丸子は内心で呟いた。
大学と白楽は蒲田に住む望遠鏡マニアの家に行った。無職だという男は昼間から在宅していた。
「僕、星空を見るのが好きなんですよ」
「ほう」
大学がキャラに似合わぬ厳しい目をする。
「そしたら、午前四時ごろ、ピカピカ点滅するものが現れたんです。最初は飛行機かと思ったんですが、やけに大きかったんですよ。ジェット機はその時間、飛びませんからね。おかしいと思って、写真と動画を撮影しました」
「それを任意で提出してくれるかな?」
「いいですよ。ああ、ここでも観れますよ。機材はばっちりそろってますから」
「そう、じゃあ拝見させてもらうよ」
大学と白楽は動画を観た。
「確かに、大きな光が横浜方面に行ってますね。白楽さん」
「そうですね、係長」
「じゃあ、悪いけど、証拠物件として提出してもらうよ」
「ああ、いいですよ」
「ところでさあ」
大学は恐ろしい顔になった。
「なんですか?」
「蒲田でさあ、星なんて見える?」
「えっ?」
「ここまで駅から歩いてきたんだけどさあ、この家の隣の建物。女性看護士さんの寮だよね」
「…………」
「ちょっと他の動画も見せてもらえるかな?」
「えっ、そ、それはちょっと……そ、捜査令状ないでしょ!」
「あのね、現行犯に令状はいらないの。白楽さん、動画を再生して!」
動画にはストーカー的なものや、部屋で着替える看護士さんが映っていた。
「はい、一丁あがり〜。白楽さん、所轄に連絡をお願いします。ああ、怪獣ロボットの動画、ありがとね。減刑嘆願してあげなくもないよ」
大学はニヤリと笑った。
横浜市中区野毛町に来た、新丸子一行は、住宅街で聞き込みをしてみたが、住民は一様に目撃を否定した。前回、慶子が聞き込みに来た時は、もう少しフレンドリーであったのに、今回はなぜか、妙に口が固い。警察に否定的な家庭もある。そこで、慶子は閃いた。
「あちらのお宅の奥さんなら、よく喋るわ。確か、秋山さんだった」
秋山宅に向かう、慶子。しかし、そこには家はなかった。更地になっている。
「えっ?」
驚いて向かいの家に秋山さんのことを訪ねてみる。
「ああ、なんかねえ。急にご主人がアラスカの水産工場長に左遷になったらしいわよ。奥さんも一緒じゃなければダメだって会社に言われたんですって。アラスカって春夏は寒いのかしら? それとも、いい気候なのかしら?」
「さあ、私もわかりませんね。ところでご主人のお勤めの会社はどこか、ご存知ですか?」
「ええと、昔、大洋漁業って言ってたところよ。ほら、ホエールズのね。今はカタカナになっちゃったから……ごめんなさい。思い出せないわ」
「大丈夫です。ありがとうございました」
慶子は一礼すると辞去した。
「そうかあ。ダメかあ」
慶子の報告を受けた新丸子は少しがっくりしたようだ。隣町の花咲町、老松町、福富町、宮河町に聞き込みに行っていた反町、綱島からも色よい返事がない。
「何か、前回聞き込みに来た時より、住民が非協力的なように思えるんです」
「気のせいじゃないのか?」
「いちばん、お話を聞かせてくれた秋山という家は建物ごとなくなっていました」
「うむ。それはちょっと偶然にしてはタイミングが良すぎるな」
「ご主人はマルハニチロの人事部長だったようですが、急にアラスカ水産工場長に左遷されたそうです。ずっと人事、総務畑の人だったようです。電話で対応してくれた人も不思議がっていました。おかしいですよね?」
「おかしいな。でも、マルハニチロだろ? そうそうヘンテコな人事はしないだろう」
「何か、強力な圧力でも……」
「うーん。わからんな。とりあえず、神奈川県警に連絡して県下での聞き込みを要請しよう。それから、お前が言っていた、水沢さんの屋敷に俺も行ってみよう。大勢で行くにはまだ時期が早すぎるから、反町と綱島は外で見張ってろ」
「はい」
そこに、大学係長と白楽刑事がやってくる。
「おお、お疲れさん。ああ、そうだ。大学係長もちょっとついて来てくれ」
「はあ、どこでやんすか?」
「ど根性ガエルかよ! 水沢っていう、ちょっと変な屋敷だ」
「がってん承知の助」
「係長よ、テンション上がってないか?」
「いや、こんなもんですよ」
「ああ、そう……」
三人は水沢の屋敷に向かった。
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