第20話 大阪府民の喜怒哀楽

 カッパーキングの襲撃から一夜明けた大阪。被害の詳細がわかってきた。消滅したのは大阪府新庁舎、大阪城、通天閣、そしてなぜか兵庫県の阪神甲子園球場であった。

 大阪府民が一番悲しみ、怒りをあらわにしたのは甲子園球場の破壊で、みな口々に、

「阪神、どないなるねん」

「藤浪、行けるのか?」

「マルテ、打てんのかいな?」

 となんかズレたことを言っている。

 大阪城や通天閣については、

「立て直せばええんや」

 と気にしたそぶりも見せず、

 大阪府庁に至っては、

「ざまあ、晒せ」

「不味井一郎(まずい・いちろう)いい気味や。これでW選挙なんて、たわけたこと言ってられんぜ。ガハハ」

 と府知事を罵っていた。

 全体的に大阪はお祭りムードになっていた。ちょっとテンションが高くなっているようだ。もともと、テンションが高い人たちだからこれはちょっとまずい状態で、あちこちで、喧嘩騒ぎが起きて、大阪府警は大わらわであった。だが、府警の幹部は今回の襲撃で人的被害がなかったので、あんまり緊張感がなく、

「許しがたい事件ではありますが、大阪再生の契機にしたいですな。万博もありますから」

 と府警本部長はのんきなことを言っていた。

 怒り狂っているのは、不味井大阪府知事で、

「なんやねん、この事件は。東京さんがとっとと解決せんからあかんのや」

 と吠えて、御局百合子(おつぼね・ゆりこ)東京都知事と一触即発となった。


 ぺこりたちが乗った、カッパーキングは夜明け前に帰って来た。一応、地上に降りてひと暴れできるように四本の足は歩行可能でなおかつ、キャタピラーもついているのだが、実戦は今回が初めてだし、あまり、機能を見せすぎると研究される恐れがある。今回はなぜか出てこなかったが、自衛隊がスクランブル攻撃をして来た時に、耐えられるのかの検証もできていない。さらなる研究が必要である。それに、エネルギーであるバッテリーにも考える余地がある。スピード的には、大阪まで一時間ほどであった。攻撃に二時間、帰還に一時間。四時間のフライトを楽しんだわけだ。バッテリーの余裕は二時間だった。これは少し、心もとない。仮に戦闘が発生したら二、三時間はかかるだろう。そうしたらカッパーキングは電池切れで哀れ転落。乗員皆死亡である。まずはバッテリーの持続期間の長期化と、予備のバッテリーを用意して、交換できるようにしなくてはならない。

「仲木戸科学技術庁長官、鈴虫くん、さらなる研究を頼むね」

 ぺこりは激励した。

「はい」

 二人は最敬礼した。

「さて、将軍たちの会議をしようか」

 ぺこりは帰還したばかりの将軍たちに告げた。

「かしこまりました。準備をいたします」

 目端のきく、真実が返答をした。正直、カッパーキングに乗っていた将軍たちは疲れて、眠たかったのだ。ところが、ぺこりは不眠症なので眠気が全くない。そこへ、

「ぺこりさん、無事におかえりなさい」

 と舞子が現れた。

「おう、舞子。変わったことはなかったかい?」

「ええ、大丈夫。それにしても将軍方は眠そうでらっしゃるわねえ」

「ああ、そうか。自分本位に考えてしまった。真実! 会議は夕方だ」

 ぺこりが叫ぶ。

「はい」

 将軍たちは舞子に感謝した。

「さすが、舞子だ。気が利くな」

「それがあたしの務めだと思ってるわ」

「そうか……もし、妹が肉体を持って生まれていたら、舞子のように振る舞えるだろうか?」

「もちろん、お振る舞いになれるわ。でもクマだから、あたしのようには自由に動けないわね。でもね、ぺこりさん。あたしの心の中にはいつも、妹さんの魂が入っているのよ。つまり、あたしはぺこりさんの実の妹」

「そうだな。その通りだ。妹が舞子の方にいるおかげで、おいらは気兼ねなく悪の権化ができる。幼少期は、おいらが悪さをしようとするたび、妹が引き止めていたんだよ」

「難しい、お心とお体を持って、ご苦労されたのね」

「いや、不動明王様のご加護と八大童子様方のご足労で、なぜか人間扱いされて、勉学ができた。素晴らしい知己を得て、この組織も作れた。一番は舞子と出会えたことだな」

「まあ」

 はたから見ると、リアル『美女と野獣』である。ぺこりにかけられた魔法が解けて美男子な王子様になることは絶対にないが……


 夕刻。

 十二神将が揃い、ぺこりの御前会議が始まった。

「皆、お疲れであろうな。ご苦労さん」

 ぺこりが労う。すると、午の将、勝栗洋三が、

「私は最近、何の働きもしておりません。ヒマで仕方ありません」

 と申し出た。続いて、

「オラもですだ」

 と申の将、門木鳶山も泣き言を言い、

「ワタシモデス」

 戌の将、ワン・メンタンも目からお酢のような涙を流した。

「あたいだって、おんなじよ」

 亥の将、座間遥は怒っている。

「まあまあ、泣くな、怒るな。おいらたちの戦いはこれからが本番だ。今までは要領のいい者たちを使いがちだったが、これからは武力が大切になってくるんだよ。わかった?」

「はっ」

「でね、今夜はとっても大事な話をするんだけど、その前に、おいらにはやらなきゃならないことがある。ちょっと、待ってて」

 そういうと、ぺこりは後ろに振り返り、天を向いて語り出した。

「読者の皆様、よろしくま・ぺこりでございます。ええと、作者の方のよろしくま・ぺこりが、主人公のよろしくま・ぺこりの体に憑依して、お話ししております。実はですね、これから日本で一番高貴なお方の名誉を傷つけるような記述がございます。しかし、ここが大事です。この小説は、フィクション。エンターテインメント。ギャグの小説でございます。ですので、現実と混同して、非難や炎上などさせずに、大ウソの小説と考えて、おおらかな気持ちでお読みください。万が一、不愉快に感じられましたら、読むのをおやめください。そんなに価値のある小説ではございません。では、よろしくおねがいいたします。作者のよろしくま・ぺこりでございました。では、主人公のよろしくま・ぺこりに戻らせていただきます」


「ああ、待った。ごめんね」

 振り返ったぺこりが謝る。一同はしかし、何が起こったのかわからず、戸惑っている。

「今のことは、頭から消して。マシュマロは関係ない。本文と関係ない。でもとっても食べたいなあ」

「歌詞が増えています」

 真実が言う。

「歌詞と菓子をかけたな。山田くん、座布団一枚」

 すると、赤い着物を着た小さなおっさんが真実を椅子からひっくり返して座布団を置いた。

「何だ?」

 ぽかんとする真実。

「各々、ゆめゆめ、御油断なきように」

 ぺこりが笑いながら言った。

「ぺこりさま、そろそろ真面目にお願いします」

 重鎮、関根勤勉が諭す。

「うぬ。では話す。長いぞ。えーと、今年の四月を持って、今上帝はご退位なされ、皇太子様に御譲位されると言うのが、まあ一般に知られていることだわな……」

「なぜに、一拍置きます?」

 勤勉が尋ねる。

「ごめん。喉が渇いちゃって。舞子、ダイエットコーラ持ってきて」

 舞子が持ってきたダイエットコーラを一気に飲んで、ぺこりはむせた。さらにゲップが止まらない。

 将軍たちはなんとなくぺこりが話しづらいのだと気が付いた。

「ゲフッ。やあやあ、お待たせ。では核心に入ります。今上帝のお子様は何人ですか? 出番がないとぼやいていた、洋三くん」

「えっ、ひっかけ問題ですか?」

「違うよ」

「では、御三方です」

「うん。普通はそう答えるよね」

「それは、どう言うことですか?」

「実はね。これは陛下と、宮内庁でも二人くらいしか知らないんだけれど、黒田清子様から十五歳離れた宮様がいるの」

「えー!」

「なんと言うこと」

 一斉に驚きの声が上がる。

「なんで、ぺこりさまは、そんなことをご存知なんで?」

 勤勉が尋ねる。

「そりゃあさ、宮内庁にだってウチの人間が密かに入ってるさ。その者がね、その宮様の配膳係を申しつけられたのさ。初めは、どなたかわからなかったらしい。誰も教えてくれないからさ。でもね、ある日、陛下がそっとお見えになったそうだ。そこでのお話で全てがわかった。言ってみれば宮様は幽閉されているのさ」

「はあ」

「その知らせをおいらにした後、配膳係は行方知れずだ。かわいそうに……」

「で、ぺこりさまはどうしたいので?」

「宮様を救出して差し上げ、自由の身にして差し上げる」

「その宮様は皇居のどちらにおられる。お名前は?」

 勤勉がまくし立てる。あとの者は口が出せない。

「場所ねえ、わかんない。お名前は北陸宮様といわれるようだ。理由は知らない」

「皇居の地図などあるのですか?」

「ごめん。全然わからないよ。だから十二神将が結集して、北陸宮様を救い出して欲しいの。頼みます」

 ぺこりが頭を下げた。こんなこと今までない。

「わかりました。しかし、宮様を御救いしてどうされるのですか?」

 勤勉が問う。

「うん、内閣総理大臣になっていただく」

 会議室は騒然となった。

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