第4話 お布団の権化

 悪の権化、よろしくま・ぺこりは大豪邸の端っこに四畳半の部屋を作り、そこにお布団を敷いて寝転んでいる。周りはガラス張りだがマジックミラーになっており外からは何も見えない。ぺこりはダラダラと文庫本を読んでいる。題名はわからないがフランス書院の本ではないようである。


 そこへ、総女中頭の水沢舞子が現れる。

「おお、舞子。どうした?」

「ぺこりさん、戦闘員Aさんがいらっしゃいましたよ」

「ああそうか。こちらに通しなさい」

 舞子はなぜか唯一、ぺこりをさん付けで呼ぶ。ぺこりも別に気にする様子はない。何か深い理由があるのだろうが、ここでは言わない。いいネタが思い浮かばないからである。

「失礼します。戦闘員Aであります。お召しにより参上致しました」

「おお、よく来た。寝たままでごめんね。きみも座ってくれ。ダメダメ、正座なんかしたらダメだ。あぐらでいいよ。じきに舞子がお茶でも持ってくるだろう。それとも酒がいいかい? おいらは下戸というより、飲むと野獣になってしまうので飲めないんだ。ははは」

 そこへ、舞子が来て、抹茶と和菓子をおいた。

「ありがとうございます。舞子さま」

「どう致しまして。緊張は無用よ。ぺこりさんは優しいから」

「はっ、存じ上げております」

「ああ、若い衆の楽しい会話を邪魔して悪いが、本題に入るよ」

「はっ、失礼しました」

「うふふ」

 舞子は去って行った。


「戦闘員Aくん。きみは抜群の肉体と頭脳を持ち、指揮官としての能力も高いと、おいらはじめ、首脳陣は判断をしたんだ」

「ありがとうございます」

「でね、きみも知っていると思うけれど、我が軍は十二軍に分かれていて、それぞれ、将軍がいる」

「はい」

「今回、長年辰の軍を指揮していた、星野彼方(ほしの・かなた)将軍が病状回復せず亡くなってしまった。惜しい男だったな。で、その代わりをきみにやってほしいの」

「わ、私が辰の軍の将軍でございますか?」

「そだよ」

「あまりの重責です。辞退をさせてください」

「まあまあ、深く考えないの。辰の軍には良い重臣、参謀がいるから、慣れるまでは、彼らのいうことを聞いていればいいの。それで、自信がついて来たら、賄賂とか密かにとってるやつの頸をさあ、スパッとはねちゃえば綱紀粛正、部下のモチベーションも上がるってわけ。だから、安心して任務についてよ」

「私ごときでよろしいので?」

「もちろんさ。我が組織はさ、案外有能な人材がいないのよ。きみは貴重な財産だよ」

「な、ならば、僭越ながらお受けいたします」

「よし、OK。じゃあ、お菓子を食べて帰ってね……ああ、忘れてた。きみ、名前は?」

「竹馬涼真(たけうま・りょうま)です」

「うぷぷ、お馬さんが、辰の軍の将軍かあ。まあいいや。よろしくね。おいらは文庫の続きを読むので、さようなら」

「はっ」


 その時、新丸子捜査一課長をはじめとする三人は、畳かえすのマンションに来ていた。

「いやあ、素晴らしいお部屋だ」

「そうっすね」

「畳さま。今回の弟さまの事故死について、深くお詫び申し上げます」

 慌てて、二人も頭を下げる。

「いいのよ。事故なんだから。あの子だって、小説の中で何人も殺しているんだから」

「あの、一つだけお伺いしたいことがあります」

 慶子が言う。

「なぜ、あの廃病院に絨毯さんは幽閉されていたのでしょう?」

「ああ、あれね。あれは、次回作のための実験よ」

「実験?」

「でも、手酷く怪我をされていましたが?」

「あれね、メイク。知り合いにハリウッドで働いていた人がいるのよ。ハリウッド化粧品じゃないわよ。メイ牛山先生ね」

 キョトンとする、慶子と綱島。

「若いわね」

「もう一つだけ。先生のご本、読ませていただいたのですが……なんでしょうか? 絨毯さんの作風が……」

「あなた読書家?」

「まあ、普通です」

「ならね、書庫の本、みんな差し上げるわ。初版本よ。メルカリにでも出品したら?」

「えー、ほんとーですかー」

 綱島が走り出すと、

「あんたじゃないわよ」

 とかえすに足を出され、豪快にすっ転んだ。その時、指に獣の毛が絡まった。

「先生、いぬかねこを飼っています?」

 尋ねる綱島。

「いいえ、あたしは動物アレルギーなの」

「そうですか」

 手を払おうとする綱島。それを慶子がそっと止める。

「重要証拠よ」

「では、失礼しようか」

 新丸子が言って、三人は部屋を出た。

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