第2話 畳絨毯の嘘

 警察庁と警視庁の爆破は事前にインターネットで予告されていたため、建物は全壊したが犠牲者はおろかけが人すらいなかった。いや、犠牲者はいた。警察庁長官と警視総監の二人が事件直後から行方不明となり、現場が百人体制で捜索されたが、全く見つからなかった。口さがない新丸子などは「二人は実はLGBTで不仲のふりをして、この機に逃避行したんだろう。どのみち責任は逃れられないからな」などと慶子に言って、嫌な顔をされていた。


 警察庁長官と警視総監は本当に二人でいるところを発見された。場所は靖国神社。彼らは白装束で、お互いの心の臓を白刃で貫いていたのだ。慌てて、警視庁の警官たちが来て、ブルーシートで周りを覆い隠し、現場検証に入った。

「責任とっての自決ですかね?」

 のんきに綱島が話すと、新丸子がその頭を叩いて、

「な、わけないだろ。誰が白装束なんて持ってんだよ。夜中に着物屋がやってるか? 刀剣なんてどこで買うんだよ」

 と怒鳴った。

 鑑識がやってきた。

「どうだ?」

「それが……わからないんです。お互いに刺しあったのか、誰かが後ろから介添えしたのかが」

「うーん。じゃあ、刀剣と白装束の出所を当たるしかないな。祐天寺係長、若いの三人くらい連れてそっちを当たってくれ」

「はい」

「課長、畳先生の聴取の時間です」

「よし、渋谷警察署の臨時警視庁に戻ろう」

「はい」


「ねえ、絨毯」

「なんです、姉さん」

「わかっていると思うけど、余計なことは言っちゃダメよ」

「うん、わかってます。我々姉弟の秘密は一切喋りません」

「それに、あの方のこともね」

「はーい」

「あなた、あの方をバカにしているみたいだけど、恐ろしい方なのよ。気をつけて」

「あんな、ゆるキャラみたいなやつに、姉さん、何を怯えてんだい。笑えるよ」

「絨毯!」

「じゃあ、警察に行ってきます。ピーポーピーポー」

 ここは、江東区にあるタワーマンションの最上階。畳絨毯は姉の畳かけるとここに暮らしていた。さすが、超人気作家である。

「どうも、絨毯は調子に乗りすぎているようですね」

 突然、野太くそれでいて優しい声がした。

「ああ、大元帥様、いらしていたのですか?」

「大元帥はやめて! おいらはぺこり。よろしくま・ぺこり」

「では、ぺこりさま、ジュースでも差し上げましょう。どうぞ、おくつろぎください」

「できたら、ゼロカロリーでね! 太っちゃってしょうがないんだから」

「はい、どうぞ。ところで、作戦はうまくいきましたね」

「でもねえ、かけるちゃん。やりすぎだよ。二人も殺しちゃうんだもの。おいら、殺人は嫌い」

「すみませんプランニングの原稿を書いていたあの日、横溝先生の小説読んじゃって。おほほ」

「今後はプランニングの前には横溝正史は読んじゃダメ!」

「すいません。でね、ぺこりさま。あたし、今の生活が嫌になってしまったんです」

「どういうこと?」

「あたしが書いた小説を絨毯が書いていることにして発表していることです」

「でもさ、かけるちゃんが、表舞台に出るのが恥ずかしいって言って、こうなったんでしょう?」

「はい。そうなんですけど、このところの絨毯の調子の乗り方を見ていると、なんだか悔しくて」

「なるほどねえ。わかるわかる。じゃあ、絨毯を消しちゃおう」

「えっ、殺人はお嫌いなんじゃないですか?」

「殺しはしないよ。事故でさ、不幸な死を迎えてもらうのさ」

「そんなことはできますの?」

「ウチの組織にはいろんなプロがいるからね。詳しいことは言えないけど、かけるちゃんすら事故だとしか思えない方法でね。あとは言わないよ」

 ぺこりはダイエットコーラを飲んだ。


 まさか、この時、拳銃の暴発で事情聴取中の畳絨毯氏が即死していたなどと、かけるは思いもよらなかった。

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