悪の権化
よろしくま・ぺこり
第1話 よろしくま・ぺこりの逮捕
新宿歌舞伎町から道を一本……いやあ、二本かな? 三本かな? とにかく数本離れたところは想像外の暗さであり、のらねこ一匹いないという寂れたところであった。
そこには数年前に潰れたという病院が壊されずに残っていた。ホラーファンには垂涎の場所であるが、後述の理由のため、誰も近づかないという。建物に向かう庭や通路はきれいに掃き清められている。土地管理者が真面目なのかな? と警視庁捜査一課第一係の日吉慶子(ひよし・けいこ)巡査部長は思った。場所は覆面パトカーのなか、他には捜査一課長、新丸子安男(しんまるこ・やすお)警視正、慶子の同僚、綱島泰彦(つなしま・やすひこ)巡査部長が運転席に座っている。
「こんなところに潜んでいたとはな。さすが、天才なのかバカなのかわからないやつだ」
新丸子は煙草に火をつけながら、ニヤリとした。
「課長、煙草はやめてください」
慶子が睨む。
「はい、すいません」
素直に新丸子は火を消した。
「なんか、ホラーファンが侵入してふざけそうっすね」
綱島が軽い口調で言う。最初に言っておくが彼はバカである。
「ところがね。この病院に侵入したものは全て、謎の奇病に罹って必ず死ぬって、ネットで流れているの」
「えー、じゃあ僕たちも入ったら死んじゃうじゃないですか!」
「バカか。やつの撒いたデマに決まっているだろう」
「本当ですか?」
「お前、大学出てるんだよな?」
「はい。東大法学部大学院です」
「えっ、じゃあなんで国家試験受けなかったの?」
「はあ、その日、大好きだったねこのミーちゃんが死んじゃって、悲しくて悲しくて涙も出ないほど悲しくて」
「布袋寅泰ですね。綱島くん、著作権違反よ」
「お前はキャリアにならなくて良かったようだな」
「そうっすね」
「課長、無駄に時を過ごしています」
「そ、そうだな」
「しかし、私たち三人で大丈夫なのでしょうか? 応援の必要は? それに、やつは公安部が追いかけている事案です。のちに問題にはなりませんか?」
「うるさい。公安の山城が俺は大嫌いだ! あ、大声出して、ごめんね。パワハラじゃないから。ゴホン、情報によると、やつはお気に入りの女優と二人でいるようだ。人数に問題はない。見つけ次第、三人で射殺する」
「えっ、いきなりですか?」
「当たり前じゃないか! でなきゃ、俺たちが殺される」
「はあ?」
「もしかして日吉くん、やつのこと知らないの?」
「知っています。自称『悪の権化』ですよね」
「それだけじゃ、不十分だよ。やつは人間じゃない。凶暴なクマだ。しかもI.Qが1000もある。人の言葉も喋れるんだ」
「怪物ですか?」
「クマだ」
「そうだったんですか……」
「よし、時間だ。やつを倒し、警視総監賞をもらうぞ」
三人は車を降り、玄関へと入って行った。
鍵はかかっていなかった。
「気をつけろ。やつの罠だ」
そっと扉を開ける。中は真っ暗だった。
「ライトをつけますか?」
「いや、赤外線レーダーを使おう」
新丸子が行った時、
「うわあ」
綱島が叫んだ。
「ひ、人が椅子に繋がれています」
「ライトをつけろ!」
そこにはひどく傷つけられた男性が椅子に繋がれていた。猿轡をはめられ、目隠しされていた。
「日吉、早く外してあげるんだ」
「はい」
男は息も絶え絶えのようであった。
「大丈夫ですか?」
「なんとか……」
そこに、また綱島が奇声をあげる。
「なんだ、うるさい!」
「こ、この人、有名なミステリー作家、畳絨毯(たたみ・じゅうたん)先生ですよ!」
「はあ?」
その時、新丸子の無線が鳴った。
「はい。404号。……まじかよ! 警察庁が木っ端微塵に爆破されたって!」
なぜか、新丸子は嬉しそうに見える。しかし、今度は新子安のスマホが鳴った。
「はい。……け、警視庁も、木っ端微塵……しかも、やつからの犯行声明が出ただと!」
新丸子「はがっくりと膝を落とした。
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