未来の愛娘

 あなたは絶対に失敗すると

 未来の愛娘に宣告された

 子も伴侶も持たず

 道半ばというにはもう遅すぎる私に

 未来の愛娘は断罪を下した

 あなたは絶対に失敗すると


 子どもの頃は

 失敗は日常を多層化した

 新たな断面を見つけて

 世界は奥深さを増していった

 年を経ると

 失敗は日常の薄皮を剥いだ

 赤黒い現実は

 垣間見るだけでもおぞましいものだった


 あなたは絶対に失敗すると

 六十七歳の私に

 二十三歳の未来の愛娘が

 老いることを羨むような伏し目をまとわりつかせて

 あなたは絶対に失敗すると

 責め立てるように繰り返し告げた


 生涯の失敗を数えたてた

 砂粒のように尽きせぬ恥辱

 とりわけ大粒の恥辱は

 私の認識が冷たい客観から半歩ずれたとき

 容赦なくつま先をとらえた

 その半歩には私の魂の間違いがあり

 それを指摘されることは

 皮膚をまるごと裏返されるような恥ずかしさを伴った


 あなたは絶対に失敗すると

 恥を知らないような声音で

 未来の愛娘が

 盆暮れの集いの雑事を片づけるようなそっけなさで

 あなたは絶対に失敗すると

 拒むことを捨てた私に愉快げに下知した

 未来の愛娘は

 まだ私の家族ではなく

 微温的な他人でさえなく

 美しい仮面のような相貌だけを顕して

 あなたは絶対に失敗すると

 ちっぽけな神のように託宣だけを述べた

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