第10話:欧州航路で1ケ月の船旅3

 そして、船は、シンガポール・昭南島をめざして、美しい香港島を出発した。

 夜涼しくなった頃、船のデッキを散歩している時に、急に船員が大きな声で

叫んでいるので、船首の方へ行くと、黒い色した、イルカが群れをなして

飛び回っていた。イルカが、船に驚き逃げていくのだった。数十匹、百匹と

、すごい、大群に思わず船から感嘆の声があがった。


 夜になって、科学者のY博士から北斗七星、北極星について説明を受け

、北極星を目標にして、自分たちの今いる位置を知るのに便利だと言った。

 更に、これらの星座は赤道で地平線に、北極では真上に見えて、赤道から

南下すれば見えなくなる事などを教えてもらった。11月下旬でも暑い

くらいの気温であり、夏に洋行するのは、さぞかし暑苦しくて大変だろうと

想像ができた。


 船の旅は退屈で、まだ2週間も経ってないのに、1ケ月異常も経った様に

感じた。その後6日後の午後に退屈しきった乗客は、シンガポールの島々の

姿を見つけ、歓喜の声をあげ、望遠鏡で近づいてくる島々を見ては、また、

歓声をあげた。しばらくして上陸となり、白布を東武に槇、赤腰巻を身につけ

、人を見る眼光鋭い、真っ赤な唇、白い歯、黒光りする肌、大きな骨格の

インド人の群れが船客を見ると大勢のインド人が寄ってきて、大騒ぎをしていた。


 その夜に船に乗り合わせた人達と車に分乗して、市内見物に行くと、この地

は南国でいろいろの花が次々と咲き乱れて、花の絶え間がなく、一年中咲いて

いるとは、素晴らしいことだと感心した。まず、博物館へ向かい、そこでは

食人種や、ゴリラの剥製などがあった。その後、日本人街に向かうと氷屋、

おでん屋、ライスカレー、牛肉の付け焼き、焼き豚、果物屋、古ぼけた

竹ランプを使っていたので日本の田舎を想像した。その後、食堂、飲み屋と

売春宿が一緒になったような得体の知れないレストランに入ると、冷たい

ビールと鶏の唐揚げや魚の揚げ物、ステーキ、南国のフルーツが出された。


 数人の地元の若い女が、我々のグループの男たちを誘う仕草をして、男たち

にまとわりついた。女たちには怒ったような怖い顔をしてにらみつけた。

 それを見ていると、何とも面白いものだ。結局、1時間もしないうちに、

、車に乗り込み、その誘惑の館を後にして船に戻った。


 翌日、昼食後に、グロテスクな程、真っ赤な花の咲く南国シンガポールを

後にし、その後、シンガポール・昭南島を出て6日目にコロンボへ到着した。


 下船して、地元の人力車で市内観光をして回ったが、どこへ行っても、

金をせびるばかりで、見るべきものもなく、船に戻ってきた。

 その後、4日して、紅海にさしかかった、航海中で最も暑いと言われる

所だけあって、冬でも半袖シャツで充分だ。そこからスエズ運河を通り12日

かけてエジプトのポートサイドへ向かった。


 この時代、治安の問題でカイロへの旅行はできなかった。地中海に入り

2日目に1919年の正月を迎え、新年のパーティーが諏訪丸で行われて、

おとそ気分に浸った。もうすぐにナポリやがて最終目的地、フランスの

マルセイユに着くと思うと期待に胸膨らます感じがして、万感の思いが

こみ上げてきた。

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