第9話:欧州航路で1ケ月の船旅2

 Y氏と、佐藤さん、山田さん、池田さんなど、10人で上海港に降り、

対岸には無線電信局、倉庫、多くの会社が軒を並べていた。初めての寄港地

と言うことで少し興奮していた。多くの現地の人達が来るので、財布を

盗まれない用心する様に、言われ、緊張感が走った。


 馬車に乗り、美しい景色と、当たりに漂う独特の臭いを感じながら

、走って行った。フランス公園と呼ばれる所で、降りて、庭園を散策したが

、支那人立ち入り禁止の看板を見ながら歩くと、白人の子供が遊んでいた。


 東洋一と言われる競馬場に行くと競馬で泣く者と、儲けて一旗揚げた者

と分かれ、また、コカインの密輸も盛んに行われているようで、成金も

出ているようだ。地元の公園に行くと、支那人の物売りがうるさく、閉口して

、すぐに馬車に戻った。地元の往来は、どこも混雑して、歩く気がしない。


 そうして、船に戻った、一緒に乗り合わせた日本人同士で集まって、

夜遅くまで歓談するのが楽しみだった。その他には、一緒に乗り合わせた

スイス人から1日30分のフランス語の講義を受けた。日本在住の英国人

宣教師と紅茶を飲みながらの午後の英語で歓談するのも楽しかったが、

発音に厳しく、よく、言い直しを命ぜられるのがめんどくさかった。


 上海を出航して4日後に香港へ着いた。小舟が近づいてきて、この船に

乗り込んで英国人の船先案内人が乗船してきて、港まで案内してくれ、

途中で英国旗を掲げた軍艦、潜水艦、巡洋艦が停泊している姿が見え、

香港は99年間の借地なのだと思い出した。


 近代的な港で立派で香港の町並みは神戸に似ていたが規模と品の良さ

は雲泥の差があった。上海に比べて何となく上品で文化的な感じがして、

やはり英国の統治されているだけのことはあると変に感心した。

 その後、香港島の頂上の見るためにケーブルカー乗り場へと急いだ。

 その後、案内人から切符を買い、45度もある上り坂をものすごい勢い

で昇っていった。ケーブルカーの窓から見る景色は最初に熱帯植物の

うっそうとした風景を見て、次第に香港島の全景が見えてくると、飛行機から

みた景色と同じ景色を見ることができた。見るもの全てが様式で東洋の雰囲気

でない事を強く感じた。やがて頂上で数人ずつに分かれて人力車に乗って、

頂上からの景色を楽しんだ。


 頂上から降りた後は、有名な香港ホテルを見学しに行き、香港ホテル

に入ると素晴らしい白いドレスをまとった白人の貴婦人と天使のような

可愛い子供と共にゆっくりと歩いていた。まさに、ヨーロッパのホテル

にいるかのような錯覚を感じた。その後、植物園を見学すると、ダリア、

朝顔、カンナが咲き乱れて、11月というのに夏のようだった。


 夜になって、香港から九龍島への渡し船に乗ると、香港の夜景を九龍島から

見ようとする観光客を満載にして出発した。10分後、対岸の九龍島に着き、

岸壁から香港島を見回すと全島にきらめく灯火の光が誠に美しかった。

山の上の灯火は星のようで、町の灯りは、きらめく宝石のようで、友人たちにも

見せたいという衝動に駆られるほど素敵だった。全体に、香港の物価は

上海よりも高いと感じた。

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