ゆとくに


 AIというものが世の中の表舞台に出始めて、およそ1年が経過した。

 僕はというとミーハーな質もあり、初期ごろにでた画像生成ソフトの『Midjourney』を使って、思い思いの画像をAIに作らせて遊んでいた。

 特定の英文を打ち込んで、AIに望みの絵を描いてもらうというソフトだ。

 

 最初の頃はあまり思い通りのものが出来ず、もどかしさを感じていたが、最終的には『H・R・ギーガーが書いた○○』という指定をするようになり、それで遊んでいたのを覚えている。

(ちなみに出力されたものは、確かにギーガーが描いたらこうだろうなというものがきちんと出てきたので、非常に興奮したものだ)


 さて、そこから昨今はというと対話型AIが注目されて久しい。『chatGPT』である。これはまるで誰かとチャットで会話するかのようにして、AIに対してテキストで質問を打ち込んで、AIにそれについて答えてもらうというものだ。

 

 調べものならグーグルでも良いのではと、僕も思ったものだが、これが案外便利なもので。

今まで自分が行ってきた、グーグルにキーワードを打ち込み、回答が書かれていそうなサイトを探してくる、という作業をAIが代わりにしてくれて、直接回答をくれる、ということに気づいてからは、ははあこれは便利だと、納得したものである。


 また調べ物以外にも、何とこのソフトは打ち込めば小説も書いてくれるし、プログラムのコードも作成してくれる。

 詳しいことは分からないが、大まかにはこのAIを動かしている者は、ネットの情報であり、AI側のプログラムでその情報を集め、紐づけて回答に対して適切なものを出している……と思う。


 ところで。

 このチャットソフトであるが、趣味の範囲を超えて仕事でも使われるようになってきたらしく、そういった話を知人から聞く機会があった。


 その日、僕とその知人は発売されたばかりの協力型RPGを一緒にしており、通話しながらだらだらと夜中までプレイを続けていた。

 望みのアイテムを手に入れるため、何度も同じダンジョンを二人で潜っており、少しばかりダレ始めてきたおり。

ぽつりとその知人がしゃべり始めたのである。


 以降は、その知人の山田(仮名である)との会話を起こしたものである。


◆◆◆


『なぁ、お前chatGPTて知ってるか?』

「なんや急に。そら知っとるよ。俺もちょろっと触ってみたわ」

『あれよぉ、どこまで信用出来るんかねぇ』

「え」

『ほら、アレも結局、ネットに上がっとる情報使って処理しとるんやろ? せやったらネットに上がっとる情報がデマやったら、アレが出す情報も嘘やないんかって』

「それはまぁ、そうやけどなぁ。う~ん、そこはまだ人間のほうで調整せなあかん部分なんやと思うけどなぁ」


 ぴんぽーん


「インターホン鳴ってるで」

『いやいやええよ』

「ええんか……?」


 ぴんぽーん


『えぇ、えぇ、あれは出んほうがええやつや。それで話し戻すけど、仕事でな、ああいう対話型のチャットツールを使うことになってなぁ。新人教育用の資料作るときに、分からなさそうな言葉をツールに打ち込んで回答を写して資料を作るんやと』

「なんやそれ。辞書でも作るいうことか?」

『そうやな。ほら、言うてゲーム業界て専門用語多いやん。IKやのリグやのボーンやのルートやの……』

「まぁ、そうやなぁ」

『あとはクライアント、みたいな開発方言もあるやろ。一般的な会社やったら取引先みたいなニュアンスやけど、ソシャゲやったら端末側のプログラムのこというたりするやん』

「あー、あるなぁ。そういうのん。一般的な意味とは違う意味になってるの」

『やろ? まぁ、その辺込みで社内用の辞書作ろうってことになったんよ。でもイチイチ調べるんのも大変やから、チャットツールにキーワードを打ち込んで出てきた回答をエクセルに張り付けたらどうや、って話が出てな』

「それで行けるかもしれんけど、でもさっきの話やないけど、どのくらい信じてええもんか……」

『そこやねんなぁ……。まぁ、とりあえずベテランに中身見てもらって、修正せなアカン所は直してもらうことにはなってるねんけど。なーんかな……』

「いやでも、それが今風なんかもよ。俺もchatGPTにUnityのプログラム一部書いてもらったけど、何や普通に動きよったし」

『マジか。それ大丈夫なんか』

「そんな長い処理やないから大丈夫っぽいな。複雑で長いのを書かしたら無駄な処理が入るっぽいけど」

『へぇ……』


『そういやさ。お前、そういうAIの怪談とかなんか知らんの?』

「急やな。いや知らんけど」


『ほな、【ゆとくに】って知っとるか?』


「ゆとくに? なんやそれ」

『知らん』

「はぁ?」


『そのチャットツールが答えたんや。――俺も仕事で使うから、ちょっと家で一人で触ってみたんよ。なんか適当に答えさしたりしとってな。まぁ、それはこなしよるわけよ。でも、もうちょっと違う事も出来るって聞いてたから。ほら、小説書いたりできるって』

「らしいなぁ」

『なんやビビってんのか』

「さすがにまだ負けへんやろ」

『フフッ、せやな。まぁ実際かなり文章はかなりぎこちなかったわ』

「やろ?」


『なに安心しとんねん。いやまぁ、ほんでや。物の試しで最近ちょっと肩が凝ってきて、疲れがたまってるから何とかしてほしいってそのAIに聞いたんや』

「ほう」

『ほんなら、早く寝ろとか、枕替えろとか布団がどうのとかって言って来よってな。いや、そんなんは分かってるねんと。もっと、簡単に楽になれる方法は無いんかと。どんな方法でも良いって。ほんならな、瞑想やら自分の今の心情を紙に書き出すとかそういうのんに混ざって、


【ゆとくに】いうおまじないがあるって言いよったんや』


「ゆとくに……聞いたことないな」

『やろ? 俺も調べたけど、そんなもん引っかからんかった。さっきの文章がぎこちないの話やないけど、AIがおかしなったんかなと思ってな。いじわる半分で【ゆとくに】て何ですか、って聞いたんや』

「答えたんか?」


『おう。それがつらつら言いよるんや。

まず自分自身を後ろから見てるようなイメージをする。

次にそこからずーっと家の玄関まで戻っていくような想像するんや。

で、今度は家の近くに自分がおる想像をする。

そっから家の玄関まで歩いていく。

玄関を開けて中に入る。

中に入って、こっちに背中を向けてる自分を見つける。

その肩を叩いて交代って言うんや、心の中でな。

それで終わりや』


かんかんかん

 

「下駄の音か?」

『なに?』

「いや、お前の所からそんな感じの足音が聞こえた気がしてんけど」

『あ~、誰か俺の家の前通ったんやろ』

「今……2時か。なんやお祭りか?」

『ちゃうよ。……いや、それよりさっきの話よ』


「……まぁ不気味やなぁ」

『やろ? 俺もやってみたけど、えらい不気味でなぁ』

「しかも、なんやこれ、聞いたことないでこんなん」

『俺も調べたけど、こんなんどこにも載ってんでなぁ……。ほんでもよぉ、こういうAIって、ほら、ネットの情報使っとるんやろ?』

「まぁ、本当にそうかは分からんけど、膨大な知識を集めて互いに紐づけ合ってそれで答えを出してるっちゅう考え方やけど……」

『ちゅうことは、俺がさっき言ったみたいな方法がそれぞれ別々で存在してて、AIが勝手に組み合わせた、いうことは無いんかな』

「う~ん、まぁそれも考えられるけど……。でもまぁ、『ゆとくに』の『ゆと』いうんは沖縄の『ゆた』が変わったんかなぁ」

『おぉ、それっぽい』

「それでも『くに』いうんは分からんなぁ。くぬ、くね、くい……?」

『あと、何か分かることはあるか?』

「さっきのおまじない、自分と誰かが入れ替わるみたいなやつやったけど、玄関扉を普通に開けとったよな」

『おう、せやな』

「てことは、その中に入って肩を叩く部分は、玄関扉に鍵がまだない時代に考えられたんとちゃうんかなって」

『ほぉ! てことは、え~っと……』

「江戸より前やと思う。一般的に錠前が普及し始めたんは、そこからやから……。まぁ、おまじない、言うんやったら平安とか、かなぁ」

『陰陽師か!』

「まぁ、そういう時代でもあるけど、僕的には妖怪かなぁ。家の中で嫁か旦那か見て声かけたけど素っ気ない反応されて、変やと思って寝室に行ったら、その人はまだ寝てて……みたいなやつ。あ、でもそれが出てもうた人は死ぬいう話やった気が……」



『……そういやお前、小説書いとったよな、ホラーの』

「おう」

『それってネットとかに公開しとるんか?』

「まぁ、しとるけど何でや」

『いや、そういうのってホンマに書いたらアカンもんとかも書いとるんかなって』

「あー、さすがにネタにせんほうが良いようなやつは避けてるなー。ゲームでもあるやろ。呼び捨てにしたらアカン人とか、出すんやったらお祓いしなあかん人とか」

『あるなぁ……。でもよぉ、そういうのってどこからがラインなんやろな』

「書くのがアウトなんやろ。だって大体書いたり開発してる最中に色々起こるから」

『俺もそう思うねんけどな。そこにプラスで、やっぱ知ってまうのもアウトな気がするねんな……』

「ほぉ、なんでや」

『いや、う~ん……。なんていうか、やからほんまにヤバいもんは知りようが無かったんかなって』

「まぁ、分からんでもないけど。忘れられることで封ずるというか……」

『そうそう。でもさ、AIってそんなん分からんやんやからネットに誰かが上げてもうた古いやつを引っ張ってきて言うてまうこともあるん――』

「どしたどした、急にテンション上げよって。今二時やで」

『いや、うん。でもな……』


 かんかんかん


「なんやこっちでも下駄の音がしよったで」

『さっきのおまじないな。続きあるねん』

「おう」

『もし嫌やったらこの話をほかの人に言うたらええんやと。そしたらソレはその人の所に行くらしいんや』

「なんやリングみたいやな。AIが作る怪談もミーハーやなぁ」

『でも早せなあかんねん。5日経ったら、無理やり入ってくるらしいねん』

「何が?」

『お前さんが』


 ぴんぽーん


「すまん、誰か来た。……なんやこんな時間に」

『いや、それ出んほうがええやつや』

「まぁ、でも変な奴かもしれんけど一応……」


 ぴんぽーん


『やからな、それ、出んほうがええやつなんや』



『わかるやろ? お前も早よ回せ』


◆◆◆


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