第4話 人類創生論

「人はなぜ死なないんだろ?」

「はぁ?いきなり何言ってんの?」

「いやさ、SNSとかで『死にたい』とか『人生オワタ』とか言ってる奴いるじゃん。

そういう奴はなぜ死なないの?」

「どうしたのお前?そういう奴に死んで欲しいの?」

「ん〜そういうんじゃなくてさ、人間も動物の一種だろ?

動物の行動原理って基本『やりたいと思った事をやる』だろ?

腹が減るからメシを食う。

眠たいから寝る。

気持ちいいからセックスする。

愛する者を守りたいから命を張る。

これにちょっとした知恵や学習がついてくる。

これをしたら痛い目にあう。

これとこれを組み合わせたら効率よく美味い物が食える、みたいにね。

動物は大抵ここまでなんだよね。

人間さまだけその先を作っちゃったんだよ。

ルールやモラル、道徳や正義なんて言う制限をね。

この制限が動物の行動原理を超えてんだと思うんだ」

「ちょっと何言ってんのか分かんない」

「レミングって知ってるか?」

「あの集団自殺するネズミみたいなやつ?」

「そう、それ」

「あの集団自殺な、諸説あるけどある一定のカスを超えたら一斉に自殺始めるらしいんだわ」

「ふん」

「でも全滅するまではいかない。必ずある一定数までで収まる」

「そりゃそうだ。絶滅しない為の数量調整なんだもんな

ん?何が言いたい?」

「だからそういう事だよ。

自殺願望は人類に標準装備されてる基本性能なんじゃないかな?

ある一定の範囲内に必要数以上の人間が繁殖してしまった場合時限発火的に自殺スイッチが入る。

ある一定数に減るまでそれが続く」

「いやいや、人類増え続けてるじゃん」

「そうなんだよ。

自殺スイッチが入ってるにも関わらず不発に終わってる、それはなぜか?」

「なぜだ?」

「さっき言ったルールやモラル、道徳や正義とかいう奴が邪魔してるんだよ」

「ん〜、なんとなく言いたい事は分かってきた。

でも、自殺しないって事はいい事じゃねえか?」

「本当にそうか?」

「何が言いたい?」

「癌ってあるよな」

「病気の?」

「そうだ、あの癌。

癌って何か知ってるか?」

「何かって何だ?」

「癌ってのはさ、正常な細胞のプログラムが壊れて異常増殖始めた細胞なんだって」

「それくらいは知ってる」

「普通の細胞は決められた場所で決められた量しか作られず、ある一定期間が過ぎたら自然に死んでいく。それを勝手に増殖して自滅プログラムを発動させず、他の場所まで行って増え始め、他の細胞を滅ぼして行くんだよ。

そして最後にはその身体そのものを壊してしまう」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「つまり人間が地球上の生物にとってがん細胞だと言いたい訳か?」

「そうだと思う」


「救いのねえ話だな」

「だな」

「誰が人間をがん細胞にしたんだろな?」

「多分『生めよ殖やせよ』とか『汝の隣人を愛せよ』とか言った誰かだよ」

「迷惑な奴だな」

「だな」

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