理不尽

 冷たい風が体温を奪って、カタカタと体が震える。 目が覚めると、俺は何故か近所の公園に倒れていた。


「さぶッ!! 俺の身にいったい何がッ!?」


 意味も分からぬまま飛び起きて、服装を確認する。 普段から着慣れている上下のジャージ、この服装はいいのだが、外にも関わらず何故か裸足であった。


「なにコレ意味わからないんだけど、夢遊病か何かか?」


 ちょっとした恐怖を感じ、とにかく自宅へ帰ろうと歩き出すと、何かに躓いた。よく見ると、それは俺が修学旅行の時に買ったキャリーバックに似ている。


「……なんか、こういうサバイバル番組とか昔あったよな。 タレントが目覚めた場所は、近所の公園とかじゃなく無人島だったけど」


 昔見たテレビ番組を思い出し懐かしむ。 その様と状況が非常に似通っていたため、まさかと思いキャリーバックを開けてみる。


「たしか、バックの中にミッションが入った封筒が入っていて、それをクリアしないと帰れないんだったよな」


 番組サイドは視聴者を盛り上げるための演出としてやっていたのだろうが、俺は、その番組を思い出した瞬間から嫌な予感がした。 当時その番組に最もハマっていたのは、あの傍若無人の姉である。 この状況も、何か姉が仕組んだものな気がしてしょうがない。


「……やっぱり、あったし茶封筒」


 学生服や教科書、靴など、何故か学校に通うための必要最低限の物が詰め込まれているバックの中をかき分けて、茶封筒を探し当てる。


「あー見たくないな。 でも見ないと姉さんキレるんだろうなぁ」


 とても憂鬱な気持ちになりながら封筒を開ける、そして、その手紙には、こう記されていた。


『竜也、今回のテストは流石に引いた、ドン引きだ。 きっと、このままでは、お前も恥ずかしくて私と顔も合わせられないだろう。 だが、そんな愚弟にチャンスをやる。 次のテストでオール90点以上を取れば私はお前を許してやろう。 そしてこの手紙を書いた寛大な私に感謝して泣くことも許そう』


「……思い出した。 俺、姉ちゃんにボコボコにされて気を失ったんだ。 というかこの手紙を見る限りでは。テストで90点とるまで、帰ってくるなってことだよな? だから通学用の荷物が入ってたのか、納得だ……って納得できるかッッ!!」


 一人ノリ突込みをしてしまうほどに、この手紙の内容は理不尽すぎる。 今日からテストまで3週間もある。 その間どうやって過ごせと? もはやテストどころではない、完全なサバイバルじゃねぇーか!!


 しかし、悲しいかな、姉の理不尽は、今に始まったことではないため、なんとか朝日が昇るまでには、落ち着きを取り戻した俺は、公衆トイレで服を着替えて、何事もなかったかのように登校した。

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