Act.16『SakuRaik@、解散の危機!?』
「解散って……い、いきなりどういうことだよオイ!?」
そしてすぐに、宣告された瞬間にふと抱いた違和感の理由に気付く。
「つうか、なんでオッサンが『
「失礼な発言はおよしなさい、朔楽くん! ……申し訳ありません、
そのように注意を
どうやら彼も男とは顔見知りであるらしい。そしてどういった経緯かはわからないが、見たところ二人は歩いていたらたまたま通りかかったこの部屋の中に朔楽たちの姿を見つけ、足を運んできたというような様子である。
(それに聞き間違いじゃなけりゃ、いまたしかに“社長”って……)
男がそのように呼ばれていたのを、朔楽はその耳でハッキリと聞いていた。
すっかり困惑しているこちらに、ハルカも気付いてくれたのだろう。彼は隣にいる男と軽くアイコンタクトを取ってから、朔楽のほうを向き直って告げる。
「紹介するわ。この方は
「すたーさふぁいあ……ってまさか、あのスターサファイアかっ!?」
おどろいて思わず聞き返した朔楽に対し、ハルカは神妙に
スターサファイア・プロダクション──といえば、いまや業界最大手として知られている芸能事務所の名前である。もちろん現在はゼスアクターのマネージメント業なども行なっており、ライブストリームバトルの人気も後押しして未だなお成長を続けているリーダー企業だ。
そして朔楽にとっては、コンビを組んでいる相方が所属している芸能プロダクションでもある。
彼の父親が事務所のトップであったということは、7年という時を経た今になって初めて聞かされた事実であった。
「し、知らんかった……てか、何でそんな大事なこと教えてくれなかったんだよ」
「……べつに、聞かれなかったから」
そんな彼の反応にそこはかとない違和感を朔楽が覚えていたとき、そんな二人の間にすかさず創一が口を挟んでくる。
「まったく、視察に来たから気付くことができたとはいえ、この私になんの断りもなく来夏とこんな野蛮な子供を組ませようとしていたとは……どう説明をしてくれるのだね? 絢辻司令長」
「……オイてめぇ。社長だかなんだか知らねぇが、ずいぶん好き放題言ってくれ──」
「ハイハーイ、話がややこしくなるから朔楽くんはちょっと黙っててー?」
ハルカはそう言って朔楽の言葉を無理やり
普段のおちゃらけているオネエとしてではない。アクターズ・ネスト関東支部という現場の指揮を任されている最高責任者としての、極めて真面目な表情をした彼がそこにはいた。
「プロダクション側への承認を得ず、独断で事を推し進めていたことについては謝罪しますわ。
ですが先ほど会議室でも説明しましたように、新しく出現した脅威──『アンノウン・フレーム』に我々人類が対抗するには、2名のアクターをより深く
「ならば
「言葉を返すようですが、冬馬社長。
(朔楽には、彼らの話している内容を半分も理解することができなかったが)どうやら創一のほうは朔楽が冬馬とコンビを組むことに決して少なくない不満を抱いており……またそう言って聞かない大手芸能プロダクションの社長から、ハルカが
いずれにせよ自分の意思に関係なく勝手に話を進められている朔楽としては、あまり良い心地はしなかった。
「おい待てよコラ。いまさら誰に何を言われようが、ハナから俺は降りる気なんてさらさらねぇぞ」
「それは我々の判断することだ。一介の
「んだとォ……?」
威圧するように凄んでみせる朔楽だったが、創一は
とても初対面の相手に向けるものとは思えない……そんな
「まったく、なぜお前が今になって現れたのだ……私への当て付けのつもりか」
「あン? なにブツブツ言ってやがる」
「ンンッ。……とにかく、スターサファイアの責任者として『
「だから勝手に決めつけんじゃ──」
「勝手なものか。これは当事者である来夏の意思を考慮した上での判断だ」
「……えっ」
思いもよらぬ切返しに、朔楽はつい言葉を失ったまましばらく硬直してしまう。
「本当なのかよ……?」
「…………」
ベッドの上の来夏は何も言わず、問いかけたこちらの視線から逃げるように目を
それで朔楽が納得いくはずもなく、彼はさらに来夏のほうへ詰め寄っていく。
「おい! 俺じゃダメだってのかよ、来夏っ!」
「ち、違……」
「やめないか馬鹿者!」
小さく何かを言おうとした来夏の声を、そのとき創一の医務室中に
彼はこちらの肩を掴んで強引に来夏から引き
「この
「っ……!?」
「本来ならば来夏は、もっと大きな舞台に立っていてもおかしくない
それまでも疑念として朔楽の中を
やはり来夏が男性恐怖症となってしまった原因は、3年半前──『
将来有望なタレントの人生をぶち壊したということの重大さが、今になって重くのしかかってくるようだった。
「そ、そんな……俺はただ……」
「失せろ。貴様の顔など見たくもない」
「……………………くそっ」
ゴミ以下のものを見るような視線を創一に注がれてしまい、この場に留まり続けることに耐え切れなくなった朔楽は逃げるように部屋を飛び出していった。
すぐに『朔楽くん!』と呼びかけたハルカの声も、自動で閉じられた厚いドアによって
*
──また、止めることができなかった。
たったいま目の前で起きた出来事が頭から離れず、少年は
3年半前のあのときも、同じような事があった。自分自身が
自分ではない
ああ、呪わしい。
男性に触れられることを
原因も解決法も、学術的な理屈として頭ではわかっているつもりである。
……だが、自分の中のもっと深い部分に刻まれた
(違うよ、さくら……本当は君はなにも悪くない。悪いのはぜんぶ……)
しかしそのとき、ドアの開閉とともに慌てたような足音が舞い込んで来るのが耳に入り、つい自分の世界に閉じこもっていた来夏もそこで現実への回帰を果たした。
すぐに顔を上げて、入り口のほうを見やる。そこにいたのは眠るように意識を失っている様子の女医と、彼女を抱えてやってきたメリーケン=サッカーサーだった。
「ぜぇ……はぁ……べ、ベッドは空いてるよね!? 使わせてもらうよっ!」
自分よりも頭一つ分ほど背の高い女医を運んできたせいか、メリーはフルマラソンを走った後みたいに汗だくで息も上がってしまっていた。
小柄なうえに筋力もなさそうなので当然ではあるが、逆にいえばそんなメリーが自ら運んで来なければならないほど緊急事態だったということでもある。それを察したハルカは、やや
「メリーさん、一体どうしたの? それに彼女……やっぱり、
「私も医者じゃないから詳しいコトはわからない。廊下で倒れているのを見かけたから、慌ててここまで運んできたんだけど……」
寿子がいる隣のベッドに女医を寝かせたメリーは、ズレていたメガネをかけなおしつつ彼女たちの症状に注目する。
「……うん、経験則でなんとなくわかる。おそらく彼女はクロだね」
そう結論づけたメリーの言葉をより確かなものとして裏付けるかのごとく、直後にけたたましい
来夏はとっさにゼクスブレスを起動し、すぐに基地外部のカメラが撮影した映像を
すると市街部の港付近の上空に、アウタードレスの
「この様子だと完全に
「でも、あいつが……」
「朔楽くんのことは、今は考えないでいいわ。ゼクストフレーム単騎での出撃になってしまうけれど、少なくともアウタードレスとの戦闘に支障はないはずよ」
「……わかったよ」
緊迫した表情のハルカにそう言われ、来夏はすぐさま地下ハンガーに眠る愛機──インナーフレーム
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます