第15話 その後の俺たち

 翌日は卒業式の日だった。とはいえど、高校一年の俺にとってはあまり関係のないことで、式の参列者として座っていればいい日だった。授業がないだけ嬉しいというものだ。

 ただの学校行事なので、俺はいつも通りの時間に家を出た。当たり前のように両親はすでに家を出ていて、兄は午後からの授業で俺を見送ってくれた。そして家を出ると、待っていたのは、女の子二人だった。いかにも真面目そうな子と、ツインテールのぱっちりおめめの子だ。

「おはよう、一斗くん」

「おはよう、一斗」

「おはよう」

 三留は逆の方向から来てくれたということらしい。

思えば、三人で登校したことは今までなかった。三留の家が反対方向であることが大きな理由だが、三人で出かけたりはしたことがなかった。

俺はそんなことを考えながら歩いていた。卒業式の日だからか、柄にもないことを頭に浮かべてしまう俺だった。というか、女の子二人に挟まれる思春期真っ只中のこの俺は、結構ドキドキしている。正直、三留がわざわざこっちに来た理由を気にすることができないのだ。

しかし、女子二人にはそんなこと関係がなくて。

「橘高さん、今日は来ないんだって、卒業式」

 陽菜はそうやって話を始めた。

「へえ」

「あれ。もっと根掘り葉掘り聞かれると思ったんだけど……気にしないんだね」

「あの人は留年するんだろ。こんな行事出ねえよ」

「まあ、そうだよね。ああいう人が真面目に出席したりするなんて、しないよね」

 そう言うのは三留だ。

「でも、それが理由じゃないみたいよ」

「そうなのか?」

「うん。都筑さんのお見舞いに行くんだって」

「あいつ、目を覚ましたのか?」

「そうだよ。やっぱり生き霊さんが原因だったんだね」

 そうか。俺たちは曲がりなりにも事件を解決できたということらしい。

「どうするんだろうな、桜生さん」

「何が?」

「学校だよ。もう二度目の留年だろ。退学とかしないかな」

「してほしくないの?」

「そりゃ、な。俺にとっては、先輩みたいなものだからな」

「あたしたちとは違うんだね」

「年上だしな。普通の友達とは違う。けど、大切な人なんだよ。いろいろあったけど、あの人がいたから今がある」

「いいこと言うね、一斗」

 ちょっとかっこつけすぎたかもしれないが、俺の本心だった。忘れたいほど嫌だった昔の俺も、今はそんなに嫌じゃない。あれがあったから今がある、そんな風に思えている。

「ところで一斗くん。橘高さんは退学しないらしいわよ」

「そう、なんだ」

「都筑さんも様子を見ながら復学するんだって。よかったわね。あの人たちと学校で会えるわよ」

「ああ。よかったよ、本当に」

 俺たちの事件はこうして終わる。怪異に絡みの事件はもう三つ目だ。新学期はもうちょっと平和に過ごしたいものだが、俺はこいつらと毎日顔を合わせ、たまにあの人たちとふざけたりして、そんな毎日が続けば、それでいいかという気もする。

 とにかく、俺たちの一年次は事件とともに終結した。

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