夏と帰省と『ガっちゃん』
夏がくれば思い出す
日本の四季というものは、とかく人の心を震わせる。
そんな中で僕が最も愛したのは『夏』であった。
当たり前だが夏は暑い。炎天直下を歩くなど、想像しただけで苦行だと判断できる。しかし、それは本当に苦しいだけであっただろうか?
夏が来れば思い出す。
という出だしの
そして子供の笑い声だった。
ただ愉快な季節と言えば僕の中では夏だった。
夏ほどに笑える季節もないであろう。
だから僕は夏が好きだった。
都会の早朝、混みあう電車の中。昼間、誰とも目を合わせることのない雑踏の中。夜半の、誰も見当たらない路地の街灯の下。
僕は悲しくなれば──夏を思い出すのだ。
●
窓を全開にするといくらか風も通って涼がとれる。午前中は
作っているのは冷やし中華だ。
これもまた立派な夏の風物詩である。
ゆでて冷やした中華麺の上にのせるのは、キュウリとキクラゲと
僕は皿を二つ両手で持ち、部屋の中央へと移動する。
「できたぞー」
キッチンから中に入った
「いくら日陰でも暑かろうに……風にあたるなら、そっちの窓にしておけ」
「いや。こっちがいい」
僕は自室では極力、冷暖房を使わない。なので部屋を選ぶ際には、日当たりに室温、湿気という項目をこれでもかと重視する。その甲斐あってか、こうやって窓を全開にすれば──『午前中だけは』という
しかし今のありすのように、アスファルトの照り返しがある中で、外を眺めるなんて
ありすは何が楽しいのか、よくこうして、日光の暑さを体感してはニコニコと笑っている。その
よって僕はコップに麦茶を注ぎ、飲ませる。彼女はコクコクとそれを
そして『いただきます』と二人で
「まっくろだな」
「んー」
お行儀悪く、麺をすすりながら返事をしようとするありすは、日焼けで肌が
夏休みが始まってから、すでに二週間ほどが経っている。その間、僕はありすとギミックと連れ立って外出することが多かった。行き先は
ありすは特別な場所に行きたがりはしなかった。公園などの、身近でどこにでもある場所に行きたがる。彼女にとって地上とは、すでに未知の世界であるからだろう。日光をしきりに浴びたがるのも、おそらくは同じ理由だと思う。だから僕は体調を崩さない限りには、彼女の好きにさせてやりたいと思ったのだ。
「ところで、なあ……ガっちゃん。私の分は?」
「ない」
ギミックの言葉にはすげなく答えておいた。どうせ返答は分かっていてチョッカイをかけてきているだけであろう。
ギミックもありすと同様に、僕のことを『ガっちゃん』と呼ぶようになった。いつまでも『君』呼ばわりだと、それもそれで不愉快なのでべつに構いはしないが、馴れ馴れしいと思わなくもない。
冷やし中華を食べ終わり「ごちそうさまでした」と、またもや合掌するとありすが言った。
「今日はどうするの?」
「そうだな……どこか行きたい場所はあるか?」
「公園!」
「またか……その目的は?」
「絵を描きたいと思った!」
この二週間、ありすは絵画というものに
もとより、教材から教養の一つとして習っていたらしく、とても上手いのだが……いまいち絵を描くことに意義を
「んじゃあ、行きますか」
「そうだね。
ギミックから『画伯』と呼びかけられるとありすは元気良く頷いた。
「うんっ」
元気よく駆け出していく彼女に追いついて、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます