夏と帰省と『ガっちゃん』②
僕は夢を見ている。
夢であるからして僕の脳内はとりとめのない事柄について、考察を始めた。それは自身でも気づいていない僕の隠された信条に対するものであった。
自分が何者であるのか、探求することこそが人生の意義である。
というのが僕の持論であるらしい、恥ずかしいので誰にも打ち明けたくはない。しかし、誰でも少なからず同じように感じたことがあるだろう。
僕は昔『警察官』になりたかった。
理由は単純。父がそうだったからである。
しかしそれも殉職した父に泣き崩れる母を見たときに諦めた。
暴漢から市民を守るために父はあっけなくその身を捧げた。立派である。しかしあえて言うならば短慮でもある。だからこそ残された家族を蔑ろにすることは躊躇われた。これ以上、僕が社会の犠牲になるわけにはいかなかった。
そうなると僕は何に憧れを抱けばいいのか分からなった。
当時、メディアにかじりついて鑑賞していたヒーロー達は皆、悪と戦い、その身を危険に晒していた。彼らに倣うわけにはいかなかった。
僕はふさぎこんでいた。多感な時期に父親を亡くしたのだから仕方ないことである。それを知っていたからこそ周囲も僕に関わろうとはしなかった。同級生は僕を腫れて痛々しいもののように扱い、担任に代表される大人たちは僕を慈しむべき対象として隔離差別した。振り返ってみると、その感性は根性がひんまがっている。だが、噓偽りのない僕の気持ちだった。
そんな僕に意識的に関りを持つ人物が一人現れる。
そいつは少女だった。くわえて非常に破天荒であった。
詳細を述べるのは控えるが、悪戯の限りを尽くすような悪童であった。僕は彼女から子分の名誉を頂戴すると『ガっちゃん』というあだ名を拝命したのである。
二人でそれはもう色々とやった。その暴挙のほどは保護者会の議題にのぼるまでに至った。しかしその日々は痛快であったことを覚えている。母も僕の愚行に怒りはしてもどこか安堵していたようにも思う。
彼女は決して下を向いて歩くことはなかった。常に堂々と顔をあげて暮らしていた。向かうところに敵はないというかのように。僕はそんな彼女に憧れたのである。
けれどもそんな日々は長くは続かず、彼女は早々に僕の前から去っていった。引っ越したのだ。そうなると残された僕はまた大人しくなる。かくして僕は『ガっちゃん』という名前のみを残し、凡庸な日常へと戻ったのだ。
そして現在。再度そんな久しいあだ名で呼ばれている。
『ガっちゃん』という人物はいったい何者なのだろうか。そう呼んでくれる小さな少女に憧れを抱かせるまではなくとも、何かしらを残してやれるような、そんな人物になれているのだろうか。そんなことをふと考える。
アラームの音が遠くから聞こえてくる。
そろそろ夢から覚めるのであろう。瞼を開けた。
しばらくはぼんやりとしていたが、次第に頭がはっきりとしていく。夢の内容は例のごとく覚えていない。ただどこか懐かしく心地よい、そんな夢だったと思う。
最近はどうにも夢見がいい。
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