第14話 援軍

「大尉!」

 ドラゴンは、そのまま上昇していった。それに続いてリオが、俺たちの目の前を通過する。ヘッドセットから、リオの声が聞こえる。

「問矢さん!すみません。私が相手をしていたドラゴンです。」

 今野の様子は、すでに肉眼では見えない。咥えられただけか、噛まれたか。俺はM4を構えるが、すでに射程から外れている。リオが追跡しているが、その速度に追いつけていない。ドラゴンは、右に左に移動しながら、飛んでいる。ミサイルの照準を固定するのは難しい。自動誘導なら。。。だが連絡コードは今野しか知らない。

 俺たちにできることはない。いや思いつかない。

 ドラゴンは、上昇しきったところで一度静止する。リオの姿を確認し、そちらへ向かっていく。

 リオは、剣を出しドラゴンへ切りかかる。だが、ドラゴンはそれを器用に躱す。リオは切りかかった勢いを殺すように静止しようとする。慣性で少し直進し、反転した。ドラゴンは首をリオの方へ向ける。今野の姿が、ぼんやりと見える。M249が動くのが見えた。そのまま今野は、眼球に向けてM249を発砲した。

「生きてるぞ。」

 ドラゴンは、眼球に弾丸を受け、悲鳴を上げる。悲鳴を上げるために口を開いたため、今野はそのまま落下する。その時に少し血の様なものが見えた。高度は数十m。そのまま墜落すれば命はない。

 そこに影が接近するのが見えた。リオは、今野を咥えていたドラゴンと対峙しているし、皆川はもう一匹を相手にしているはずだ。-視界には入っていないが-

 影は、そのまま今野を受け止め、着地する。俺たちはその着地点に向け走る。清野はまだ気絶したままだ。

 その影は今野を降ろし、こちらへ向く。女だった。リオよりも身長が低く、短い髪を一つに括っている。サングラスを着けているので目は見えない。リオが最初現れた時と違い、見慣れない戦闘服を身に着けている。

 彼女は、今野を見て一言言った。

「間に合わないかもしれない。」

 今野を見るとはらわたが、外に出ているのが見えた。やはり噛まれていた。今野はすでに意識が無いようだった。

「大尉!」

 曵野が叫び、後ろのバックパックに手を伸ばす・・・。だが、ファーストエイドキットはさっき燃えてしまっていた。ファーストエイドキットがあってもできることはなかったかもしれないが。

 俺は、ブラックホークに連絡を取る。

「今野大尉が負傷した。こちらに降下できるか?」

 パイロットから返答がある。

「無理だ。あと2匹ドラゴンが飛んでいる。戦闘にかなりの空域を使っているのでLZの確保が難しい。」

 皆川はまだ倒せていないらしい。

「だが、何とかしよう。」

 パイロットはそう言って通信を切った。

「どうするつもりだ」

 曵野はそういって今野の腹へはらわたを戻す。血が噴出しているが、止めるクリップはない。

 その違う日本から来た女は、こちらに話しかける。

「私も救命キットは持っていない。腹だけでなく、背中まで貫通しているようだからもう駄目だろう。」

「手前!」

 曵野が叫ぶ。そして彼女に向かって行こうとする。彼女のしゃべり方には、感情がないように思えた。

「曵野、そっちじゃないだろ。」

 俺は、曵野に叫ぶ。彼女と喧嘩をするのが、優先事項ではない。

「ドラゴンは、倒す。」

 彼女はそれだけ言って、飛んで行った。彼女の翼は、リオと皆川よりも2倍近く大きかった。ワシの様な形をしている。色も黒い。

 ブラックホークは、こちらへ向かって来ている。ドラゴンとは、2人が戦闘中なのでミニガンの発砲はない。パイロットが、器用に機体をコントロールしながら飛んでいる。

 リオは、ドラゴンに剣で立ち向かっているが、かなり苦戦している。粒子放出とやらが出来ないようだ。

 そこへ、さっきの女が接近する。リオや皆川よりも速度が速い。そして腰に着けているソードオフショットガンのようなものを取りだし、発砲した。

 次の瞬間、ドラゴンは半身が吹き飛んでいた。

 ぼとぼとと肉片が落下する。リオは、それを見て剣を鞘に納めた。

 女は、皆川の方を向き、同じ様に銃を向け発砲した。かなりの距離があったし、フレンドリーファイヤの可能性もあったが、弾道は鋭く、ドラゴンを打ち抜いた。リオが対峙していたドラゴンと同じように半身が吹き飛ぶ。残った半身は、浮力を失い落下した。ぐちゃりと嫌な音が聞こえた。

「サラ。来てくれたのですね。」

 ヘッドセットを通してリオの声が聞こえる。リオは、こちらを向き飛んでくる。サラと呼ばれた女もこちらへ向かってくる。だが途中で彼女たちは、空中で静止する。ブラックホークが接近していたためだ。ブラックホークは今度は着地をする。俺と曵野は、今野を抱え、ブラックホークに載せる。清野もいるので俺は一度建物に戻る。リオ、皆川、サラは、ブラックホークのローターに接触しないところに着地し、こちらへ歩いてくる。

 俺が戻ると清野は、目を覚ましていた。

「歩けるか?」

「大丈夫です。」

 清野は頭を振りながらそう言ってブラックホークへ向かう。M4は3点スリングに着けているのでガチャガチャと体に接触する。

 清野と俺が乗り込むと3人も同じようにブラックホークへ乗る。ブラックホークはローターの回転を上げて上昇する。俺たちはマガジンをM4から抜く。チャンバーに1発入っているが、今抜くと踏んだ際に転倒の危険があるので入れたままだ。ボルトは前進しているのでセーフティーを掛ける。

「すみません。私の責任です。」

 リオが力なくそう言った。俺が話そうとする前に曵野が発言する。

「あんたのせいじゃない。これは戦争だからな。」

 俺は、しゃべろうとした言葉を飲み込む。この戦場で一番冷静なのは曵野かもしれない。

 今野は、ブラックホークに装備されていたバンテージではらわたを固定した。サラが言ったように背中まで傷は貫通しており、脊髄も損傷しているようだった。噛まれたのだから仕方ないのかもしれない。

 俺はちらりとサラを見る。さっきは分からなかったが、リオよりも若い。ソードオフショットガン-昔の二連散弾銃の様な武器-を二丁ホルスターに入れている。

 皆川は、かなり汗をかいていたが、怪我はないようだ。

 サラは、最初に現れた騎士の一人なのだろうか。

 ブラックホークは、基地へ向かう。その時、ブラックホークの横をF-15SJが二機飛んで行った。がたがたと機体が揺れた。

 

 この戦いの全容がどうもはっきりしない。どれだけの隊が投入されたのか。途中居た部隊はどうなったのか。俺は情報が欲しい。

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