第2章 激戦

第9話 休息

 翌日、俺と曵野は、Y駐屯地の士官食堂にいた。普段は訓練の時間だが、待機命令が出ている。銃の携帯命令も出ているので、M4を手元に置いている。セーフティーが掛かっているので、初弾は装填されているということだ。ボディーアーマーとチェストリグは、さすがに重いので近くに置いている。チェストリグには入るだけの5.56mmのマガジンを入れている。カートキャッチャーは着けていない。撃つときは実戦だからだ。

 基地に戻り、報道を見た。ガーディアンというのは報道陣が付けた名前のようだ。

「戦争か。」

 曵野がつぶやく。

「相手が人間でないだけいいのかもしれないな。」

「だといいがな。後ろには合衆国がいるんだろ?そのうち兵隊を派遣してくるぞ?今も、どこに行ったのかわからないケモノもいるらしいしな。」

 俺は、曵野がそう言ったのには答えない。

 戦後、合衆国は強国だった。ソ連と競い技術を凄まじい速度で習得していった。

 だがどうも気になるのは、あのジエイタイ。彼らが持つ技術はこの世界にはないものだ。反重力など理論上の空想にすぎない。加速器を使っての実験はされているが、実証はない。CERN。前にヨーロッパ発のケーブルテレビで見た記憶がある。

 ホットコーヒーに手を付ける。

「問矢さん」

 そこにリオがやって来た。昨日は事情聴取をされていたらしいが、今日からは基地建屋内の外出を許可されたそうだ。

 リオは、さすがに室内では鎧は着けていない。着の身着のままと言っていた普段着を着ている。長いスカートにブラウス。昨日は分からなかったが、女性っぽい体つきをしている。年齢も昨日はすごく若く見えたが、それなりのようだった(これは失礼だな)。それにしても昨日俺たちを助けてくれた’兵隊’には見えない。

 リオは、自動で抽出してくれる機械からラテを持ってきていた。

 俺の横に座る。曵野はそれをちらりと見て、外を向く。

『お前なぁ。。。』


「聞きたいことがあるんです。」

 リオはそう切り出す。

「なんでしょうか」

「そのM4です。それはアメリカのものではないのですか?それにブラックホークも。」

 俺は少し頭を傾げる。

「M4は、コルト社ベースですね。曵野のHKはドイツ製ですが(アッパーだけ)。」

 リオは、少し不思議な顔をする。言葉が足りなかったか?

「コルトは、日本にあります。戦後-第二次世界大戦後は、日本に開発・製造拠点があります。ですので日本製になりますね。」

 今度はリオが明らかに驚く。

「日本製?確かにアーマーライトは、日本製もありましたが・・・。そんな。」

 俺はその言葉を聞いて、続ける。

「シコルスキーもそうですよ。グラマンも日本が中心ですね。」

「グラマン。その名前は・・・。いえ、すみません。話が分かりませんよね。私たちの世界では、その軍需企業が日本に製造拠点を持っているということはないのです。日本では、銃を持ったりすることはできないのです。」

 曵野が、その言葉に反応する。

「日本は軍需産業で大きくなった。戦後、領土は減ったがな。」

 リオは続ける。

「でしたら、なぜ日本は、第二次世界大戦で戦勝国になったのですか?」

 曵野は言う。

「原子爆弾を落とそうとした爆撃機を撃墜したからだ。広島に落とそうとしたらしいが、たまたま九州から来ていた迎撃機が撃墜した。教科書に書いてあるぞ。」

 リオは、目を見開き言う。

「私たちの世界とは、全く違う時間を歩んでいます。驚くしかありません。」

 俺たちは、自分たちの世界が、曵野が今言った通りだったのでそんなに驚くこともない。

「その迎撃機って、日本で初めての実戦配備ジェット機だったらしいですよ。『制覇』とか言ったかな。」

 リオは、しゃべらない。今の情報を消化しきれていないようだ。

 しばらくしてラテに口を付ける。

「すみません。私は、自分の世界との違いに驚いています。昨日は、話を聞かれるだけだったので、こちらのことは話していません。」

 続けた。

「私たちの世界では、広島と長崎に原子爆弾が落とされ、終戦を迎えます。B-29が撃墜されることもありませんでした。」

 俺と曵野はそれを聞いて驚く。

 原子爆弾が落ちたか、落ちなかったか。それで世界が変わってしまったのか?にわかには信じられない。

「日本は、戦後経済大国となります。もちろん長続きするわけではなく、中国やアジアが台頭してきていますが。とはいえ今だ製造で強いことは変わりありません。」

 全く違う。俺たちは、この世界で生きてきたのだ。そして生業として兵隊を選んだ。リオの言う世界にも興味はあるが。

 俺は、言った。言うべきではなかったかもしれないが。

「日本は、平和なのか?」

「平和・・・。だと思います。今や安全ではないのかもしれませんが。」

 えらく含みのある言い方だ。だが専守防衛がモットーのジエイタイが、存在するのだ。平和なのだろう。もちろんこの世界でも実弾をバラバラ撃っているわけではない。


 その時、警報が鳴り響いた。


 俺と曵野はアサルトライフルを持つ。ボディアーマーとチェストリグを装着するため腰を落とす。

 リオは、席を立ち、「私たちも準備をします。」と言ってこちらへお辞儀をして出ていく。


 士官食堂の外に出ると、今野が居た。

「ここにいたか。今度は東京だ。S装備で行く。ブラックホークが、こちらへ向かっている。」

 俺たちは頷き、建屋の外に出る。

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