第7話 情報
リオは、背中から翼のようなものを広げ、空中に静止していた。翼には、白いプラスチックのような骨組みが組まれ、沢山の羽根のような部品が接続されている。
噴射のようなものは見えない。プロペラントなどを使用したスラスターのようなものではない様だ。また翼から、いくつかの箱のようなものがぶら下がっている。そこからミサイルを発射したのだろう。剣は鞘に収まったままだ。
リオは、こちらを見ながら翼を畳み、着地する。俺たちがジャンプをして着地をするような力を感じない。’すっ’と着地をした。
翼は、背中に見事に収まる。ミサイルランチャーは、その翼の上にパズルのように収納された。
「ケモノは、ここまで来てしまったようです。先ほど仲間に連絡しましたが、間に合わなかったようです。」
リオは、そう言う。そして続ける。
「ケモノは、別世界。つまり私たちがいた世界の生物兵器です。これは高度な軍事作戦です。」
「軍事作戦だと?何が目的なんだ!」
曵野が声を荒げる。どうもコイツはリオに対して当たりが強い。さっき出会ったばかりだというのに。
そして俺たちが知りたいことをリオは話始める。
「私たちは、別の時間軸を歩んだ地球、日本の人間です。そしてケモノは、その世界の生物兵器。」
「別の・・・・時間軸?」
「そう。例えば、この世界では日本は軍隊を持っています。ですが、私たちの世界で日本に軍隊はありません。あるのはジエイタイなのです。」
俺は目を見開く。
「ジエイタイですって?」
俺の頭の中にその単語はない。
俺たちの世界では、第二次世界大戦後、日本は領土が減りはしたが、戦勝国として歩んできた。なので軍隊も帝国陸軍の流れを汲み存続してきた。徴兵制により、健康な国民は、ほぼ軍隊を経験する。その中で戦闘に才能のある、または希望したものは、俺と曵野の様に志願して特殊部隊員になる。
空軍や海軍のパイロットは、ほとんどが徴兵前に志願した兵だ。
「ええ。自衛隊。自らを衛 隊です。軍隊はありません。そこにあるのは専守防衛。防衛こそ最強。自らが先に引き金を引くことはありません。」
「君は、その自衛隊の隊員なのか?」曵野は聞く。
「ええ。そうです。私は、自衛隊に所属する隊員です。」
日本陸軍にも女性隊員はいる。海軍のパイロットにも女性はいる。だが、こんな長い髪は許さないだろう。
俺は、そのことには触れず、違う質問をする。周りは大騒ぎだが、蝙蝠の方に皆集まっている。死体回収もか?だが、俺たちは情報が欲しい。
「君の世界のジエイタイは、そんな装備をしているのか?」
あまりにも軍隊とかけ離れた格好。機能性はあるのかもしれないが、迷彩もなく、軍隊で採用されるには異常さを感じる。
「いいえ。ほとんどの隊員は、皆さんと同じ布-バリスティックナイロンの装備を着けています。デジタルカモも同じですよ。」
登録商標だが、ナイロンという単語を知っている。つまり同じ技術軸を保有するのだ。
「私たちは、実験部隊の隊員です。そう新装備を実験することが生業。この装備もそうです。アンチグラビティ・・・反重力浮遊装置に急ごしらえでミサイルランチャーを装備したものです。本当は翼はなくとも機能するのですが、周囲に影響を及ぼすにはどうしてもこのサイズが必要だったようで。」
リオは苦笑いをする。背中に翼を生やすことは、少し恥ずかしいことのようだ。
正直、あまりにも俺たちの常識とはかけ離れた話だ。だが、もし他にもケモノがいる-間違いなく存在するだろう。とすれば、リオの力を当てにしなければならないかもしれない。
「そう。生物兵器が、この世界へ転移するタイミングは想定外でした。そのため私たちは着の身着のまま転移してきたのです。」
道理で。そのスカートもよく見れば擦傷に優れた素材でもない。普段着だったのかもしれない。
「これは話すと長くなりますが、先ほど別の時間軸と言ったのは、仮説です。おそらくそうだろうと思っています。言葉がいくつかうまく伝えることができないのもわかっていました。ベースは日本語なんですが。不思議なものです。」
さっきの聴き取れない言葉のことだろう。
「私たちは別の時間軸の世界であろうと考えていました。しかしある時、本当に偶然にこの世界への接続が出来るようになってしまった。先ほどの’ロード’がそれです。実際、物理的には、様々な法則。物質やエネルギーといった根幹を崩しかねない話です。私たちは、この世界には存在していないのですから。総量理論といった話もありますが・・・。とにかく先ほど私が出現した時に宇宙的崩壊をする可能性もあったのです。」
リオは続ける。
「しかし私たちは、生物兵器のこの世界への接触だけは避けたかった。しかし実際は遅かった。先ほど言った通り、これは高度な軍事作戦であり、長い時間練られた作戦なのです。」
「だが、いったい何が目的なんだ?その軍事作戦というのはジエイタイが、考えたものなのか?」
俺は問う。根幹に触れる部分。
「いいえ。自衛隊ではありません。私たちは専守防衛を優先します。先に手を出すことはない。ケモノを送り込んできたのは大陸国です。」
「大陸国だと?」
この世界でいう大陸国は、中国やヨーロッパ連合だが。合衆国とソ連は、1960年代の核戦争でほぼ焦土だ。合衆国は西海岸あたりに人はいるらしいが。
「ええ。アメリカ軍です。」
曵野は、それを聞いて驚く。
「ここにアメリカ軍など存在しない。綻びが出たな。そもそもお前は、ユリティアムとやらの人間だと言っていたじゃないか!」
リオは、それに答える。
「ユリティアムは、事前に決めていた名前です。そう伝えるように決めていました。そもそも転移した先で日本語が通じるかどうかさえ分からなかったのですから。さっき仲間と話をしたときに真実を伝えることの許可を得ました。そして今回のケモノを送り込んだのは間違いなくアメリカ軍です。こちらの各国の状況は、まだ把握できていません。さっき連れていかれた後に落ち着いて話をしようと思っていたのですが・・・。アメリカが・・・ないと?」
曵野は、続けて糾弾することはしなかった。
「アメリカ-合衆国は、核で汚染されて人はほとんど住んでいないぞ。」
リオは少し驚いたようだ。言葉を選んでいるように見える。
「どういうことでしょうか。」
「ええ。アメリカは、1960年代にソ連と三日間戦争をして焦土と化しました。ソ連も中国に近いところ以外は、人が立ち入ることはできない。」
「なんということ。。。」
明らかにリオは動揺している。
「そんな。では。これはどういうこと・・・。」
その発言の意味が分からなかった。
その時、ひゅんと風を切る音が聞こえた。そして俺たちの前にそれは現れた。
今度は明らかに軍隊の戦闘服を身に着け、リオと同じ装備-色はデジカモ AOR1風-を身に着けた屈強な男が現れた。リオとは違い、ヘッドセットを身に着け、パワーアシストには、装甲が着いている。また腰回りにMolle装備を着け、靴はトレッキングシューズだ。
やはり、’すっ’と着地する。シューティンググラスを着けているが、その奥の眼光は鋭い。階級章も見えるが、俺たちと違うので階級はわからない。
リオは、敬礼をする。掌が内側。。変なところでリオの話を納得する。おそらくリオの言っていることは真実だ。
男は、リオに返礼する。
そしてこちらを向き、敬礼する。俺たちも思わず返礼する。
「突然のことで動揺されているでしょう。私は皆川一佐。自衛隊の隊員です。」
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