第6話 襲撃

 刹那。

 俺の目の前を何かが通り過ぎる。

 反射的に後ろに倒れる。パラパラと砂が俺の体に落ちてくる。

「問矢ッ」

 曵野が俺に叫ぶ。曵野は、膝をついてしゃがんでいる。銃を構えているあたりさすがだが、マガジンがささっていない。俺はマガジンをチェストリグから取り出し、銃に差し込む。だが何が通り過ぎた?

 俺は、ヘッドセットとシューティンググラスを着けながら通り過ぎた影を探す。何かが視界の端に動いている。ことに気が付いた瞬間、

「ドッ」

 ブラックホークのテールローターと後部が吹き飛んだ。吹き飛んだ機体は、建屋の方に飛んでいく。凄まじい力。

「ガシャッ!!!!」

 粉砕された後部が着地する。火は出ていないが、オイルが周辺に飛び散る。周りに隊員がいないことが幸いだった。

 ブラックホークを破壊した’もの’は逆光で姿が見えにくいが、巨大な。巨大な翼をもっていた。まるで蝙蝠が巨大になった様な姿だった。10メートルはあろうか。

 遅れて警報が鳴る。その蝙蝠は、翼をはばたかせて空中に静止していた。

 駐屯地は、蜘蛛の巣をつついたような騒ぎになる。建屋から、多数の隊員が外に出てくる。非武装で。

 曵野は叫ぶ。

「だめだ!フルメタルジャケットが通用するような相手じゃない!」

 だが、俺は撃った。さっき引き金を引くことの障壁は越えた。だから引けた。

 弾丸は、まっすぐ蝙蝠に向かう。着弾したが、手ごたえがない。効いていない。曵野もフルオートで撃つ。サプレッサーは、弾丸が通過するごとにその役割を無くしていく。全弾命中。だが血すら出ない。

 蝙蝠は、ぎろりとこちらを向く。キイイと吠えたあと、こちらに向かってくる。

「曵野!よけろ!」

 俺と曵野は、右と左-俺の正面に向かって。に倒れこむように避ける。

 蝙蝠が、俺たちの間を通過する。上昇することなく、建屋から外に出てきた隊員へ向かう。

「よけろっ!」

 俺たちは叫ぶが、遅かった。隊員たちは、大質量に吹き飛ばされる。ばっっと赤い花が空中に咲く。

 それが隊員たちの血や肉であることにすぐに気が付いた。空中に咲いた花はそのままコンクリートにばしゃっとその姿を移す。

「畜生!」

 俺は叫ぶが、どうしようもない。蝙蝠は、隊員たちを吹き飛ばした後に再び上昇し、空中に静止する。犠牲が出てしまった。初めて人が死ぬところを見た。

 いや、死んではいないかも。と自分に言い聞かせるが、無理だ。あの状態で生きていることはない。

 M203にグレネードを一発装填する。破砕弾しかない。だが蝙蝠は空中にいるので被害は少ないだろう。

 グレネードランチャー用のサイトは着けていない。訓練で磨いた感覚で発射する。

 グレネードは、放物線を描き蝙蝠へ向かう。着弾。内部の金属片をばらまく。

「ギイイ!」

 蝙蝠は悲鳴を上げる。血が噴出する。物理攻撃は効く。ヤツも生き物だ。

「問矢ッ!M134だ!」

 曵野は叫ぶ。ブラックホークのミニガンのことだ。その言葉を聞いて俺はM4から手を放す。スリングに着けられているM4は俺の腰のあたりに当たる。アルミニウムのレシーバーが体に何度も当たるが、構わず走る。蝙蝠は再びこちらを見て滑空する。曵野は、マガジンを交換し、斉射する。

 蝙蝠の動きを数秒遅らせた程度。5.56mmでは、その程度しかダメージを与えられない。

 だがその数秒で俺はブラックホークにたどり着く。ミニガンにはフィーダーがつながっていて弾丸が装填されているかはわからない。ブラックホークは、駐機状態であったことが幸いし、火の類は出ていない。バッテリーもつながっているかわからない。

 運だ。

 俺は、発射ボタンを押す。

「キュイイイイイ」

 バレルが回転を始める。弾丸があれば発射されるまではすぐのはずだ。

 だが、弾丸は発射されない。ドアマンの仕事ぶりには。。。

 くそっという間もなく蝙蝠はこちらへ滑空する。

 走馬燈?スローモーション?そんなものはない。あるのは暗く黒い絶望だ。

「ドガガガガガガ!」

 その瞬間。蝙蝠に赤いものが着弾する。そう着弾だ。当たった後、爆発をした!これはロケットやミサイルの類だ。

 蝙蝠の翼が片方吹き飛ぶ。真っ赤な血が空中に舞う。その後蝙蝠はバランスを崩し、コンクリートに激突する。

俺は、ミニガンの回転を止める。スイッチから手を放す。

 そして。白い翼が視界に入ってくる。そう周りに羽が舞っているような美しい翼を。そして黒く長く艶やかな髪。

 -リオだ。

 リオは、くるりとこちらを向いて微笑む。

「大丈夫ですか?問矢さん」

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