第4話 事実

 彼女は、俺の後についてくる。曵野はしんがりだ。後ろ向きで歩きながら、後方を警戒する。

「名前は、なんとおっしゃるのですか?」

 何と呼んでよいのかわからない。他意はなかった。

「名前は・・・。おそらくあなた方は発音できません。似た発音ならリオになるでしょうか。」

「リオさんですね。了解です。」

「私たちは・・・。」

「おい。」

 言いかけた俺を曵野が止める。俺たちは特殊戦部隊。そう特殊部隊だ。命令によりイリーガルなこともしなければいけない。そもそも名前と顔を知られては、家族に被害が及ぶ可能性もある。俺は少し甘かったと今更思う。顔を出してしまった。

「すみません。今の段階で私たちは名前が言えない。」

「理解します。問題はありません。」

 リオはそう言った。その答えは、全く我々に興味がないことを意味している。


 日本国内とはいえ、足場はよくない。だが彼女は、訓練を受けている俺たちにきちんとついてくる。俺たちはトレッキングシューズを履いているが、彼女は。。。一瞬彼女の足を見てびっくりする。長いスカートでさっきは見えていなかった。

「それ。何ですか?」

「それ?」

 リオはその質問に訝しむ。

「いや。足に着けているもの。」

「ああ。これはあなた方の言葉で。パワーアシストシステムです。」

 パワーアシスト。DARPAや日本軍が開発している兵士向けの補助装置。介護や作業者向けにいくつかの実用例はあるようだが。

 彼女が着けているものは、ブーツの足首に固定部があり、そこから棒が伸びている。その上はスカートが隠してしまって見えないが。よく見ると上半身もアシストされているようだ。鎧も装飾が最初目に入ったが、衝撃吸収用のダンパー状のものがついている。もしかしたら耐弾性能を有していたのかもしれない。

「それ。あなた方の国では普通に使われているんですか?」

「ええ。そうですね。10年ぐらい前から使われています。もちろん軍隊のみですが。」

 曵野がその言葉に反応する。

「あんた、軍人なの?」

 彼女は、その言葉に答える。

「はい。軍人ですね。私はその中でも、一人で戦うために訓練されています。ガーディアンとよばれていますね。」

 軍人。なんということ。俺たちと同じ。だが、本当にそうなのか。

「ガーディアンというのは、守護者とかいう意味ですね。あなたの国、ユリティアムは地球にあるのですか?」

 俺は一番聞きたかったことを聞く。今のタイミングが良かったのかは何とも言えないが。

「ええ。地球の国です。あなた方と同じ。」

 その言葉に曵野は、反応した。前、彼女の方を向いて言う。

「そんな国はない。地球にはな。」

 リオは、その言葉を聞いて少し笑う。

「何がおかしい。」

 曵野は苛ついている。撃ったのは俺だし、咎められるのは俺だろう。エレメントなので責任は問われるだろうが。しかし曵野の苛つきはそのことではないのかもしれない。

「いいえ。その通りだと思って。’この’地球の国ではありませんね。確かに。」

「なんだと?ここじゃないならどこの地球だ!」

 曵野は声を荒げる。リオの回答が気に入らなかったようだ。普段は、冷静な奴なのだが。彼女はその声を聞いて少しだけ厳しい表情をした。

「おい。曵野。」

 俺は言う。曵野ははっとする。

「あ、ああ。すまない。ちょっとイライラしていたようだ。」

 曵野が苛つくのはわからないでもない。しかしこういう時こそ落ち着いて状況を把握しなければならない。

「とにかく。この話は後にしましょう。さっき言ったばかりですが、忘れてしまった。そのアシストシステムに興味があって。」

「そうでしょうね。あとで話します。」

俺は、それだけしゃべると前を向いてLZへ向かう。もうすぐヘリが到着するはずだ。


 数分後、もともと決めていたLZに到着した。発煙筒を炊き、俺たちはしゃがんで頭を下げる。リオもまねてしゃがんでいる。

 その時、後方からローター音が聞こえる。UH-60ブラックホークが、視界に現れる。一度俺たちの前を通過、確認する。無線で連絡が入る。

「一人多いようだが。」

 ドアマン-ミニガンを担当しているメンバーからだ。

「訓練中に収容した。危険はない。」

 俺は本当に危険がないか、怪しいところだがそう答える。

「分かった。とりあえず収容する。」

 ブラックホークは、旋回し速度を落としホバリングに入る。ヘリは着陸することはなく、地面すれすれで静止する。それを確認した俺たちは、走ってブラックホークへ近づく。リオもそれに倣う。

 俺たちが乗り込んだことを確認してブラックホークは上昇を始める。ヘッドセットを着けていないリオとはヘリに乗っている間は話はできない。

 ドアマンが、予備のヘルメットをリオに渡す。リオはそれを受け取り、頭につける。

 ブラックホークは、前進し、速度を上げる。

 ドアマンが無線越しに言う。

「大変なことになっている。基地に着いた後話す。」

 必要なことだけを俺たちに伝えた。

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