第14話 政宗、信長に鷹を献上する
天正五年(1577年)秋、政宗は米沢城本丸
政宗は
(ふむ。まずは上々じゃ。父上の代から続く信長との
政宗は書面から目を離し、まだ見ぬ信長の姿を思い描くかのように遠くを見つめた。
今、中央ではあらゆる物事が信長を中心に動いている。信長の力は圧倒的であった。このまま行けば、四、五年の内にも天下人に上り詰めるかも知れない。
(自分は果たして間に合うだろうか? 関東出陣はおろか、未だに南奥羽を制圧することさえ出来ていないのだ。我ながら、
政宗の頭の中に素朴な疑問が浮かんだ。しかし、自ら直ぐに打ち消した。
(――
政宗はそう考えて最初の疑問を吹き飛ばした。実際、信長は周りを強敵に囲まれ、苦戦の日々が続いていた。現に今日の書状の中でもそのことに触れていた。「自分に
謙信が信長と敵対しているのは事実だった。前年五月、謙信は信長と戦っていた石山本願寺の
(
政宗の表情には余裕が戻っていた。政宗はゆっくりと書状をたたみ、
信長からの書状に目を通した政宗は、己の胸に秘めた野心の炎をいつになく燃え上がらせた。書状がもたらした中央の動静を強く意識した結果であった。政宗の戦場は中央から遥か離れた辺境の地奥州である。如何に中央に関心を持つ政宗と言えど、普段考えることは周囲の強敵、難敵の事だけである。それ故、今日のように信長の書状を通して中央の動静が伝わると、そこに中央の風や匂い感じてしまい、否応なく内なる野心に火が付くのであった。
(わしも、いつまでものんびりと構えているつもりはない。あの信長のことじゃ、いつ何時
急ぐに越したことはない、と政宗は思った。
(まずは鉄砲じゃ。鉄砲を何とかせねば……)
政宗は今米沢城下に造成中の鉄砲
又、政宗は鉄砲の大量生産と並行して、鉄砲の効率的な射撃方法や戦術、部隊編成、訓練方法などを配下の武将らに徹底的に研究させた。それらの成果を踏まえた上で、政宗は鉄砲足軽を全て常備兵として雇い入れ、政宗直属の鉄砲部隊とした。当時の足軽兵はほとんどが農民であり、戦が終われば村に帰って田畑を耕していた。正宗はこれでは練度も上がらず、優秀な射撃手の育成も難しいと判断したのだった。農民主体の鉄砲足軽を常備兵に変えることによって、平時でも欠かさず訓練が出来るようになり、射撃手の腕も格段に上がると考えたのだ。同時に、兵士一人一人の忠誠心が高まることへの期待も有った。
政宗は鉄砲こそがこれからの戦の主役、勝敗を決めるカギだと考えていた。多くの鉄砲を持ち、鉄砲を用いた戦いに
だからこそ、政宗は今着々とその準備を進めているのである。
(年内にも、米沢で出来上がった最初の銃を、早くこの手で撃ってみたいものだ)
政宗は最初の完成品が届くのが今から楽しみだった。
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