オキアミのうた
@K-829597
オキアミミーツくじら
深くて広い海の中。歌が上手なオキアミがいました。
オキアミはとても小さいので、声も小さく、オキアミの歌を聞くものはありません。
それでもオキアミはちっともかまいません。
だってオキアミは歌うのが大好きですから。
ぼくはオキアミ なみにただよう
きたのうみから みなみのうみへ
ゆららゆらら ゆららゆらら
ぼくはオキアミ
いつものようにオキアミが歌っていると、いつもとちがって、オキアミの歌を聞いたものがありました。
一匹のくじらでした。
このくじら、耳はとても良いのですが、歌は下手でした。
(うわぁ、なんてじょうずな歌だろう)
くじらはしばらくオキアミの歌に聞き惚れました。
そして、くじらも歌うのが好きだったので、一緒に歌いだしました。
ゆらゆ〜ら ゆら〜ゆら
合わさってきた歌声に、オキアミはびっくりしました。
(うわっ、なんてヘタなうたなんだ)
「すとーっぷ! ストップストップ!」
オキアミが叫ぶと、くじらはキョトンとして歌うのをやめました。
「どうしたの? これから盛り上がるところじゃないか」
「あのねぇ、せっかくボクがきもちよぉ~っくうたってたのに、ジャマしないでよぅ!」
(そうだった。ぼくの歌は下手だから、一緒に歌いたくないってみんなに言われてたんだっけ)
「ごめんね。もう歌わないよ。だからさ、きみの歌を、もっときかせてよ。くじらの仲間でもきみほど上手に歌うのはいないよ」
ほめられて、オキアミは少し照れました。
コホンとせきばらいして、そんなに言うのなら、と歌いだしました。
ぼくはオキアミ なみにただよう
きたのうみから みなみのうみへ
ゆららゆらら ゆららゆらら
ぼくはオキアミ
くじらは今度は体をゆらゆらさせるだけで、ところどころ一緒に歌いたくなりましたが、
ぐっと我慢しました。
そして、歌い終わったオキアミに惜しみない拍手を送りました。
「すごいっ! ぼく感動だよっ、サビに入る所のゆら〜ゆら〜ってところとか、かっこよかった!」
「ゆらら ゆらら!」
「ゆら〜ら ゆら〜ら?」
「ゆらら」
「ゆらら」
ゆらら ゆらら
二匹で歌いあいます。
(そういえばダレかにうたをきいてもらったのも、いっしょにうたうのもはじめてだ)
気付いたオキアミの歌がピタリと止みました。
くじらははっとしました。
「ごめん。一緒に歌っちゃ、いけないんだよね」
「……ううん、いいよ。いっしょにうたおう」
オキアミがリードして歌います。合わせて歌っているうち、下手だったくじらの歌もだんだん上手くなっていきました。
すると、その歌をききつけて、他のくじらたちが集まってきました。
「あんまり上手い歌が聞こえたから誰かと思って来てみれば、おまえだったのか!」
「いきなり上手くなりやがって、いったいどうしたんだよ」
くじらとオキアミは顔を見合わせ、お互いニヤリと笑いあいました。
「いい、師匠がいるからね」
オキアミはエッヘンと胸をはりました。
しかしオキアミはとても小さいので、ほかのくじらたちはオキアミの姿が見えません。
「どこにいるっていうんだ?」
「いるじゃないか、ここに」
他のくじらたちは口々に、どこだ、どこだと言います。
「歌ったら、どうかな」
くじらはオキアミに言いました。
オキアミは歌いました。
しかし、オキアミの歌はものすごく小さくて、ほかのくじらたちには聞こえません。
「どこにもいないじゃないか! それよりさ、お前上手くなったから、オレたちの合唱団に入れよ。これから練習なんだ」
くじらはオキアミを見ました。
オキアミは小さな手をピコピコ振りました。そして、うなずきました。
「おおい、早く来いよ」
くじらはオキアミにピコピコ手を振り、うなずきました。
そして、仲間のくじらといっしょに泳いで行きました。
やがて、遠くから、くじらたちの歌声が聞こえてきました。
ぼくら くじらさ なみをかきわけ
にしの うみから ひがしのうみへ
ゆららゆらら ゆららゆらら
ぼくらくじらさ
オキアミはその歌に合わせて歌いました。
ぼくは オキアミ うみでうたうよ
おおきな くじらと ちいさなぼくと
ゆららゆらら ゆららゆらら
ぼくはオキアミ
オキアミの歌は、とても小さくて、よぉっく耳を澄まさないと聞こえません。
それでもオキアミはかまいません。
オキアミは歌が大好きだから。
それに、オキアミが歌っている事を知っているものが、いるのだから。
オキアミのうた @K-829597
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます