第10話 事後の街

サキュバス襲撃の爪痕は街にそれなりに負のイメージを刻みつけた。

まずは何と言ってもセキュリティ。

鳥ゴーレムはただ騒ぐだけだし、聖職者たちも想像よりかなり成果が悪かった。

ただの雑魚サキュバスたちの襲来にはこの程度でも充分対応可能だったのだろうが、今回は相手が悪かった。


しかし、人間というのは1を聞くか1を見るだけで10を知ることが出来るスーパーハイスペックな方々が非常に多いようで。

今回は、結局あの聖職者たちは無能の集団だった、ということがようだ。

あの教会は解体、聖職者たちは全員数年間の禁固刑。

相当貴族様たちの怒りを買ったみたいだな。

まぁ敗北した時点で救いもあの聖天符とやらも宝物からゴミに下落するわけだ、それを熱心に信じていた貴族様たちや平民はそりゃあキレるよね、と。

ま、当然これまで街をそれなりに守ってきたのは意味はありませんでした、ということで。


「天使ちゃんも私のものになって万々歳ー♪ はっぴーえーんど♪ ぎゅー♪」

「あぅ」


信頼、財産、人材、切り札。

全てを失うと組織は完全に解体する。

どれか一つでもあれば可能性は無いでもないが、今回の教会はもう無理だろう。

時期に地下の監査も入る、天使は人間にとって憧れの存在。

それの血が床に染み込んでいたら……

最悪火刑かもなー。

処刑を見に行くのは趣味でもないので興味は無いが。


「アンジュも興味ないでしょ?」

「無い」

「私は大変ございますので少々……♪」


流石は私すら足蹴にして興奮する精霊様。

いつか本当に朝起きたらノワールの口の中でしたー、みたいなことないだろうな……

まぁその時はその時だけど。


「んー、そろそろご飯にしよっか〜……」

「ご飯!」


アンジュの起動スイッチが入る。

この子ご飯にはかなり感情的というか本能的になるのよね。

よだれ垂らしてお目目キラキラで可愛い可愛い。


「じゃあいっしょにお買い物行こっかー」


しかし。


「やだ。面倒くさい」


スイッチが切れる。


「そんなこと言わずに、ほら、いいお天気だよー?」

「歩きたくなーい」


こいつ……!

可愛いからって調子に乗りやがって……!

可愛い……!


アンジュ、というか天使族の特徴らしいのだが……とにかく面倒くさがりの出不精。

まぁ天使って文化も文明も無いようなもので山の上で四六時中日向ぼっことお昼寝して過ごしてる連中だし。

寒い中よーやるわ、まぁ《寒暖耐性》スキルの力だと思うけど。


「ブラン買ってきて」

「えー、一緒にお出かけしよーよぉ」

「買ってきたらちゅーしたげる、ちゅー」

「ご注文をお聞きいたしますレディ」

「ご主人様……情けない……♪」


なんか一名喜んでるけど。


とゆーわけでマイレディアンジュのご注文通り"美味しいもの"を買ってくる。

美味しいものって何だ精液か、余裕だな!


小ボケを挟みつつ商店街……に向かう前に。


街の中心にお散歩。

今回の目的はセキュリティの把握である。

個人的にはアンジュがセーフかどうかも知りたかったので一緒に来たかったのだが……まぁいいや。


アルカディアの中心部には国の心臓部……とはあまり言えない内臓脂肪たち貴族が住まいを構えている。

財産は死蔵するわ、権利ばかり欲しがって責任は平民に押し付けるわ、学校には金で介入してくるわ、とろくな噂を聞かない。

図書館で一つの棚を全て借り切ったまま返さないバカ貴族すらいると言う。

んーマイルドなクズ。


もちろんそんな中心部にあるのはそんな心疾患待った無しピザファッティどもだけでなくちゃんとした内臓達も働いている。

例えば学校、アルカディアの魔法学校である。

魔法学校という名称だが最近では戦闘能力全般を取り扱っているようだ。

そこからは毎年強力な冒険者達や衛兵達が卒業し、アルカディアの鉾や盾になっているらしい。


もちろん他にも有力な貴族だの何だの……まぁ、下の私たちがいるような場所には程遠い高貴な場所、ということだ。


見た感じ、鳥ゴーレムはそのまま。

黒いものから白いものに変わっているが。

カラーリング変えただけ?

たしかにこの場所には真っ黒よりも白いのが似合うと思うけど……


すると。


「男ーッ!!」

「うわぁぁぁ!?」


突然のサキュバス。

空から急降下してくるそれ。

何だろうすごく愉快な予感がするよ何でだろう。


サキュバスが急降下してくるのに合わせ、白い鳥は空中にてホバリング。

そのままサキュバスに直線になるようにクチバシを開け……


パァンッ!

「むぎっ」


なんか撃った。

白いレーザーみたいなの。

サキュバスさん灰になった。


「あれが新しい防衛機能かしら!」

「すごいな、あれなら安心だ」


あー、なるほど。

元祖鳥ゴーレムから随分進化したのね。

あー。

余計なことしやがって。

早いとこ弱点探さないとやばいな……野外プレイ出来なくなる。

いやそんな場合じゃない、魔法が使えなくなる可能性。


見た感じ、照準を合わせて聖属性の魔法を当ててるみたいだな、発見するシステムは元祖鳥ゴーレムと同じだろうか?

前回の敗因が鳥ゴーレムに一切の攻撃手段が無かったことだった、ならばそのまま攻撃方法を追加すれば……というわけにもいかないのがゴーレムや精霊などの難しいところ。


例えば、あの叫び散らす警報装置鳥ゴーレムにそのままさっきのビーム機能を追加したらどうなるか。

地上に降り立ったサキュバスに同じように攻撃するだろう、優秀。

んー無能。


つまり、前回は近くにサキュバスと思わしき魔力の反応があればよかったが、今回はそうでは無い。

見的必殺サーチアンドデストロイ、下手をすれば大事件を起こしかねない。


もちろんそんなものを国が採用さする筈もない、何かしらの制御機構や発射条件があるはずだ。

そして今しがた私が生きているということはサキュバスという種族を特定して攻撃を加える存在じゃない、筈。

後は……飛行しているもの、サキュバスの形のパターンを射撃……んーわからん……


これはしばらく派手な魔法は我慢かなー……


さっさとこの街から出る、という手もあるがそれは問題の先延ばしに過ぎない。

ぶっちゃけあれが完全な防衛システムだった場合弱点を知らなければならない。

これから人間と一切接触しない、という制約をするならば……いや、それでも人間はサキュバス……悪魔……魔物を殺したがるだろう。

そのために、あれは知っておきたい。


貴族に話しかけて情報を探るのが手っ取り早いが……今の貧相な服では相手にされない。

幻惑してもいいが……あの新型鳥ゴーレムの存在が怖いな。

今は屋内だろうと魔法を使いたくない。

生活は脅かされてないので問題はないと思うが……


……今日の調査はこんなものかな。

食事を取りに行くのが遅れてはアンジュに怒られてしまう。

それに、だんだん視線が集まってきた。

見た目は悪くないと自負しているが、やはり格好が山賊から剥ぎ取ったものではこういう場所では目立つ。

物好きに奴隷か何かと勘違いされたら便利だったが……


瞬間。


「奴隷めー!」

「出て行けー!」


っと。


飛来物を回避。


「何避けてんだ!」

「奴隷のくせに!」


貴族のガキかぁ。

また良いかっこして、その割には石を使うとは原始的な。


「このやろー、喰らえ、《火球ファイアーボール》!」


おっ、ちょっと進化したな。

魔法を使えるとは。

火の攻撃魔法基本中の基本、《火球ファイアーボール》。

火の玉を生成し山なりに放つ。

戦争時などに最前衛の兵士がこれを使えると戦争の終結は早まる。

盾が燃え、馬が逃げると戦線は崩壊するからな。


もちろんそれのための対抗策はある、盾に耐火性を施したり、馬に《魅了チャーム》をかけたり。

焦土作戦なんてほぼ使われないがな。

資源が惜しい土地が惜しいと上層部のわがままに従う兵士たちは大変だ。

大魔法使いを起用し土地ごと焼き尽くすのは……そうだな、独裁者による帝国がブチ切れたら……あるかもしれない。


「《無機魅了マテリアチャーム》」


ガ貴族の放った火球を魅了し適当な床に落とす。

無機魅了マテリアチャーム》はその名の通り生物以外を魅了する魔法だが、文字面に反してそんなに凄いことは出来ない。

具体的にはその物質が出来ることしか出来ない。

例えばさっきの火は"燃える""進む"程度のことしか出来ない。

だから、方向を変えれば進む方向も変わるので、それを利用すればさっきみたいに軌道をかえられる。

だが、例えば凍れ、とか命令しても凍らない、炎は凍らないからね。

さらに言えばあまり高エネルギーだと対応できない、巨岩が転がってきたりとか、物凄い速度のナイフとか。

あくまで緊急回避用である。


さて、これで何かしらイベントが起きるか……


「な、なんだ!?」

「急に軌道が変わった」


整備された道路を軽く燃やし、すぐに消えた。

一般人の目は少なくないが、魅了魔法のなかでも有名な方だ、使ってもそんなに不思議はない。

問題は魔力の方だが。


「くそぉー!」

「俺の奴隷にしてやろうと思ったのに!」


あぁ、それが本音か、私をボコボコにして泣き喚いたところで連れ去ろうってか。

低位の貴族は物事を腕力で解決出来ると思っている節があるからな。


「私はならないよ」


残念でした、と言うところで脱出、少々目立ちすぎたか。

顔で覚えられたならまだマシな方だが、結果的には新型が反応しなくてよかったかもしれない。

ということで、結局新型鳥ゴーレムは反応しなかった。


結局トリガーはなんだったと言うのか、私の魔力には反応しない、サキュバスというものを見分けるようにも見えない……

私とあのサキュバスの違いはなんだ。

体型? 容姿? 翼などの有無?

そんなものではさまざまなものを巻き込むはずだ……


「……だー、わからん」


未知である以上迂闊なことは出来なさそうだな。

今の状況ならそこらにいた奴らを皆殺しにすれば良かったわけだが……何も準備出来ていない状況で何かが起こったら本当に面倒なことになる。

フィオナを人柱にするとか手段は結構あるけどね。


さっさと今日は帰るとしよう。


閑話休題。


「遅い」

「いたいっ、いたいっ! ちょっ、目覚めるっ、目覚めちゃうっ!」


外出時間30分強。

お腹を空かせたアンジュはご立腹。

現在馬乗りになられて背中に聖属性針治療中。

これが中々に痛い。

確か異世界から来た転生者たちはこんな治療をしていたこともあるとか。

何、背中に無造作に針を刺す治療とか拷問じゃないの。

ノワールさんは愉悦モードで止めてくれないし。


「お仕置き」

「たーすーけーてー!!」


ご飯は私だけ抜きになりました。

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