第9話 天使

「治療終わりましたサキュバス様ぁ♡」

「そっか、じゃあ後で犯してあげるから」

「はぁんっ♡ 恐悦至極ですっ♡」


フィオラに《爛れる程の感情を《フォーリンラヴァー》》を使い奴隷にした後、運ばせた天使ちゃんを治療させる。

天使の血を被ると痛いからね私。


フィオラはさっさと影の中にポイ捨てし、天使ちゃん観察。

ちなみに影にポイ捨てはノワールのスキルで出来る。

丸呑みするのは結構苦労するが、便利な収納箱である。


「……可愛い」


早速の感想。

フィオラなんか私の好みだったけどこの子もかなりあり、めっちゃあり。

そこら辺歩いてたら犯す。

金髪サラサラショートヘア、ダルそうなジト目気味の青瞳、身体は子供っぽいときた。

こんなん歩くセックスですよ。


「……ブラン」

「はいはいブランですよ」


可愛い天使ちゃんになら呼び捨てされてもいいってか興奮します。


「……なんでたすけたの」


あれま。

この子もまた面倒くさい曲がり方してるな。

人と長い間いるとこうなりやすくてねー。

まぁあの様子だと10年はあんな感じでやられてただろうし、まぁ仕方ないか。


「えー、100%善意で納得して欲しいなぁー、なんて」

「……無理」


ですよねー。

一切の善意というのは恐ろしいものだ、後々何を要求してくるか分かったものではない。

ならば、先にそれを知っておくべきだろう。


「じゃあ、美味しそうだったから?」

「……え」


じゃあ第二の本音の矢。


「可愛いけどまだ食べにくいからー、先にキープしておく、的な?」


聖なる血が流れる天使ちゃんは今の私では、なんならサキュバスロードだったころの私でも味見しようものなら舌が痺れる。

出来ないことはないけどね。

だからもうちょっと何かしらの耐性を得たりして楽しくやらしく天使ちゃんを味わえる時まで。

その時までにお手つきにとかなってて欲しくないし。


「……私、食べられるの」

「おふこーす♪」


ぺろぺろあむあむ、しちゃいます。


「天使の肉を食べると不老不死になるって、あれ?」

「? なにそれ」


そんな噂まであるのか。

本当だとしても興味ないからいいけど。


「もっとこう、性的な意味で」

「聖的な?」

「なんかニュアンスが違うけど神秘は神秘だからいいんじゃないかな」


可愛いので許す。


「……変なの」


くす、と天使ちゃんは笑った。

やったぜ可愛い。


「私はアンジュ。ブラン、よろしく」

「ん、アンジュね」


いい名前。


「早速だけど〜……これからどうする?」


私はアンジュを助けたが、別にアンジュを今どうこうする予定は無い。

キープするのはするが、天使は簡単に捕まるような種族では無い。

いつも天空の山脈にいて、たまに降りてくるしか無く、飛べるためすぐに逃げられるし最悪弱いが反撃もする。

そこら辺の仲間に合流させようとも問題は無いだろう。

まぁ、忘れられるかもしれないけど。


「……お腹すいた」


……はぇ?


「ご飯」


きゅるるる、と可愛い音がアンジュから聞こえた。

お腹から響いたらしい。


「……ははは、いーよ、ノワール」

「了解致しました♪」


閑話休題。


「ん、んま……んまい……」

「よく食べるねぇ」

「左様でございますねぇ……ご主人様に感謝していますか?」


ノワールが何処かから取ってきたお値段100%オフのお食事はアンジュの口に次々と飲み込まれていく。

一皿1分の速度で減っていく食卓は既に10皿は空いてしまった。

あの小柄の身体のどこにこんな量が……

天使たちの栄養補給が一年に数回で済むのは一度にこれだけの量を溜め込むからなのかも知れない。

お腹が膨らむ気配もないし、羨ましい。


「アンジュ、あーん」

「? あーん」


食べさせる。

小動物のごとくがっついて来た。

二度、三度と繰り返す。

これ無限に遊べるわ。


「ご主人様ご主人様、ノワールにも」

「ノワールはご飯要らないじゃん」

「ご主人様の愛が欲しいのですぅ!」


見た目に全く合わない仕草、腕をブンブンしながらノワールがにじり寄って来た。

わざわざ屈んできて、髪をかきあげ……色気たっぷりに、口を開く。

いい角度だ、しっかりと谷間が見えて乳首がちらっと見えそう。

見えない。


「あぁ……♡」


えっろ。


ご褒美にパンをちぎってあげる。


「はぁむ……♪」

「あぅ」


そして指ごと食べられた。

甘噛みされ、しゃぶられる。

大きなノワールの舌が指を這い、包む。


「ああ……美味しゅうございました♡」

「パンがもったいないでしょ、もぉ」

「極上の美酒が目の前にあったもので、つい♪」


はぁ、もぉ……


「……ブランの指、美味しい?」

「えっ」


まさかここに伏兵が?

気づいた頃にはもう遅い、手のひらを取られ……


「あむ」

「んっ……!」


齧られた。

ノワールほど甘噛みではないが、痛気持ちいい程度。

というより、唾液でちょっとピリピリする。

それも痛いほどじゃない。


「……? んー、んー……」

「美味しくないでしょ」

「美味しくなかった」

「この美味がわからないとは、天使とは存外低俗なようですね」


ノワールがチクリと刺しても天使ちゃんは効かない。

なんかのほほんとしてるし。

昨日までハイパー拷問デイズに身を置いてたとは思えないなぁ。


「ぽふ」


お腹いっぱいになったのか、ようやくフォークを置いた。

パスタ何人前食べたんだろう。

アンジュのお腹はかわいらしいぷにぷにのまんま。

触ってたら口からけぷって音がした。

楽器か。


「ん……ふぁ……」


今しがた音がなった天使の口から新しい音が。

今度はおねむらしい。

とことん自由主義な娘だ。


「ふふ、じゃどーぞ」


ベッドにお招き。

性的な意味ではない。

可愛い女の子と添い寝。

こんな素敵極めてるイベントを逃すものか。


「ん……ねる……」


躊躇なくマイエンジェルアンジュちゃんはベッドイン。

そのまま私の身体に抱きついて来た。

あっ、性的な意味に変わりそうヤバい。


「あったかい……」

「アンジュの方があったかくてやわっこいよ」

「そーかな」

「そーそー」


短く会話しながら、うとうと。

アンジュの顔を見てたら私も眠くなって来た。

このまま微睡むとしようか。


そして、ゆっくりと意識は暗闇に落ちていった……


……………………。


なんか夢の中なのに変に意識がはっきりしてる。

ていうか、夢の中ってわかる。

なんていうんだっけこういうの、明晰夢?

こういうのは私たち系統のサキュバスの担当じゃないからよく知らないんだよねー。

ドリームメイカー、羊さんたちなら詳しい。


「ブラン」


っと。

振り返ったら、そこにはアンジュ。

全裸である、というか私も。


「……ブランは、いいひと?」


んー、これは……アレだな。

天使が持ってるとかいう《啓示》能力の発露だな。

人の意識に介入して助言できる……とか言うやつ。

それも噂だと思ってたんだけど、違うのか。


「いい人……かな?」

「悪い人?」

「悪い人じゃないよ」


だって、人間にとって都合が悪い、というだけであって、サキュバスは悪いことしてないし。


「じゃあ、いい人」

「ま、サキュバスだけどね」

「いいサキュバス」


言い直させちゃった。

なんか悪いことしたな。


「じゃあ、いいサキュバスのブランは、私が好き?」

「好きだよ」


これは即答。

可愛いし。


「じゃあ、側にいたい」

「へ?」

「ブランと一緒にいたい」


それは……早計では。

アンジュは天使、私はサキュバス。

一緒にいて幸せになれるかどうか……


「ブランだけ。私に優しいの」

「……そうかな」

「うん」


まぁ、あんな日々が毎日だとしたら……それはそうだろうな。

いかに感情が希薄な天使といえど、耐えられるものではない。


「……だから、私を奪って」


アンジュが腕を広げる。


「私の全部、全部。羽も、爪も、髪も、命も、心も。全部奪って」


………………………。


「サキュバスにそんなこと言って無事で済むと思ってるのかな? 可愛い天使ちゃん」


サキュバスは奪うもの。

それに、奪ってと言うのなら。

もう二度と、正しい世界に戻ることはできない。


「壊れるまで愛しちゃうよ?」

「壊れるまで愛して欲しい」


即答されちゃった。


あーあ。

無知な娘が狼の前に全財産携えてやってきたわけだ。

なんて美味しい。

思わず舌が唇を舐める。


「いいだろう。お前はこれより私のモノ。サキュバスロード、ブランの愛となれ」


右手を出す。

手の甲を、アンジュの前に。

意味はわかっているらしい、アンジュはひれ伏し、手を取った。


手の甲に唇が触れた。


「んっ……んんっ……!」


そのまま夢中になって私の手の甲を舐める。

台無しである。


「美味しくない」

「嘘つけ」


夢中だったでしょうが。


「ありがとう、ブラン」


と、意識が……また遠のいて……

なんだ、夢の中でもこうやって……

眠く……なって……


「おはよ、ブラン」

「むぁっ」


びっくりした。


起きたら目の前に美少女。

ロードだったころはいつもこんなんだったけど久しぶりだったから。


「……髪切った?」

「違う」


そして、そんなアンジュもなんだか変な感じ。

寝て起きただけで、こんなことにはなるまい。

右の目は青い瞳から金の瞳に。

白い翼は右翼が黒いものに。


めっちゃ影響でてますねこれ。


「ブラン、好き」

「……そういうのは起き抜けに言うものではありません」

「そーなの?」

「そーそー」


ムラムラしちゃうからね。


「とりあえずアンジュ、ステータス開いてみ」

「すてー……?」


おっと知らないか。

まぁ興味ないだろうしそうだろうな。


アンジュにあれこれ教えてステータスを開かせる。

ステータスは任意で第三者にも見せられる。


アンジュ

LV48 天使×サキュバス

スキル 《聖属性魔法》《急速再生》《啓示》《寒暖耐性》《魅了》《幻惑》《吸精》


おー。

こりゃあまた、私の上位互換じゃないか。

私の能力にまんま天使の能力が乗ってるらしい。

こりゃあずるい、極めてずるい。


「? 凄い?」

「ん、凄い凄い」

「そっか」


なんか嬉しそう。

羽ピクピクしてるし。


「ブランの、ブランのも見せて」


良かろうー、とステータスを開く。


ブラン

LV68 サキュバス

スキル 《吸精》《魅了》《幻惑》《魅了耐性》


……あれ。


「ブラン、つよいね、すごいね」

「いや……あれ……んー?」


なんかえっぐいレベル減ってるんだけど。

ノワールがドレインした?

いやそれは流石に、ノワールなら起きてる時にやるだろうし……


まさか、アンジュ?


「ねぇ、私と契約する時になんかこう、身体がふわふわしたとか無かった?」

「ふわふわ? んー……ぴりぴりしたかも」


やられた。

アンジュに私の力を吸い取られた。


というより、精霊の契約みたいなもの、だろうか。

精霊は自分の魔力を糧にさせレベルも上がる。

だから、高レベルの火の精霊など出力が高い精霊は一気に魔力を持っていくことがある。

だがまさか最大魔力から根こそぎ奪われるとは……本当にまさかだった。


「まぁ……いっか……」


アンジュは嬉しそうだし。

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