第6話 従者との

「ん……悪くない悪くない」


それなりに高い宿屋のベッドに転がる。

試しに店主を魅了してみたところ上手くいった。


引っかかっていたのだ、あの鳥ゴーレムたちの監視網の脆弱性。

つまり屋内ならば使い放題、とまではいかないが別に気にすることもないと言うことだ。


そもそも気になっていた、どうやって普通の魔法と魅了などの魔法を見分けているのか。

全魔力を感知するのであれば全ての魔法にガーガー騒ぐことになる。

だからかなり弱めに魔力を感知するように作られているのだろう、火を起こして悪魔呼ばわりなどされないために。

魅了や吸精などは人に干渉する魔法、魔力の流れは特殊かつ強い。

それだけを観測するのは難しくないだろう……本来なら。


私なら屋内で使えばギリギリ誤魔化せるぐらいに低燃費に魔法を使える。

屋内なら障害物も多く魔力の観測もよほど強くないと出来ないようだ。

つまり、私ならこの国で魅了と吸精が出来る。

ドレインは不明、あれも魔力を使うから。


《結界》系統のスキルを覚えるべきか。

結界とはさまざまな壁を作り出すスキル系統といえば分かりやすいか。

物理防御のために光の壁を作り出したり、熱を通さない壁を作ったり。

魔力を通さない壁を作ることも出来る。

それを使えば屋外ではともかく屋内では好き放題になるだろう。


おそらくこんなセキュリティホールがあるのはまだまだ実験段階のシステムだからだろうなぁ。

今のうちに甘い蜜を吸わせていただこう。


「ノワールぅー」

「はい、ここに」


私の足元から影が出てきてぬるっとノワールが出てきた。

人に見せられない。


「どーお、なんかある?」

「そうですねぇ、いやはやまだなんとも」


ノワールは私に黙ってこの国を散歩して情報を探していた。

私にバレていたことがノワールにバレていたため、結果として共有することになっていたが。


「冒険者たちの情報を多少仕入れましたが、如何いたしますか?」

「一応聞こうかな」


国によって冒険者は価値や立場、強さなどが変わることがある。

大きな国だと特に顕著だ、軍隊がいれば実際戦力として必要かどうかは怪しい。

当然ながら戦争がないときは金食い虫の軍隊と違い、何でも屋の冒険者はいつでも需要が一定あるのは確かだ。

良くも悪くも自由の効かない存在である。


「この国の冒険者ギルドはかなり大型。それも数カ所にあり、かなり立場は高いようです」


ほーう。

確かこの国には聖騎士団を組む予定があったはず。

なのに冒険者は立場が高い、と言うことはつまりまぁ……これまでは冒険者たちに頼りきりの戦力だったのだろう。

もちろん衛兵などもいたし、全く戦力が無かったわけでもない。

ただ単に、冒険者がいれば事足りた、という事なのだろう。


特にこの国には学校や公国ならではの強力な貴族などもいる。

前者は卒業した生徒がここに残留し、母国を守るために戦っている。

一方後者は、貴族は血筋によって魔力を遺伝することがあり、生まれながらに強力な力を持つものもいる。

それらが防衛力として機能していたのだろう。


しかし魔王が倒されたことにより、魔王の近くにいたものたちが一斉に解き放たれた。

それで今までは現場の努力で誤魔化せていた魔物の被害が自分たちに及ぶかも、と考えたのだろう、上流貴族は。

そうなれば常備軍の設置は必至。

近々冒険者の立場は大きく下がるだろう。

ここでの冒険者稼業は止めるべきだな。


「手に入れた情報はこの程度です。面白いものはあまり」

「いや充分充分♪」


思ったよりも悪くない情報だった。

偵察用のスキルは無かったからあんまり期待してなかったんだけど。


「それならば何か努力に対しての報酬を戴きたいのですが♪」

「えー? 図々しくない?」

「正当な対価の要求ですよ♪」


ノワールは昔からこういうところあったなーとか思いながらため息。


「ちなみにどんなこと?」

「そうですね……三日三晩肌を重ね、褥から溢れる愛に溺れながら、可愛らしい声で唄い合うという」

「却下」


ノワールは許可するとマジでやりかねない。

ていうか本当に三日三晩

一回だけ許可したことあるけど、あれは……ダメだ……


「なら仕方ありません、キスで構いませんよ」


最初に特大の注文をして却下されたのち、それの代案として自分の本当に求めるものを提示する。

最初の注文よりも小規模の場合"まぁそれなら"となりやすい、交渉術の基本だ。

その手には乗らない、と拒否することも出来るが、私はノワールに協力してもらっている立場。

そうそう無下には出来ないものだ。


「ほら、いいよ」

「感謝申し上げます……♪」


ぎし、ぎし、とノワールがベッドをきしませながら私の上に覆いかぶさる。


「ん……♪」


ノワールの柔らかい唇が首元に触れる。

最初は絶対に直接やらないのがノワールの趣味だ。


「ん……はむ……ん……」


ノワールは基本的にこちらがリアクションを取るまで舐める、吸う、甘噛みするだけ。

焦らしみたいなものだ。


「……ノワール」

「もう、少し、だけ……♪」


どちらかといえば、ノワール本人の焦らし。

ノワールは少し鈍感なきらいがある。

胸を好き放題に揉もうと、股の間に手を入れようと、声はわざと挙げるがその実感じているかは微妙。

絶頂を迎えるのに数時間かかることもある。

故に自分で自分を焦らし、ノワール自身の期待度を上げていく。

きっと次は、きっと気持ちいいと繰り返して。


「できあがり、ましたぁ……♪」


はぁ、はぁ、と吐息を荒げながら。

ノワールは100%の感情に仕上がった。

体温が上がり、白い肌が多少人に近づく。

美しい、そう思えるほどの妖婉さ。


そのままノワールはぎゅう、と私を強く抱きしめる。


「ん、んんんっ……!」


びく、びく、とノワールは震え、快感に悶える。

期待感の塊となったノワールは全身性感帯みたいなものだ、私に関するものごとなら全てが快感だろう。


「よろ、しい、で、すか」

「いつでもいいよ」


私もあれだけ首筋に吐息を当てられれば焦れるものもある。

さっさと始めてしまいたい。

なんならキスだけではなく最後まで。


「ん、んっ……!」


貪るようなキス。

舌をねじ込まれる、少女の体にはノワールの舌は大きい。

私の舌では到底押し返すことも、抗うことさえ出来ない。

力に押しつぶされ、私の舌は動かせなくなる。

まるで大蛇とトカゲだ。


「んっ、はぁぅ……!」


ついぞ嬌声を上げてしまったのはどちらだったか。

いつのまにか私もノワールと同じ表情になっていた。


「ん、おい、ひぃ……れす……♪」


ノワールは頬を、歯茎を、天井を、好きに舐めまわす。

舐められるたびにそこが猛烈に熱くなって、ぴりっとした快感が走る。

焦らされた分だ、ノワールの舌に、体温に私は強い期待を持ってしまっていた。


「んぁ……ん、んんっ!」


そして、もう少しで、というところで。


「ん……♪」


口が、離れていく。


ぽすん、とベッドに座り込む。


「の、わーる」

「キスだけ……そうおっしゃいましたよねぇ……♪」


ここでか。

ここで焦らしてくるか。

我が精霊ながら完璧なタイミングだ。


「なんだか物欲しそうな……顔をしていらっしゃいますが……まさか、本番まで……欲しかったのですか……?」


ふわり、とさっきより明らかに優しく抱擁されながら耳元に囁かれる。


「指で、舌で、声で、その身体に優しく、激しく、して欲しい、なんて……」


私は逆らえない、まるで呪詛だ。

力が全く入らない。

ノワールに抱きしめられ、逃げられない。

ぁ、ぁ、ぁ、と小さな声ばかりが喉から呻くように、手繰り寄せるように。


「して、欲しいですか?」


あらん限りの力を込めて、砕けた理性をなんとか拾い集めて。

ほしい、と声を絞り出す。


「ふふ……じゃあ、もっと可愛らしくおねだり。お願いしますね……?」


もうすっかりノワールはスイッチ入ってるな。

もう頭の中まっしろなんだけど。


そして、ある種の最高の盛り上がり、なんとまぁこんなときに来なくても、と言うところで。


きゃあああああああああああ!!

うわあああああああああああ!!

「っ!?」


外から悲鳴が聞こえた。

一気に現実に戻る脳内。


ノワールの腕を振りほどき外を確認すると。


「あはははははっ!」

「エサがいっぱーい♪」

「お前は私のものー♪」


……なんだか見たことある光景が。

すごい見慣れているというかむしろそれを起こしていた側だったと言うか。


あれうちの部下じゃね?

下級のサキュバスたちじゃね?


上空から飛来し、思い思いの男性に馬乗りしては服を破り散らす。

鳥ゴーレムは喚き散らしているが、たかだか警報装置だ、解決には至らないし魔法で破壊されている。

唐突に街で始まった乱行パーティ。

是非とも無視したいところだが私の部下だった奴らがやるとなると話は別、ていうかこれでサキュバス対策が向上されても私の不利益になる!


「ノワール!」


行くよ、と続けようとしたところで、止まった。


「くひっ……くひ……ひひひひ……」


ノワールが引きつった笑いで私の方を……いや、私の先、サキュバスたちを見ていたから。


「私と? ご主人様の? 情愛を? 発情した虫けらが? 邪魔した? は? なんの冗談ですか?」


あかんブチ切れてる。

ノワールはスイッチが入ってから何かが起こると物凄い不機嫌になる。

あーこれケアするの私かよ。


「一切鏖殺、塵芥一つ残さずに無に帰して差し上げましょう。ね?」


怖っ。

死ぬまで吸収オールドレイン前提で会話してる。

いやあれ会話してるの自分の頭の殺意とだわ、いかに早く殺すかの相談してるだけだ。


「と、とりあえず! 彼女たちは私の不始末みたいなものだから! 私に任せて、ね?」

「ご主人様の手を煩わせる訳には。今すぐにあそこの一切の生命を貴方様に捧げます故に」


それだと人も死ぬからここのセキュリティがエグいことになるから!


「あとで何でもしていいから、ね?」

「……………………………」


ノワールの中で天秤が揺れている。

怒りか、性欲か。


「……チッ、了解致しました」


性欲が勝ったらしい。

影に戻っていくノワール。


はぁ、さて。

部下の不始末を正しにいくかぁ。

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