第4話 芝居
久しぶりに女を味わった。
私としては年下が好みなんだけど、お姉さんもなかなか悪くない。
というかサキュバスロードだったときは基本威厳重視で大人姿だったし年下しかいなかった。
とりあえず使用済みだしで服だけ貰ってお姉さんだったものにさよなら。
収穫としてはまずまず、山賊にしては臭くないし。
今度は地下に行く、地面にはわかりやすく隠蔽された入口があった。
中には梯子、降りるとグールみたいな死体が数個、ボロボロになった食事とテーブルを囲んでいた。
貴重そうな指輪をつけているのがボスだな。
遠慮なく貰っておく、鑑定系スキルはないから値打ちや魔法のアイテムかはわからないけど。
「……あー……」
しかし、考えもなしに《虚ろの
倉庫の中の食料も全滅していた。
あんまりよろしくない。
ドレインで生命力を吸い取ったため体力的には大丈夫だけど、このまま都合よく山賊がいるわけもない。
「はぁ……まぁいっかぁ……」
適当な金品と使えそうな布を持ってさっさとその場を後にした。
「ん……ぶかぶか……」
"大変可愛らしいですよ"
さっきの女性の服を着る。
一般的な村人よりだいぶ動きやすく作られてる、ズボンが少し膨らんでる。
全身が緑色なのは森での活動を多くする冒険者ならではのものだ。
まぁそこら辺はなんでもいいんだ色味とか。
問題は布を使って結ばなきゃ丈がひどいことになっていること。
腕はまだいいけど足が致命的だ。
スネあたりで結び、不恰好な踊り子ぐらいの服装にはなった。
そして、今回一番の収穫。
「ステータスオープン」
ブラン
LV30 サキュバス
スキル 《吸精》《魅了》《幻惑》
うむ、良きかな良きかな。
"7人も吸い取ればこんなもの、ですね……♪"
人間視点ではレベル30にもなれば平均的なベテランの戦力に数えられる、冒険者ならば大体の依頼に行けるし、ドラゴン討伐みたいな大規模作戦にも参加出来る。
殺しもするような連中だったからか、潤沢に魔力を貯めていたようだ。
「いやー、なかなか悪くない……」
数字というのは高いと喜ばしいもの、借金とかそういうの以外は。
更に、この新しいスキル《幻惑》。
レベルアップで使えるようになったのだろう。
さっきの山賊の拠点みたいに草を増やしたりするのはもちろん、自分の姿やステータスまで詐れるようになる。
もちろん人間の世界では犯罪だった筈だが、そんなものに引っかかるほど私の技術は甘くはない。
ちなみにある程度行為のサキュバスはさまざまな人間に取り付くために人間社会や習性について勉強している。
下手すると人間たちより人間に詳しい。
……と。
ちょうどいいところに。
膝程度の高さの白い鳥が数羽地面で虫を食べているのが見えた。
あれは確かイビキアヒル。
ガーガーとイビキのようにうるさい声を出すからそういう名前だったはず。
早速幻惑のスキル、《
自分の身体が透明になるのはなんとも不思議な感覚だったりする、心が弱い人は発狂する、なんてことも言われていた。
イビキアヒルたちに近づく。
全く逃げる様子はない。
堂々と真横から首を掴み上げる。
ガーッ!?
グガーッ!?
二匹獲れた。
もちろん他のは飛んで逃げてしまったがまぁいい。
「ベール、調理お願い」
……………………。
"ベールさんは死にましたよ♪"
「そうだったぁ!?」
ノワール以外の精霊は全滅している。
調理技術を覚えさせたロリメイド型精霊ベールちゃん、お気に入りだったのに!
「ノワール……調理法とか……」
"申し訳ありませんが存じ上げません♪"
「だぁぁ……くそぉ……」
せっかく獲ったのに食べられないのか……
「はぁ……」
ガー!
ガー!
悲鳴にも嘲りにも聞こえるその声。
逃すのは癪である。
このままドレイン仕切って腹の足しにでもするか……
とか考えていたとき。
「なんだ……ありゃあ……」
っ。
声。
まずい。
イビキアヒルの声に誘われたか。
見つけたのは冒険者らしい4人。
イビキアヒルは透明化してない、いまのままではアヒルが苦しみながら宙に浮いているように見えるはずだ。
こうなったら、出来ることは1つ。
「……わっ」
「女の子……?」
透明化を部分的に解除する。
「驚かせてごめんなさい」
謝りながらアヒルを絞める。
短い悲鳴と共にアヒルは絶命した。
「私、遠くの方から来た部族、です。旅、してます」
あくまで喋り下手に。
わざと何かキョドキョドとして。
誠実さより、無知さ、不安感を演出。
「こ、殺さないでください」
「ま、待つんだ、殺す殺さないとかは無いから」
勝った。
まず翼と尾、さらに冒険者の証のバッジも隠すことで疑いの余地はない。
既に目の前でアヒルを殺したことでマナーや常識がないこともわかっているだろう。
多少下手なことをしても怪しまれることはない。
「それとも何か、悪いこととかしたの?」
「私悪いことしましたか!?」
「い、いや……俺たちに聞かれても……」
「と、鳥、殺すのだめ、でしたか? ここいたら、だめ、でしたか?」
「いや……そんなことはない、と思う」
ほふぅ、とオーバーに吐息を漏らし、安堵する。
「良かった、です。ありがとう、です」
そして押しの一手。
歩み寄り、アヒルを渡す。
「お昼、食べましょ! みんなで食べると、うれしい、おいしい!」
「ん、あ、あぁ……わかった」
戸惑いながらも冒険者たちは私と昼食をすることになった。
もちろん何も知るわけはない、私は。
しかし相手は冒険者、見るからにそれなりに手練れだ。
調理方法ぐらいは知っているだろう。
だからこそ。
「むしってー♪ むしってー♪」
アヒルの羽を乱暴にむしり取り。
肉が見えたと思ったら。
「いただきまーす♪」
かじりつくそぶりを見せる。
「えっ!? あっ、ちょっ!」
「ふぇ?」
わざとらしくきょとんとする。
「生で!? だめだよお腹壊すよ!」
「? こうじゃないの?」
あくまで狩猟民族の風習に見せかけて。
「貸して、二羽とも調理したげるから」
冒険者の女性が半ば強引にわたしからアヒルをとりあげ、手際よく魔法で羽をむしって内臓と血を取り除き焼いていく。
丸焼き、原始的な料理だが食べ応えは抜群。
「はい、どーぞ」
「ほぇ……」
切り分けられたところをおっかなびっくりかじる。
「ん〜〜〜〜っっ!!」
オーバーリアクション。
腕を振り跳ね回る。
冒険者たちは微笑ましそうに見ている。
もはやただの女の子として完全に信用している。
「うまい、うまい! これすごい!」
「だしょー? ほれほれ、もっと食べな」
「うんっ!」
それからは和気藹々風を装った食事。
別に興味もないので耳と口と表情以外を省エネ化。
手練手管であらゆるオスを落とすサキュバスだ、顔と返答を自動で行うことぐらい簡単に行える。
本心というか頭では別のことを考えているだけだが。
例えばこいつらを吸収するかどうかとか。
こいつらは冒険者だ、バッジもついているし。
武装もそれなり、やはり手練れ。
良く服なども整備してある。
これほどまで油断させながら近づいているんだ、ドレインする手段はいくらでもある。
しかし、ここはやらない。
油断はさせているが、万が一がある。
サキュバスにとって至近距離とは、相手を確実に仕留めた後に入る間合い。
殺す直前に入り、あらかた精を貪ってポイ捨てする。
《生かさず殺さず《デッドライン》》のような接触しないと使えないものはあれど、それも狙いに行くのは稀だ。
食事を終え、かなり強めにボディタッチして人間アピールしてから去ろうとすると。
「そう言えばお嬢ちゃんの名前聞いてなかったな」
「あ、そう言えば。なんて言うの?」
名前。
まぁ、基本的にあらゆる意味で本名を使う意味はないのだが。
「シェラです!」
「シェラちゃんね」
「じゃあ元気でねー」
私から背を向け、あの冒険者たちから視線を逸らしたように見えるように幻惑する。
幻惑耐性がないのか、1人の冒険者が私の幻影が離れたあたりで魔法を使った。
あれはたしか、鑑定の魔法のはず。
本当は貨幣の中身などを探るものだが、冒険者はステータスや相手の力を看破するために使う。
ステータスを看破すれば戦術も立てやすくなろうというもの。
この世界において少女がろくな装備も持たずに旅をするなどと言う現象はあり得ないと言っても過言ではない。
そもそも近くには山賊の噂が立っているだろう、おおよそ怪しむのには充分。
しかし、無意味。
「……人間だ、レベル15」
「嘘、絶対悪魔系統だって」
「鑑定の結果だ」
私の偽装を看破出来るものか。
今の私のステータスは、LV15の人間、スキルは透明化のみ。
そう見えるようになっている。
残念でした、ということで♪
鳥は意外と美味しかったよ。
相手が諦めたあたりで透明化を解除して冒険者たちの進んでいた方向に歩く。
するとすぐに街道らしい場所を見た、整備はされていないが馬車の轍が見える。
これに沿って進めば何処かに出るだろう。
こうなったら冒険者の証は要らない、土に埋めて捨てておく。
「んー……何しようかなぁ……」
"人類を悉く隷属させるのでは?"
「そんなわけあるかぁ」
サキュバスにとっての理想郷とは人間が家畜になっている状況。
私は興味ないからやらないけど。
まぁ、そういう意味ではサキュバスとしての夢は私にはない。
そういうことでやりたい事もないのだ。
冒険者でも入って遊ぶのもありだけど……
「まぁ……何もなかったら滅ぼそ♪」
"あぁ……相変わらず……素敵なお方……♪"
ぐいー、と体をほぐしてから歩き出すのだった。
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