決戦の地

をして参りました若。黒い騎士団は演習場に続々と集まりつつあります。その数およそ一万。これから一気にここに押し寄せるかと」

「よし、ここはスーリアに任せて打ち破ってみせよう。皆用意はいいな!」

「おお!」


 八人は馬を走らせ演習場へと向かう。高鳴る胸、はやる気持ち。これから一世一代の大勝負が始まるのだ。


 その頃市中では夕方に間に合うように瓦版屋が書き記したメモを元に、コーエン支持派の原稿書きの老人はこれでもかと言うほどリューホのクーデターを悪逆無道の振る舞いとして書いた。その原稿を元に活版印刷で三枚組にも及ぶ瓦版が、組み上げられていた。


 印刷が始まった。インクを塗り紙に写し取っていく。刷り上がった順に糸を通す。夕方にはなんとか間に合った。瓦版屋は第一版を担いでいつもの台の上に立ち、口上を叫ぶ。


「大変だ、大変だ。これからコーエン様とリューホ様が全面対決だよ!どちらが勝つかで俺達の暮らし向きもずいぶん変わるってもんだ。ここに詳しく書いてある。さあさあ、お代は安いよ。とっとと持ってけチキショー!」


 瓦版は売れに売れた。小僧が追加で次の版をもってくる。売り上げはいつもの倍以上に膨れ上がった。瓦版屋は思惑通りにいき、ニヤリとする。


「さあさあ、大変だ、大変だ……」




 どんよりとした雲が日差しを覆っている。皆馬を走らせると演習場に到着した。

「行くぞ皆俺に続け!」

 コーエンが、そう叫ぶと「おお!」と言う返事。まずは槍使いのドームが、先陣を切って槍を振り回し敵を突いて回る。

 次にスカッシュ、ウィルソン、そしてコーエンが、馬上から相手を切り伏せて回り、最後にギルとメイビアが、弓矢で敵の顔面を射ぬく。


 私は、小高い丘に登り馬を降り、一万人もの圧巻の敵兵を目の前にして、すっくと立ちあがる。


 正直言って怖い。足が震えている。前の戦争でやられたように顔面を槍で突かれたりしたらと思うとぞっとする。神様、今日はそんな事が起こりませんように……


 しかし私の武器はその顔なのだ。決して覆う事は出来ない。切羽詰まった状況の中、一歩、また一歩と歩を進める。


「まずその魔女を殺せー!」

 一団が迫ってくる。矢が飛び交い足に突き刺さる。

 しかしもう怯まない。矢を抜くとクオークがヒールをかけてくれる。やがて私の顔を見たものから同士討ちが広がってゆく。妻帯者は五人衆の方にまわっていった。


 そこへ表れたのが女騎士である。まさかこうくるとは思わなかった。私はその攻撃から逃げるしかない。その時!


 ザシュ!


 剣が、女騎士の喉を貫き血が吹き出ていた。剣を掴むその腕を手繰り寄せるとクオークだった。


「これでもおぅ一応 騎士ナイトにて」

 クオークの意外な一面を見た思いだった。


 私は大群の前に出た。私を中心に同心円状にピンクのオーラが広がっていく。大多数は、魅了にかかり同士討ちに、それ以外は馬で逃げ出すものもいた。


 すでに一時間は経過している。夕闇が迫ってくる。夜の勝負になると魅了が効かない。残りは後三千人ほど。様々な因子を考えたあげく、コーエンが指示を出す。


「今日はこれまでにしよう。一日でここまで削れるとは思ってもみなかった。オリビアに感謝だ」

 皆から拍手が上がった。

「しかし複雑な心境ですな。黒い騎士団ももとはといえば味方。それを倒さなければならないとは……いやはや、胸が痛みまする」

 ドームが神妙な顔をして呟く。


「敵に回れば倒さなければならない。それだけの事よ」

 ウィルソンが冷徹に口を開く。


「よし、城に戻るぞ。こんなところでうだうだしててもしょうがない」


 西の大道から街に入る。城に近づくにしたがってパレードの様相をていしてくる。街の人々が笑顔で手を振り、指笛が鳴り響く。


「これは……どうした事だ」

 私はピンときた。瓦版がすでに出回っているのだと。もうこの街には、リューホの居場所はない。


 コーエン達が城に到着した。コーエン、スカッシュ、ウィルソン。それぞれ百人は倒したであろうか。ギルとメイビアも、矢がつきてから剣に持ち替え善戦した。ドームも並び劣らずは言うまでもない。


 コーエンが父の食事がしっかりと配られているのかどうか見に行くらしいので私も同行する。地下牢に入って最初に目に入ったのは元ボヘミアの王である。


「牢屋暮らしには慣れましたか」

「なれるもなにも……わしゃなにが間違っていたのかのう。頭の中はその事でいっぱいじゃ。答えはないのかも知れぬが」

「良ければ子どもをお預かりしましょうか。幼子にこの環境は酷でしょう」

「本当か!わしゃコーエンどのは見込みのある人物と思っておったのじゃ。いや本当に」

「今は戦争中にございます。それが終われば本格的に取り扱いましょう。名前は?」

「デーデと申す。女の子じゃ。今は一番友達と外で遊びたい盛りじゃろうに。不憫に思っていた所よ。すまんのう」

 この人も王でなく、ただの町民であれば幸せだったものを。コーエンは自らを鑑みて、己の立場も紙一重だと感じていた。


 父の牢屋にいった。父の好きな焼き菓子をおみやげに。

「父上、どうですか牢屋暮らしは」

「ふん、からかうものではないわ。あの可愛かったリューホがなぜあのような恐ろしい男に変貌したのか、そればかりを考えておる。人は善き反抗期を過ごさぬと大人になってから極端な形で出ると聞く。そういえばリューホは反抗期などなかった。今遅い反抗期かも知れんのう」

「反抗期がクーデター…」

「そういえば本を差し入れてはくれぬか。暇で暇でしょうがない。のう、ボヘミアの王よ」

 となりに話しかけると「おーよ」との返事が。

「分かりました。今夜にでも図書室にある世界名作全集を運び入れましょう」


 そう約束してコーエンは牢屋を後にした。




 夜に入った頃リューホ達が街に帰ってきた。そこに待っていたのはリューホを阻む群衆であった。何万人もの人の群がリューホ軍の行く手をふさぐ。瓦版の威力は凄まじかった。民衆をこうも変えてしまうのだから。


「ブー、ブー!」

 嵐のようなブーイング。群衆に押されて、十五、六才の男の子が、前に倒れこみリューホの馬にぶち当たる。


 ざん


 リューホは怒りに任せてもっともやってはいけない事をやってしまった!頭を割られた少年は即死だった。


「きゃー!」


 しんと静まりかえった街に悲鳴が走る。リューホは自分でも後悔しながらその場を後にした。この横暴な殺人事件が次の日瓦版で配られたのは言うまでもない。


 隣の宿場町にリューホとその側近だけが宿を取り、兵士らはこの寒空の下、野宿を言い渡された。寝ろと言っても寝れる訳がない。そこにメイビアの姿が。


 人が集まっている所に行き、さも味方の振りをして皆をくどく。

「皆さんもう家に帰りませんか。なに、その黒い甲冑を脱いでしまえばいいだけの事です。私が先に行き、街の人々に投降した人達だと触れ回って参ります。もとはといえば味方の兵、街の人々も無下には致しますまい」


 その中の一人が黒い兜を地面に叩きつけた。周りの皆も同じように兜を脱ぐ。行列になった。皆俺も俺もと軍を離脱した。そのような動きになっている事をリューホはまだ知らない。


 結局リューホの元に残ったのは佐官、尉官などの上等兵以上の者だけ。その数五十人程度。部下の離反を押し留める事は敵わなかった。


 メイビアが、大道を埋め尽くしている群衆に語りかける。

「皆さーん、これからやってくる人たちは、リューホ軍を抜けて来た人たちです。拍手で迎えてあげましょう!」

 殺気だった空気がいくぶん和らいだように感じた。メイビアは先に進み、また同じ事を繰り返した。


 遅れてくる兵士達。皆控えめにパチパチと拍手を送る。勝者なのか敗者なのか分からない三千人の兵士。


 城の前にコーエンと私とドームが待っていた。そこへメイビアが現れた。

「ほとんどの兵士がついてきました。三千人はいるかと」

「三千人もか!たいした手柄だ。メイビア、礼を言うぞ」

「いえ私の手柄ではありませぬ。もともと皆もうリューホに愛想がついていたのでしょう、私は、導火線に火を着けただけにございます」

 コーエンが一言だけ言う。

「すべては明日だ。明日決着をつける!」

 そして必勝の凱歌を歌い始めた。すぐさま兵士の皆も歌い出す。中には泣き出す者もいた。

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