対峙

 よく晴れた太陽の下、コーエンとリューホが対峙している。コーエンの怒りは最高潮に達している。

「今日から兄弟の縁を切る。その首討ち取ってやる!」

「できるものか。戦は所詮数の戦いよ。十人程度で何ができる。はっはっは」

「お前は小さなころから俺の目障りになることばかりやって来た。俺は次男というだけでいつも我慢してきた。これほど目障りな男はいないと歯ぎしりをせざるをえなかった。しかしまさか俺の留守に俺の領地に攻めこむ暴挙を行うなどとは思ってもみなかった。おまえが俺に嫉妬をしているのは、小さなころから感じていた。お前が俺の何に嫉妬をしているのか、これではっきりした」


 矢がコーエンの太ももに突き刺さる。それを片腕で引き抜くコーエン。クオークがすかさずヒールをかける。

「お前には人望がない。王として致命的なことだ。人望がないと部下に対して様々な疑念をいだく。一度疑念をいだくとさらに疑念が疑念をよび、クーデターされるかもとの考えにたどり着き、その者を処刑せざるを得なくなる。こうなると恐怖政治を敷かざるを得なくなり暗黒の時代がやってくる」

「うるさい、うるさい、うるさーい!べらべらべらべらと弟のくせにご託を並べやがって。目障りなのはお前の方だ!人望がないだと?それはお前の方だ。徴兵を勝手に白い騎士団等と名付け兵隊ごっこをしてみたり、下男や下女のご機嫌とりに菓子を配ったり、それらすべてが疎ましい。五人衆などとのたまい徒党を組み、一人では何も出来ない証左ではないか。そのような者に人はついていかん。己の未熟さを思い知るがいい!俺だったらそこの魔女にカンパラの番を任せて旅立つものを。己の思慮の浅さを泣いて悔しむがいい。」


 するとコーエンが楽天的な事を言う。

「お前は捕まり次第処刑する。しかし姉さんの方は哀れだ。処刑は見送ってやる。安心して地獄へ行くがいい」

「なにおー!こっちはその魔女は火あぶりの刑だ。震えて地獄へ行け」


 幼いころからの確執が、二人から吹き出している。どうにも埒が明かない。私は前に出る決意ができた。


「私が行く!クオーク、ついてきて」

「は!」

 ドックに梯子をかける。その間にも矢がひゅんひゅん飛んで来る。私は肩と脇腹に矢をうけたが、自分で引き抜きクオークにヒールを掛けてもらう。


 すると矢の攻撃が止まった。同士討ちが始まったのだ。


 リューホが叫ぶ。

「ええい何をしている。あの魔女を殺さぬか!」


 同士討ちを嫌って逃げ出すものがおよそ半数。黒い騎士団には妻帯している者が多いのだ。


 リューホが踵を返し叫んでいる。

「お前らは全員首だー!」

 声が遠くになってゆく。


「さて入り口は開きましたわ」

「うん、ご苦労様。痛くはなかったかい」

「心臓と頭をやられなければ大事ございません」


 やがて五人衆達も外に出てきた。梯子を降りクワイラの地に降り立つ。


「白い騎士団を全滅させるとは……卑怯にも程がありませぬな」

 ドームが涙目で呟く。

「とにかく城へ急ごう」

 コーエンの目にも光るものが。




 黒い騎士団の武将が乗り捨てていった馬が十頭ほどふらふらしている。メイビアにスーリア、スカッシュにコールを後ろに乗せるように言い、城を目指して出発だ。私達はゲーテの無事を祈る。もしもゲーテが気病を発症させられた黒幕までもが、リューホだったら……考えたくもないが万死に値する!


 森を抜け、小川を通り、田園地帯に入ったここから城まで一直線だ。皆、心持ちはやって走る。


 それにしても兄弟の確執がここまで深いとは思わなかった。リューホがコーエンを嫌っているのは、クワイラの城暮らしの時なんとなく察していた。人を見下すようなグレーの目。そしてコーエンが王様になにかを言う度に見せる冷たい表情。しかしコーエンがいなくなった途端に何も罪のない白い騎士団までも皆殺しにするとは……悲しくて私ももらい泣きしてしまう。


 ネーゼの街が見えてきた。中央大通りと左右に大道がある、俯瞰して見れば十字形になっている街だ。今回の事の顛末を知れば、街の人々は、どう思うだろう。そしてそのような男が国を治めると知ったら……。


 私は暴露しようと決めた。あの男が権力者になる前に、すべてを街の人々に伝え、あの男に政治をさせなくすればいいと考えたのだ。


「ちょっと待ってて」

 辻でいつも瓦版を売っている男の所へ行くと、

「すべてを見て、聞いて、書いて頂戴」

 と、その男を馬の後ろに乗せ取材許可を与えた。

「王座を巡る戦いでございますね」

 いくぶんその男は高揚しているように見えた。




 城には早速十数人の兵士が。私がピンクのオーラを放つと誰も攻撃してこない。一人私にプロポーズをしてきたが、コーエンが足蹴にする。


 馬丁に馬を手渡すと、門をくぐり城の中へ。私は、ここに至った顛末をボヘミア落城にまで遡り瓦版屋へ話していく。


 大広間へ出た。王妃の席にはやつれたお義母さまが。

「やっと来てくれましたかコーエン!」

 コーエンとお義母さまがハグをする。そして私とも。


「父上はどこに?」

「さあ、分かりません。いきなり兵士達が来てどこかに連れ去って行ったのです。多分地下牢ではないかと……最悪殺されているかも知れません。うう。リューホがあんな子だったなんてちっとも知らない私が愚かでした」

「地下牢に行ってみよう、まずはそこからだ」


 私達は秘密の通路を抜け地下牢に。案の定そこにいた。となりにはボヘミア王も。

「父上、コーエンがただいま戻りました。もうなんの心配もございません」

「待っていたぞコーエンよ。あやつめー、クーデターなんぞを起こしてからに!あのような人間に育てた覚えはこれっぽっちもなかったのに」

「首がつながっているだけでもよしとしなければ。父上には安全を考えて、もう少しここにいてください。私がリューホめを捉えるまで」

「むう、仕方ないのう、分かった。待っておるでの」

 瓦版屋は売れ残った紙の裏に逐一羽ペンで書いていく。なにも書き残さないように。


 地下牢から地上へと上がる。ギルを厨房へと走らせ食事の準備をさせる。その間に私達は、ゲーテが待っている離れへと向かう。


「……というわけで、誰かにこの病を起こさせる気がないと、発症しない病気なの。私達はこれもリューホの仕業だと思っているの。何故ならコーエン様亡き後、一番目障りな相手になるであろうから……ともかくゲーテ様を見て頂戴」

「分かりました」


 門をくぐり、ゲーテの部屋に来た。

「ゲーテ、生きているか…」

 そこには死骸のように成り果てたゲーテの姿が。顔は骸骨のようになり、体も骨と皮だけになっている。


「これはいかん」

 気病の医者スーリアが、ゲーテをうつ伏せに寝かせる。そして背中の経穴に持参した鍼を打ち込み、その上にもぐさを刺し火をつけた。

「もぐさの火を絶やしてはなりません。それと牛の乳と卵を混ぜた飲み物を与えるのです。早くしてください」

 スーリアが侍女に指示を与える。


「ここからここまでの経脈が淀んでおりまする。もう一点打っておきましょう」

 スーリアがもうひとつの鍼を素早く取り出し上の経穴に鍼を打ち込みまたもぐさに火をつける。


 侍女が言われたままに飲み物を持ってきた。少しは楽になったのか、口に当てるとすすり始めるゲーテ。


「二、三日もすれば快方に向かうでしょう。それまではなるべく私を一人にしてください」


 果たしてこのスーリアという若者、しっかりと治してくれるのか、それともゲーテを死にいざなう悪魔の使者か。


 その真贋を見極めるすべのない一行であった。


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