凱旋

 次の日の朝は早かった。通常三日かけて行くところ、今日の夕方にネーゼへ到着するためだ。

「いくぞ!今日の夕方には帰ろうぞ」

 コーエンが勇ましく叫ぶ。

「おお!」

 全員それに続く。皆も早く帰りたくてうずうずしているのだ。


 心持ち早馬で進んでゆく。もうすぐ夏も終わろうとしている。つくつくぼうしが命を燃焼するかのように忙しなく鳴いている。


 夕方四時頃、首都ネーゼの町に帰ってきた。戦況は斥候によってことごとく伝えられており、沿道に集まって来る人を兵士が押さえている。


 街には南大門があり、真北に王城がある。その大通りを一行は堂々とそして勇ましく進んでゆく。


 城に近づいて行くごとに見物人が多くなり、はち切れんばかりの群衆が拍手で迎えてくれる。しまいには「カナック行進曲」がどこからともなく聞こえてきて、誘われる様に大勢が歌い出す。コーエンが大衆に手を振っている。


 俺は感動と、誇り。鳥島にもこのパレードを見せてやりたかった思いが交錯し、つい涙ぐむ。


 城が見えてきた。群衆の熱狂は最高潮に達する。


 そこへ突然群衆に押されたのか女の子が隊列の前に転がり出る。

 人々が「おぉ……」とどよめくが、コーエンはにっこり笑い女の子を抱き寄せると一緒に馬に乗せパレードは続く。コーエンの優しさを知った群衆はまた熱狂的な拍手で迎えるのであった。


「コーエン様一同、お帰りー!」


 城の門が開く。感涙したまま門をくぐり馬を馬丁に渡すとコーエンに抱きつく。コーエンは全てを察してぐいっと抱きしめてくれる。俺は緊張の糸がほぐれて、わーわー大泣きになる。


「コーエン様、ご無事のご帰還、おめでとうございまする」


 ドームが片膝をついて口上を述べる。その顔には慈愛に満ちた微笑みが浮かんでいた。


 スカッシュ、ウィルソン、ギルにメイビア。皆いい顔をしている。


 城の前庭に白い騎士団が続々と入ってくる。最後の一人が入ったのを見届けてコーエンが大声で皆に告げる。


「我ら白い騎士団は三百年の呪縛を突き破り、遂にボヘミアの地を落とした。それは長い道のりであった。今宵は城内に入る事を許す。存分に飲んで騒ごうぞ!」


「うおー!」

 全員が雄叫びをあげる。


「まずは風呂だ。風呂に入って戦地の垢を落としてこい!」

 コーエンが大声を出す。


 王宮に入る。上にはあの相対するライオンの彫刻が。元々本家と分家の関係だった両国。それを暗示するかのような紋章に、俺はなぜか不吉な影を見た。


 コーエンは王座に座っている王に、戦勝の報告に行く。俺もそれについていく。

「ようやったなコーエン。そちの今回の働き、見事であった。今宵は存分に飲もうぞ」


「はっ!まずは勝利の報告を申しあげたいと思います。戦況は困難を極め、特に城塞の攻略に苦慮いたしました。そこで現れ出たのがここにいるオリビアにございます。彼女は不思議な力を持ち、顔を敵に見せると敵が同士討ちをするのでございます。そして五人衆の働きも目を見張るものがございました。それらを総て取り仕切っていたのが、ドーム・ハリスンでございます。こやつは騎士ナイトから男爵へ昇格させとうございますが、いかがでございましょう」

「好きなようにするが良い。それとオリビアよ、よくぞ最前線に立って戦った。並のおなごにできることではない。誉めて使わす!」

「ありがとうございます、お義父さま」

 俺はしずしずとかしずく。


「これでボヘミアという国はなくなり単なるボヘミア地方になった。いや、そうじゃのう、ボヘミアという名前そのものを変えてしまおう。これは後で学者達と協議の上、わしが決めよう。それより宴じゃ!今宵は飲むぞ」

 デミアン王は豪快に笑った。




 俺は風呂に浸かり侍女に髪の毛を洗わせている。

「きれいな髪ですこと。コーエン様を射止めたのもうなずけますわ」

 俺は気持ちよさに思わず寝かかってしまう。

「今回の戦争では、姫様が多大なる力を発揮したとか。魔法使いですか姫様は」

「魔法使いじゃないけど……その…なんていうか……」


 眠ってしまい思わず湯船に潜りこむ。危うく溺れるところだった。

「あははは」

 思わず地が出て、下品に笑ってしまった。きょとんとしている侍女。

「すみません、元々村娘なものですから」

「村娘から王女に!うらやましい」


 風呂から上がるといつもの垢擦り女が待っていた。

 これも大層気持ちよく完全に眠ってしまった。疲れが一気に吹き出したのだろう。


 俺がされるがままになっていると、下半身の敏感なところもごしごししごく。そこでやっと目が覚めた。




 大ホールではパリッとした制服に着替えた白い騎士団が全員集まっていた。俺が白いドレスで現れると会場は拍手で盛り上がる。


 それを待っていたかのように王様が口火を切る。

「これで全員集まったようじゃの。ではこれより祝勝の宴を催す。三百年にわたる因縁によう立ち上がってくれた。礼を言うぞ。それでは大いに飲もうではないか。乾杯!」

「かんぱーい!」


 テーブルにはオードブルが並び、俺は好物のフライドチキンを食いまくる。その食いっぷりにあっけに取られる四、五人の兵士。


 それに構わず今度はシャンパンだ。この酒が抜群に旨い。一口飲むと胃が燃えるようだ。回りを気にせず兵士が継いでくれるのをかぱかぱ飲んでいく。


だいぶ酔っ払ってきた。それを待っていたかのようにコーエンが横に来る。そして耳打ち。


「今日の俺はほとんど飲んでいない。寝室へ行こう」


もう逆らえないなと観念する俺。黙ってコーエンの後ろをついていく。


ベッドへどさりと投げだされた。コーエンは素っ裸になり、キスをしながら俺のドレスを脱がし始める。

コーエンの激しくも優しい愛撫に俺も感じまくる。


しかしいざその時がくると、またもやずざざざと後退りをして頭を下げる。

「お待ち下さいコーエン様!」

「今度はなに?」


明らかに不機嫌な声でコーエンが聞く。


「私のスキル、魅了は処女を喪失することによって消えてしまうんじゃないかと思うんです!」

しばし、いろいろ考えていたコーエン。そして結論を下す。

「なるほどな。処女のお前だからこそ男達が魅了される訳か。一理ある。う~ん」


俺は思わず自分でも驚くことを口走った。

「お口でしましょうか?」

「そ、そうか!それはいい。頼むよ」


コーエンは、ベッドの上に仁王立ちになった。

俺は意を決してコーエンの前にかしずき、勃起したそれをむんずとつかむ。


「いきますわよ」

「来い!」


目をつぶりコーエンのそれを舐め始める。

「そ、そこだ!ああ、いくっ!」


コーエンの体液を口いっぱいに頬張ることになった俺。


こうしてその夜はふけていった……。

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