尋問
「さて、忙しくなるぞ」
コーエンが、寝室にあった高級そうなシャンパンを五人衆に振る舞う。そして自分はボトルから直にのんでいる。
「かー旨い。勝利の美酒ですな」
ウィルソンが思わずうなる。
「ほんにほんに。これ以上旨い酒はありませんな」
ギルが相づちを打つ。
「飲んでごらん、旨いよ」
コーエンは俺とメルにも一杯づつ差し出す。これはなんだ?炭酸が効いて抜群に旨い!
まずコーエンは部屋を出て行き、外で待っている白い騎士団の中から二人選び出し、なにやら告げている。その男達は敬礼をしたあと、そこから立ち去った。
「
それを聞いて抱き合って泣き叫ぶ王妃と王女。
「なーに、危害は加えませんよ、王妃様」
泣いていたのが一転喜ぶような、困惑したような複雑な表情になる。国王ダライも安堵したようだ。
「棺桶は空のまま、墓地に埋めます。そしてあなた方は我がクワイラ城の地下牢に幽閉します。期間は一年。その後農民に格下げです。耕作地つきの農家を与えますんで、そこで一生農民として過ごしてください。自由になったからと言ってまた王を名乗り城に入ったりしないように。その時は我が白い騎士団がすぐに動き、また戦争になります。白い騎士団の強さ、まざまざと目に焼き付けたはず、おかしな振る舞いを少しでも見せたら、すぐに駆けつけ城を奪還してご覧にいれまする。そして、次はないですからね。その素っ首落としてもらいます」
強い口調で言い渡すコーエン。笑顔で審判を言い渡していたが、その目は笑っていない。
ダライ王はそれを聞き、絶望的な顔をする。
「一年……そして農民に……」
「さて王よ、あなたに質問があります。ここのところ妙な病が流行っていまして。クワイラはもちろん、ゴライアス、ネイゼルの王子にだけ発症する、たちの悪い病気です。『気病』と言うのだそうです。ご存知ありませんか?」
「き……きびょう?」
「なぜかここボヘミアの地だけはかかっている王子、妾の子も含めておりません。理由に付いてお分かりになりませんか」
「そんな病気、わしゃ知らんぞ」
「あくまでしらを切るか!ダライ王!」
コーエンは剣を抜きダライ王の首筋に当てる。
「ひっ!」
ジリジリとした時間。コーエンの顔に殺意が見え隠れする。
コーエンは剣をしまうと、また穏やかな表情にもどる。
「いつもいつも国境線を越えてこちらを煽る試み、まさかあなたの指示ではないとおっしゃりますか」
「………」
コーエンは再び激昂し、ダライ王の顔を足蹴にする。
「悪かった、悪かった。わしに言えるのはそれだけじゃて」
震えるダライ王が小さく見えた。
「スワニー王国はご存知ですね。双子のアガーとベニムのことも。そもそもこの地域も兄アガーの正当なる後継者、我々クワイラが治めるべきものなんです。違いますか」
「それは……」
ダライ王が反論しようとすると、再び足蹴にする。
待つこと一時間、先ほどの兵士が棺桶屋を連れてきた。偽装だとしても本人達には恐怖に違いない。
「お、王様、私はもしかして死んだものかと」
「棺桶に足を突っ込むとはまさにこのことじゃ」
ダライ王はしゃれにならない冗談を口にする。
棺桶屋が三人の身長を測り始める。
そこに、部屋に駆け込んできた白い騎士団の男が一人。
「若!南西の方角より敵の第三陣が現れたそうにございまする。その規模千人!」
「そうか。ドームよ、ここの仕切りはお前にまかせた。スカッシュは墓場に穴を掘る算段をつけよ。俺とオリビアとメルが相手を迎え打つ」
「はは!お任せください。御武運を!」
コーエンに付いて城壁の外に出るとボヘミア軍の大量の死骸と重傷者で溢れかえっている。三人はそれを避けながら南大門へ向かう。
さらに城塞の外へ出る。敵は馬に乗り、雄叫びを上げながらせまりつつある。俺は顔をあげ、ピンクのオーラを敵に散りばめる。
俺の魅了にかかったやつから、同士討ちが始まる。今度の相手は千人。これまでで最も多い。
左の肩に矢が刺さる。メルがすかさずヒールで治してくれる。敵の後方まで歩いて行くとジグザグに魅了をかけてゆく。その時!
ズン!
顔を槍で突かれてしまう。完全に戦意喪失して、その場にへたりこんでしまった。
コーエンが応援に駆けつけてくれた。メルがヒールをかけるも足が震えて立てない。
「少し休んでいろ!」
コーエンが声をかけてくれる。しかし俺はスックと立ち上がり顔を上に上げる。これだけが俺の武器だからだ。
俺は胸のボタンをむしり取り、胸の谷間を見せつけサービスする。敵兵の同士討ちがさらに激しくなる。
そのうち……
戦場から逃げ出す者が多くなっていく。おそらく既婚者であろう。
敵兵はほぼ全滅した。戦場は静かになった。遠くの駐屯地は馬で駆けて五日もあるという。
城塞内の食堂に入り遅い昼食をとる。ボヘミアが征服された事が庶民にも広がりはじめている。
「旦那がた、クワイラの兵士の方かね。うちの王様は、やはり死罪かね」
「もうとっくに死んでるさ。」
「あんれまあ」
「もう棺桶に入っている頃だと思うぞ。さっき棺桶屋が城に入っていったからな」
「なんでもクワイラ軍の中に恐ろしい魔女がいて、その魔女がボヘミア軍を全滅させたとか。あー恐ろしい、くわばらくわばら」
女主人が厨房に引っ込んでいく。コーエンが面白がつている。
「恐ろしい魔女だってさ、あはは」
「もう、笑わないでくださいよぅ。こっちだって必死なのに」
「はは、ごめんごめん。お前の装備は鉄の腹巻きしかないからな。よく前線で戦っていると思うよ。怖くはないかい?」
「怖いけど……メルがいるし、自分のやることをやるだけよ。でも後どれくらい来るのかしら」
「少なくても十軍団だな」
「そんなに残っているの!」
「わははは、安心しろよ。後で兄さんに、黒い騎士団残りの九千を回してくれるように文を書くから」
「ふー助かった。それでようやく解放されるわけね」
「そうなる事を祈ってるんだな。今日は多分これで終わりだろう。ご苦労だったな。でも最低あと四日はここで戦って欲しい。その辺りが山場になるだろうから」
コーエンは事も無げに切り出す。
「敵の軍団は近い順に城を奪還しようとやってくる。一番遠い町、港町のエンジュラは、馬で七日かかるらしい。そして最も数が多いんだ。その数千五百。だからここの大将には文を送るつもりだ」
「文って、どんな」
「攻めても無駄だってね。こちらにはまだ一万の軍団が残っている。千五百程度ではとてもかなうまい。身分の保証はするから、大人しくしとくんだってね」
俺はため息をつく。
「後四日かぁ。でもなぜ四日なの?」
「この城に到着するのに三日かかっただろう?文を持たせて早馬で向こうにつくのが一日、黒い騎士団が挙兵をし、ここに到着するのが三日だからだよ。それまではお前に残ってもらわなきゃならない。やってくれるな」
「まかせといて」
俺は素直にうなずいた。
頼んだフライドチキンが運ばれてきた。三人は必死に食らいつく。もう王女の身分なんて関係ない。がつがつと食いまくる。脂が乗っていてとにかくうまい。途中にパンを挟みながら食すと、手と口の周りがべとべとになっている。次にパエリアが運ばれてきた。ハーブの香りが食欲をそそる。
「すごい食欲だな」
コーエンがちゃかす。
「だって戦いの最中ですもの。食べて精をつけないと!」
急激に襲ってくる眠気。勘定を済ませ、城に戻ると、ばたんきゅーでベッドにたおれこむ。コーエンがドームに皆をつれて飲み食いしてこいと、十万ルピアを渡している。
コーエンは文を書く準備を始めた。
昨日はほとんど寝てなかったので、俺はその様子を見ながら深い眠りに落ちていった。
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