第二章 領主の醍醐味

開戦

 次の朝、高台から白い騎士団と黒い騎士団が揃って眼下の城塞都市、カンパラを眺めている。よくは見えないが城塞の上を衛兵が行ったり来たりしているようだ。10Km四方のその首都はこれから起きることも知らずに夢の中にいる。


 まだ夜が明けたばかり。背後の広葉樹の森が風でざわめいている。涼しい気候でハイキングにでも行きたくなるほどだ。朝日は登っていない。これから運命の勝負が始まる。


 コーエンがゆっくりと剣を振り下ろす。それを合図にまずはドームが、続いてスカッシュとウィルソンが、続いてギルとメイビアがそれぞれ馬を進める。その五角形の中央にコーエンが入り、その後ろを俺とメルが着いていく。


 次第に速度を増す白い騎士団。後から黒い騎士団も追ってくる。


「ウオー!」

 雄叫びを上げながら正面の南大門に取り付く。正門は閉まっている。5m程の高さの城塞に梯子がかけられる。白い騎士団が登ろうとすると、上から槍で応戦してくる。しまいには梯子が押されてひっくり返るしまつだ。


 南大門に取りついた俺たちにも矢が飛んでくる。極限状態のなか、メルが俺の尻を指さす。何かと思えば矢が刺さっているではないか。俺は矢を引っこ抜き、メルがヒールをかける。

「ヒール!」

 痛みは取れた。メルは再度梯子をかけられた場所へ果敢にも走り出す。俺も負けじとメルを追う。


 梯子がかけられた所の下には槍で傷付いた者が何人か座り込んでいた。メルが片っ端からヒールで治していく。


「らちが明かねーな、俺が行く!」

 コーエンが颯爽と叫び、梯子に手をかける。俺がピンと閃き、コーエンの後を追う。


 二人で梯子を登って行くと槍を持った敵兵が構える。俺は兜を脱ぎ、素顔をさらす。


 コーエンの背中から左に顔を出す。ピンクのオーラが漂い、敵兵と目が合った。すると左の兵士の目がとろんとして右の敵兵を槍で突き倒したではないか!


 作戦は成功である。次に弓矢の部隊がこちらに狙いを定める。今度は右に顔を出すと、お互いを矢で貫き始める。


 コーエンがようやく城塞の上に上がる。そして俺の腕を引っ張り上げる。


「よくやった!」


 そこからは後を付いてきた五人衆の独壇場であった。コーエンが敵兵を切り伏せ、ドームの槍がヴォンとうなり、スカッシュが軽業師の如く舞い踊り、メイビアが敵兵の心臓を射抜く。


 俺は城塞の上から内部に集まっている兵士に顔をさらす。ピンクのオーラが波紋の様に広がっていき、同士討ちがはじまった。味方同士でやり合うそのさまは、少し哀れな気もした。


 俺が気を抜くと脇腹を槍で突かれてしまった。

「ふぐ!」

 俺は槍を抜くとメルがヒールをかけてくれる。すぐに立ち直り槍使いの方をむくと、既婚者だったようでそれ以上の攻撃はしてこない。すぐに雪崩れ込んできた白い騎士団との戦いに移っていった。


 城塞を突破すると、城塞に上がる内部の階段をコーエンが目指す。しかし下では同士討ちの真っ最中だ。ここはしばらく様子見だとコーエンが指示を出す。


 やがて死者や怪我人などが狭い通路を重なる様にふさぎ、 足の踏み場もなくなると白い騎士団は南大門内を目指す。内側を守っている兵士らを軽々と切り回していくと、南大門の内側に着いた。そこは巨大なかんぬきがかかっており、四人がかりでそれをはずす。


 どっとなだれ込む白い騎士団と、黒い騎士団。


「お前達は門で敵兵を足止めをしろ!」

 コーエンが指示を出す。


 隣町の千人程の一団が走って迫ってきた。俺は門をくぐり前に出て敵兵を迎え打つ。兵士らは俺の美貌を見ただけで、狂ったように同士討ちをはじめる。


 するとコーエンが指示を出す。

「オリビア!作戦変更だ。俺に付いてこい!」


 俺は言われるがままコーエンに付いて行く。

「城に向かうぞ!」

 敵が同士討ちをしているなか俺とメルは北へ走る。南大門から王宮に向かう大通りを疾風の如く進んでいく。


 やがて王宮前の広場に出た。そこへ王宮から「うぉー!」と叫びながら出てくる一団が。


 数は二百人くらいか。俺は魅了をかける。広場前でもくんずほぐれつの同士討ちが始まった。


 これほどの人数がやり合う様を見るのは圧巻であった。しばらく影に隠れて様子見だ。


 その間にも続々と追い付いてくる白い騎士団。広場の惨劇を目の前にして、絶句している。敵が全滅してくれるまで時をかせぐ。


 王宮にも城塞があり、敵を阻む。後方から梯子が運ばれてくる。こちらの城壁は3mくらいか。弓矢隊がずらりと並んでいる。俺はメルを連れ先頭に立ち、真っ直ぐに歩を進める。


 敵兵から矢の嵐だ。心臓近くを貫かれた時には一瞬ひゃっとしたが、メルがヒールで治してくれる。


 やがて俺の顔が敵兵に見える場所まで接近する。半分程がその場から立ち去り、残りはお互いを射抜き合っている。俺は頃合いを見定めて梯子をかけるように合図を送る。


 城壁に梯子がかけられ白い騎士団が先を争うように登ってくる。ここまでに二時間も要した。太陽がもう空高くへ登ってきた。しかし風はまだ冷たい。


 俺達は王宮内部に侵入する。玄関前の庭園のベンチで一休みだ。かなり体力を消耗している。俺が肩で息をしていると、コーエンがやって来て俺の横に座る。

「疲れたろう。はい、これ」

 コーエンが水筒を渡してくれる。

 俺は水をごくごくのむと、生き返った心地だ。

「さあ、後一踏ん張りだ」

 コーエンが俺の背中を優しく叩く。俺は水筒をメルにも渡して、すっくと立ち上がる。


「どこに敵が潜んでいるかわからないから慎重にな」

 白い騎士団は一丸となって王宮内部を目指す。言うか言わないかの後、十人ほどの敵兵が槍を構えてこっちへ向かってくる。

「うぉー!」

 相手も必死なのだ。ドームが壁になり、槍で相手を突いていく。すり抜けた相手は ウィルソンが切り倒す。


 良くみるとドームの足には大きな切り傷が。それをみたメルがヒールで治してやっている。


「よし、突入するぞ!」

 まずは城の玄関に向かって、力自慢のドームが体当たりを食らわせる。二回、三回……スカッシュも同じタイミングで体当たりをすると内側の鍵が壊れて二人とも雪崩れ込んだ。


「半分は城を取り囲み護衛に当たれ!後半分は俺に付いてこい!」

 コーエンがてきぱきと指示を出す。中に入ると玄関ホールだ。正面には鮮やかな曲線の二階に通じる階段があった。迷いなく、階段を進むコーエン。斥候を使って間取りが頭の中に入っているに違いない。


 二階を進んで行くと衛兵が十人ほど剣で向かってくる。揉み合いが続いたが、最後の兵士もコーエンが仕留めた。


 衛兵が守っていた部屋のドアを静かに開ける。王夫妻は見当たらない。そろりそろりと進んで行くとクローゼットがあった!俺が恐る恐る開けてみると、中から悲鳴が。コーエンがそれに気づき、中に入っていく。そして、王と思われる初老の男に剣を向け、中から引っ張り出す。それに続いて王妃と思われる女性と、八才くらいの幼子が。


 三人はガタガタ震えながら 大人しく床に座り込んだ。

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