気病

 涼しい夏の朝がきた。どこからか鳥のさえずりが聞こえる。俺は十分に睡眠を取り爽やかな目覚めだった。


 隣にはコーエンがまだ眠っている。俺はコーエンに目を移すとはだけたガウンの下は素っ裸ではないか。しかも下半身は朝だちで、ガチガチにおっ立っている!俺は目を丸くした。こんな太いものが入る訳がない。


「起きてたのか」

 コーエンも目を覚ましたようだ。起き上がり「頭痛てー」と言っている。


 俺はドキドキしてきた。今度こそは逃れられないだろう。コーエンはガウンを脱ぎ捨てた。俺はウェディングドレスを脱ぎ下着姿だ。


 コーエンが俺に覆い被さってきた。俺の下着を剥ぎ取り胸が顕になる。


「かわいいよ」

 コーエンがキスをしてきた。胸の高鳴りが最高潮に達する俺。


 ――逃げちゃだめだ。逃げちゃだめだ!


 再び俺に迫るコーエン。おっぱいを揉まれ、乳首をもてあそばれると、俺はとろけそうになる。


 ずざさささーとまたもや平伏してしまった。


 コーエンはいきなり俺の顔の横の壁を「ドン!」と叩いてまた顔を近付ける。キュンとなる俺。


「分かっています。私はコーエン様をお慕い申し上げております。しかしながら体が……体が勝手に逃げよう逃げようとするのです」

「それって恋愛の対象じゃないってこと?」

「そうではありません。なんと言うか…レ……」

「れ…?」

「私は…レズビアン……なんです…」


 コーエンはあっけに取られた顔をしている。そして髪の毛をぐしゃぐしゃかきむしる。


「男を愛する事はできないの?」

「出来ます!現にこうやってコーエン様を愛しています。でも体がいうことを利かないんです」

「ややこしいなあ、そのレ、レズ……」

「レズビアン?」

「どっかで聞いたことあるけどさ、その病気、気の病だろ。治るの?」

「改善することはあると思います!」


 本当のレズビアンの男役の人はこういうシチュエーションでなにを思うのだろう。似たような感じを持つんじゃないだろうか。


「ま、いいやそこに寝て」

「な、なにを」

「これ見てよ、これ!」

 コーエンはおっきした陰部を指差した。

「これどうにかしないと」

 そういうと、俺を横向きに寝かしつけ、やおら乳房を揉みはじめた。それから乳首を口に含みチュウチュウと吸い始めたではないか!


 俺の体に電撃が走った!き、気持ちがいい!人に吸われると何でこんなに気持ちがいいんだろう。俺のあそこがみるみる濡れていくのが分かる。


 するとコーエンは自分の陰部をしごき始めた。


 チュウチュウ、シコシコ、チュウ、シコシコ…


 なにか規則正しいリズムにのって肩で息をし始める。


 ――赤ちゃんみたいでかわいい!


 知らぬ間に俺も「はぁはぁ」と次第に盛り上る。


(き、きて……)


 普通の女ならここでギブアップするのだろうが、しつこいようだが俺は男だ。譲れない意地もある。


「あぁぁぁ!」

 シーツに男のしずくが飛び散る。コーエンは果てた。飛び散ったその辺の下にタオルをいれて、ベッドそのものが汚れないようにし、横に寝っ転がった。


「今日はこれで勘弁してやるが、いつか必ず落としてやるぜ」

 コーエンが自信満々に俺に言う。さすが王子様だ。


 二人ともまだ肩で息をしている。


 おっぱい星人だ。おっぱいだけでオナニーができるとは。相当のおっぱい好きだ。


 でも優しい。ここで並の王子なら、レイプ紛いの事をするか、腹をたて、侍女をもてあそぶかするのだろうが、おっぱいでオナニーと言う妥協点を見いだしてくれた。


 そして起き上がり、仲良くシーツを敷き変えた。


 二階にも上水道が流れている。一階と同じくちょっと硫黄臭いが。コーエンが竹の先端を細かく裂いて九十度近く曲げて作った新品の歯ブラシを渡してくれた。分かりやすいように俺の方は長さが短い。これに塩をつけて磨くのだ。ミント味でないのは残念だが、すっきりとした。


 侍女のメルが着替えを持って待っていてくれた。メルは小声で俺に訊いてきた。

「昨日もしかして……やっちゃったとか?」

「ばーか。処女を捨てるなんて考えられねーよ」

「じゃあどうしたんだ」

「ふん、子供には教えてやんない」


 俺達がキャッキャと騒いでいると遠くからコーエンの声が。


「おーい、飯に行くぞう」

 と聞こえてくる。俺はそそくさとついていった。


 ――女も悪くねーかもしんねーな


 もし戻る事ができないんだとしたら、このまま一生女のままだ。俺は次第に女の喜びなるものが分かってきた気がする。


 一階の食堂に降りていくと、コーエンがデミアン王に朝の挨拶をしているので、俺もそれに続いてデミアン王、お義母さん、リューホ、お義姉さんと、朝の挨拶をした。


 しかしなにかお義姉さんの様子がおかしい。腰の辺りが大きく曲がり、杖をついて歩いている。生まれついての障害者のようだ。リューホは政略結婚で仕方なく受け入れたに違いない。リューホが、城下町から女をさらって来るのが分かった気がする。一面から見れば悪どい行為でもやむにやまれぬ事情があることもあるのだ。この世は俺が思うほど単純に出来てはいない。


 デミアン王とその妻クエルが上座、右にリューホ夫妻が、左にコーエン夫妻がそれぞれ席につく。朝からコース料理が出てくる。さすが王家だ。


「主よ、今日も我らに恵みを与えたもうたことを感謝いたします」


 神への挨拶を終えると、野菜のスープが出てきた。少し酸っぱいがそれが食欲をそそる。俺がスープを飲んでいると、デミアン王が口を開く。


「昨晩は楽しんだか? どうじゃ、ほれ、言わんかい」

 デミアン王の言い方が冗談ぽいので、場が和む。


 コーエンも笑いながら茶目っ気たっぷりに言う。

「まーた父上の悪い癖が出た。楽しくなかったらここにいるオリビアが、城下町に逃げ帰っていますよ」


 俺は突然話を振られてまごついた。精一杯の笑顔を作り「楽しかったですわ」と返す。


「夫婦として、やっていけそうかね」

「いけるよ父上。そんな心配はいいから」

「分かった、分かった。これでコーエンに子供ができれば、デミアン家も盤石。もう後顧の憂いなくわしも引退じや」

「父上そんな……まだ国を動かす方法も詳しく教えてもらってないのに」

 リューホが不安気に言う。


「そういえばゲーテは出て来てないのう。やはり今日も調子が悪いのか」

「日に日に衰えている様子。ああ、可愛そうなゲーテ!」

 母であるクエル王妃が顔を伏せて泣き出した。


 コーエンが言う。

「気病。普通の医者には直せない厄介な病気だと聞いた事があります。気病には気病の専門医が当たるしかないと。何でも人間には血管や神経の流れとは別に『気』という物が体中を駆け巡っており、その流れのどこかが滞ると、最悪命を奪うと医者から聞いた事があります。風の噂ではゴライアス帝国に一人だけ専門医がいるとか。その人物を連れて来ないと……」

「ふーむ。ゴライアス帝国の首都バベルにたどり着くのは、かなり難しいと聞いたことがある。こっそり人をやるにも至難の業じゃろうて」

「どういう風に難しいんでしょう?」


 俺はとっさにいらない事を口走ったと思ったが、義理の弟が死にゆく病に犯されているなんて、口を挟まずにはいられなかったのだ。


 するとデミアン王が返事をする。

「首都バベルは砂漠の中にある街でな、常に強烈な砂嵐に覆われているんじゃよ。あるとき、その砂嵐が突然弱まるらしいがそのタイミングは中の住民しか分からない。それに街を守る兵士が、常時一万は警備をしているらしい。わがクワイラにも一万近い兵士がいるが、ゴライアスには、予備軍がおってな、それが三万人ほど居るんじゃよ。軍事力ではとてもかなう相手ではないわ」


 俺は自分のスキルを言いかけたけれど止めた。四万人を前にして、先頭に立つ。これ程恐ろしい事があろうか。


 その話題は棚上げにされ、ボヘミアとのやり取りに移っていた。

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