新婚初夜
部屋へ戻るとなんとコーエンがパンツ一丁で待っているではないか!
俺はまだ覚悟が出来ていない。すると俺の手を引っ張り強引にキスをしてきた。
俺の胸がキュンキュンする。鳥島が言うとおり心もどんどん女性化しているのか。コーエンの右手が俺の胸元をまさぐりはじめる。俺はベッドの上をずざさささーと後ずさりし、頭を下げる。
「ごめんなさい。まだ心の準備が……」
するとコーエンは残念そうに言う。
「そうだな、まだ結婚式が終わってないもんな」
コーエンは俺の事を可愛いと思ってくれたのか、即座に諦めてくれた。
「もう寝る時間だ。お前が寝るのは客室だ。メルに任せてある。城で寝るのは初めての夜だっけ。城にはいたる所に幽霊がいる。気をつけるんだぞ」
コーエンは冗談を言い、ランプに火を灯す。
メルが呼ばれた。ランプを手渡され空いている客室に案内するように優しく言う。俺はバスローブ姿のままコーエンにおやすみなさいを言い、部屋を出た。
「どうしたんだ、まだ決心がつかないのか?」
「男とやるんだそ!そりゃあコーエン様は男前だし背は高いし優しいし、俺もまんざらじゃあないけど、心の整理がまだついちゃいないんだよ」
「まあ、結婚式の夜にはいやがおうにもやるはめになるな。覚悟しとけよ、あはは」
メルは俺の絶対絶命の立場を完全に面白がっている。俺は気に入らなかったので軽く尻を蹴る。
やがてシングルの部屋へ通された。
「おやすみなさいませ」
メルがうやうやしく挨拶をして、ランプを枕元に置いて去って行った。
二日後――
今日は俺とコーエンの結婚式の日だ。緊張が高まる。俺は衣装合わせで大忙しだ。
お義母さんが、率先してあの服でもない、この服でもないと俺に合ったウェディングドレスを選んでくれていた。もともとどれにしてもいいと思っていたので任せっきりだ。
「やっぱり白ね。これにしましょう。香水を目一杯かけてね」
侍女に命令をする。
「それにしてもキレイな肌ね。真っ白だわ。とても元村娘とは思えないわね」
誉めているのか、皮肉っているのか、よく分からない。少し天然が入っているようだ。
おじいちゃんがきていた。親として呼ばれたようだ。俺は目一杯ハグをする。おじいちゃんも燕尾服でバッチリ決めている。
「おじいちゃん、久しぶり!」
「はは、まだ三日しかたってないぞ」
「そうだっけ、でも嬉しい!」
「おばあちゃんも来ているからな、粗相のないような」
「うん、分かった!」
まずは教会で結婚式だ。ここ礼拝堂には少人数しか入れない。俺はドアの向こうにおじいちゃんと手を繋いで並ぶ。
ファンファーレが鳴り響く。ドアが執事によって開かれる。俺とおじいちゃんはそろりそろりと赤絨毯の上を歩いていく。祭壇の前にきた。おじいちゃんの手を離れ、コーエンと手を繋ぐ。二人は一緒に祭壇を上がる。
「…………
神父が結婚の儀式を進めていく。指輪の交換だ。俺は無一文。よってお義母さんが用意したものをコーエンの薬指にはめる。コーエンも、質素な結婚指輪を俺の震える薬指にはめる。
誓いのキスだ。コーエンは俺にティアラをかぶせ、ベールをそっと持ち上げる。俺は力をぬき、コーエンに全てを委ねる。会場から大きな拍手が起きる。これで二人は晴れて正式に夫婦になった。
教会を出ると女達が花びらを二人にかけてゆく。沿道には俺の姿を一目見ようとやんややんやの人だかりが城までずらりと出来ている。当然ベールで顔は隠れているので魅了は起きない。俺達は二頭立ての馬車に乗り、教会を去り城へ向かう。
沿道の人だかりに軽く手を振る。なにか自分が偉くなったようで気分がいい。馬車はあっという間に城につき俺達二人は赤絨毯を手を繋いで歩いてゆく。
披露宴は盛大に行われた。俺達は真正面の雛壇に並んで座り、コーエンが音頭を取る。
「乾杯!」
コーエンはワインを一気に飲み干す。ウェディングケーキに二人で入刀すると拍手や口笛が鳴り響く。
会場内のお客さんに二人でワインをついで回る。クワイラ王国の公爵や伯爵、隣のボヘミア王国の諸公にゴライアス帝国の外交官。ネイゼルの諸公は、距離が遠いため姿は見えなかったが、こちらも外交官が参列するなどそうそうたる顔ぶれが奥さんを伴い円卓に並んでいる。
中でもおかしいなと思ったのはボヘミア王国の諸公の参列である。コーエンによれば、つい先月小規模な軍事衝突が起きたばかりだというのだ。コーエン率いる「白い騎士団」に追っ払われたと言うが、軍事と外交は別物らしい。コーエンにそう説明され、腑に落ちた。
ワインを継ぐと返杯を求められる。会場のあらかたのお客さんを回った辺りでコーエンはベロベロに酔っ払ってしまっていた。
最後のお客さんに継ぐと、そのまま倒れこんだ。心配して見ているとやおら立ち上がりオーケストラのところへいき、なにか話している。その中の三人ほどをピックアップし、「歌いまーす!」といい、余興の先陣をきった。曲は「ヘーゼルとともに」。皆が知っている軍歌である。場がしーんとなるとコーエンは朗々と歌い出す。
いい声で俺もうっとりとなる。オーケストラが伴奏するなか、気持ちよさげに歌っている。
一曲歌って満足したのか、ふらふらしたおぼつかない足取りでこちらに戻ってくる。再び雛壇に座ると「腹減ったー」などといいながら出された食事を食べ始める。俺はどでかいウェディングケーキのところへいき、用意された平皿にケーキをしこたま盛ってまた席に行った。
それをご飯に丸鶏の姿焼き、ビーフステーキ等に舌鼓を打つ。コーエンもケーキを自分の皿に取り、うまそうに食べている。
余興も終わり皆がホールから消えていく。皆客室に案内され、静かな夜を迎える。
俺は腹一杯食った後、うつ伏せになって寝ているコーエンに耳打ちする。
「コーエン様、式は終わりましたよ」
「ああ、そうか。お前も式は楽しかったか」
「最高にハッピーでしたわ。コーエン様は歌もお上手ですのね」
「そうか、気に入ってくれたか……すやすや」
コーエンの無防備な顔、かわいい!……って惚れかけてるじゃねーか俺!
手の空いている執事を呼ぶと執事に肩を貸してもらい二階のコーエンの部屋へ連れて行ってもらった。
ベッドにコーエンを寝かしつけながら唇に軽くキスをするとガバリと抱きつかれてしまった!
ピーンチ!
コーエンは服を脱ぎはじめる。マウントポジションを取られなすすべのない俺はあわてふためく。
黒のスラックスを脱ぎ終えたコーエンの様子がおかしい。
「ん?ん?」
コーエンは俺の上着も脱がし始める。上半身のウェディングドレスが無防備にも剥がされてしまった。
が……
「立たねぇ……」
キスをしてもダメ、おっぱいをもんでもダメ。ついに仰向けになり、寝っ転がってしまった。
酒の飲みすぎだ。俺はギリギリ処女だけは守った。童貞よりも処女を先に捨てるなんて人生の汚点になるだろう。取り敢えずホッとする。
横になっている間にスピー、スピー、と寝息をたてて寝入ってしまった。
俺もその横で寝ることにした。新婚初夜で一緒に寝ないと何を言われるか分からない。
幸いベッドはダブルベッドで広々としている。
俺は横にスペースをつくり、侍女のメルに小声で「立たないんだと」
と告げると笑い顔のような困ったような複雑な笑みを浮かべ、去っていってしまった。
コーエンのそばで寝ると安心する。本気で処女を捨てる覚悟が出来つつあった。
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