絶世の美少女

「――」

「………」

「…はっ!」


 まず目に入ったものは真っ青ないぬふぐりが一面に咲いた原っぱだった。そこにうつぶせでしかも全裸で突っ伏している自分を発見した。


 なにか胸に違和感を感じたので触ってみると、なんとおっぱいがついているではないか!

「なんじゃこりゃー!」


 大きさはDカップくらいか……などと考えている場合ではない。


 大事な所を恐る恐るさわる。……ない。男の唯一の証明だったあの大切な棒がない!


 ――異世界に飛ばされた訳か。しかも女として…


「プラエテル・ボロ・ロンゲ!」


 この呪文を唱えるとまた元の世界に戻るかと思ったのだが、何もおきない。何度も何度も唱えたが一向に反応がない。


 はっと俺は気づいた。鳥島なら元の世界に戻る呪文を知っているに違いない。あいつもこの世界に来ていてくれればいいのだが……


 ――探し出してやる。


 俺はがばりと起き上がると素っ裸のまま走り出した。


 ――なにかチート能力はないのか。こういうシュチュエーションのとき、チート能力に目覚めるんだろうに!


 やがて村らしい集落を見つけた。俺はそのはしっこの一軒家の納屋に入り、とにかく布きれでいいから羽織る物を探した。


 ない。そんなもの納屋にあるはずがない。俺がじたばたしていると、農作業から戻って来たのか人の気配がする。


 俺はあわてて物陰に隠れたが半分以上はみ出している。


「あれまあ、お嬢ちゃん素っ裸で。男に悪い事でもされたのかね。ちょっくら待ってておくれ。着るものを持ってくるで」


 俺はほっとする。いいおばあちゃんのようだ。それに日本語が通じるようだ。少しだけ救われた思い。


 しばらくするとおばあちゃんが服を持って現れた。


「これは嫁いだ娘の服じゃけ、似合うと思うがの」

 俺は渡された順番に身につけていく。パンツに茶色のスカート、うえには簡素な下着と赤いしましまが入ったシャツ。少しだけ下がスースーするが、これで人心地ついた。


 俺はおばあちゃんの手招き通りに質素な家に入った。おばあちゃんは紅茶をいれてくれて、俺に差し出す。


「お嬢ちゃんはどこから来なすった」

「……」

「まあ、かわいそうに、ショックで声がでないんかの。答えたくない事は答えんでもいいさね」


 おばあちゃんの中では集落の外からやってきて、たまたま会ったゴロツキどもに集団暴行をされたとなっているらしい。俺はその話に乗ることにした。


「行くとこがないんなら、ここに居ればいいさね。おじいちゃんもきっと賛成してくれると思うよ」


 紅茶が胸にしみる。おばあちゃんの優しさがうれしい。


「年はいくつかね」

「……鏡を持ってきてくれませんか?」

「顔でもひっぱたかれたんかね。どれ」

 おばあちゃんは箪笥たんすの一番上の段から手鏡を取り出し「はーはー」と息を吹き掛けエプロンの縁でごしごしと拭いている。


 鏡を手渡された俺はそーっと顔を覗いて見る。


 そこにいたのは超絶な美少女だった。ここまで可愛い女の子はテレビアイドルでも、モデルでも、みたことがない。群を抜いているのだ。おばあちゃんが勘違いするのも分かる気がする。


 年のころは十七才前後。これは転生時と同じくらい。真っ白い肌に映える金髪。美しいと言うより可愛いという言葉が似合うまだあどけない顔。


 これは出会った男を全て魅了するのではないのか。


「年は十七才です。いつもお母さんにいびられてついに家出をしてこの集落にやってきたんです。でも悪い男の人たちに囲まれ……後はご想像にお任せします」

「哀れじゃのう、そんな綺麗な顔に生まれついたばかりに。どれ紅茶をもう一杯いれてくるかの」


「家事、よろしければお手伝いいたしますわ」

「そうか、では鍋を見ていてくれるかの。今頃薪ストーブですまなんだの」


 鍋はすでに煮えている。鶏ガラで出汁を取っているようだ。


 そこにおじいちゃんとおぼしき人が帰ってきた。

「あんれまあ。どこのべっぴんさんかの」

 おばあちゃんが納屋にいたところから説明している。


「ああそれはいかんのう。まだそのゴロツキどもが近所をうろついているかも知れんて。行くあてがないのならうちにずっといても構わんよ。それにしてもどうじゃそのべっぴんぶり。いつかコーエン様が白馬に乗って迎えに来るかも知れんのう」

「コーエン様とは?」

「この国、クワイラ王国の次男坊、第二王子のことじゃよ。この王子様もなかなかの美男子だと聞く。お似合いのカップルになるじゃろーて」


 お似合いのカップル!?俺は後退りした。いくらハンサムでも男に抱かれるなんて想像しただけで吐き気がする。


 おじいちゃんもおばあちゃんも良心的だが、この家に長居するのもどうかと思う。自分のような美少女がこんな貧しそうな家にいることがばれると、どんな災難が降ってくるか分からない。


 しかし旨そうな鍋が待っている。これを食べたら身の振り方を考えよう。


 中火でことこと煮ること一時間、鍋の出来上がりだ。俺が鍋の取っ手を持ってテーブルにおくといい臭いが漂ってきた。


「主よ、今日も我らに恵みを与えたもうたことを感謝いたします」

 おじいちゃんが厳粛な雰囲気を醸し出しながら神に祈る。俺も見よう見まねで手を合わせる。


 家の後ろに鶏舎があるらしい。ぐつぐつに煮込んだ白菜と人参に、鶏肉のぶつ切り。不味かろう筈がない。口に入れる。俺は旨さでしばし茫然とする。


 その時。来客があった。隣に住んでいると思われる奥さんがピクルスのおすそわけを持ってきたのだ。俺は咄嗟に顔を背けたがもう遅い。


「あれ、こんなべっぴんさんがおるがね。どっから迷いこんだんね」

「この娘は親にいびり倒されてのう、家出をしてきたんじゃと。おそらくこの綺麗な顔に親も嫉妬をしたんじゃろうて、かわいそうに。それで良ければうちで引き取ろうかといま話しとったがね」

 おばあちゃんはゴロツキのくだりは話さず俺を紹介する。


「見ると、いい年頃じゃないかね。どれ私が結婚相手を探してきてやろうかね」

 俺は話の飛躍に驚いた。

「け、結婚! いやいいです、いいです」

「名前はなんと言うんね」

 俺は最近やったゲームの登場人物を思い出す。

「ぉ…オリビアです。よろしくお願いいたします。じゃなくて……」

「ほしたら頼まれようかね、まあ、このピクルスさ食って家にいたらいい。私が相手をつれてくるけんね」


 俺は悪い予感しかしなかった。次の日から俺の存在は村中に伝わったようだ。俺が家にいるとぶしつけに男どもが家の中を覗いて、俺を見つけてうっとりしたまなこで引き下がっていく。しばらくすると燕尾服の正装をして、俺に求婚をする。


「私の名前はドワールというものです。以降お見知りおきを」

「なんの、わしの名前はグスタフという。ずばり言おう、わしと結婚してくれんかの」

「わ、わたしお仕事がありますんで」

「仕事?」


 俺はそれだけ言うとかごを持ちあのいぬふぐりが一面に咲いていた花畑へとダッシュする。そして根っこから丁寧に抜き取りかごに入れていく。


 男どもが遠目に見ている。俺は完全に無視をする。

 かごが花でいっぱいになった。


 花売りをしようと思い立ったのだ。俺の美貌を持ってすれば、人気が出るに違いない。原価はただだ。そして売るときは五百ルピア (1ルピア≒1円)で売るのだ。凄く儲かる気がする。


 花を摘み終え村の大通りへ向かう。雑貨屋により白い折り紙を買うといざ大通りの一番目立つ所を陣取った。


 俺はしたたか緊張する。

「花はいりませんか~」

 声がうわずる。するとさっきの男達が行列を作り始めた。


 花束を一握りかごから取ると折り紙に包んで売っていく。なんせ行列がたくさんいるもので目標の三万ルピアはあっという間に完売してしまった。その間にも自分のことをアピールするように名前を名乗り求婚してくるやからが絶えない。


 おじいちゃんとおばあちゃんに美味しい物を食べてもらおうと市場に行き、サンバの葉っぱにくるまれた豚肉を買い、玉ねぎも買って家路についた。


 おばあちゃんは俺がいないので心配していたらしく、帰ってくるなりこう切り出した。


「あんまり外を出歩かなくておくれよ。いつまたゴロツキどもに目をつけられるといけないからね」


 その日は豚肉と玉ねぎ、人参と大根の野菜炒めと食卓がパッと華やいだ。


 花売りが好調だったため、しばらく続けようとおばあちゃんに話すと「無理のない程度での」と禁止はされなかった。


 明日も稼ぐぞと思いながらいい気分で眠りについた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます