第三話 ハニートラップ

 この間の爺さんは一ヶ月で借金を返した。

 ボーナスが出て俺達はホクホクっす。


 普通の出前も堅調でいう事がないっす。

 最近トンカツと天ぷらの修行をしているから、メニューが増えるの後少し。

 異世界の出前は相変わらず引っ切り無しに注文が入る。

 普通の出前に人を雇えないか検討中。

 熱々の料理を出前するのが売りだから、良く考えないと。




 おっ、異世界から注文が入ったみたいだ。

 アキハが電話を受けている。


「まいどありがとうございます、藍地屋です」


「ご注文をどうぞ」


「強い酒二十本ですね。承りました」


「今日、配達に伺います」


 どうやら、酒の注文らしい。

 最近いやに酒の注文が多いけど、何かあるっすかね。




 メモを受け取り酒の量販店で一本三千円のウイスキーを仕入れる。

 焼酎は何時ものスーパーへ。

 さてと、配達に行くっす。


「出前行きます」


 俺はスキルを発動させ光をくぐる。そうしたら、会社の事務所みたいな所に出た。

 応接セットがあり、木で出来た事務机と椅子が沢山ある。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」


 何人か人はいたが、身近にいた凄い美男子に挨拶した。


「早いですね。あれ女性の方では無いんですか?」


 凄い美男子の男性は首を傾げる。




「受付と配達は違うっす」

「そうか、予定とは違うが、まあいいや」


 俺の言葉を聞いて、美男子はつぶやき奥の部屋に行った。


「お姐さん方頼みます」


 美男子の声が聞こえると、奥の部屋から女性が三人出てきた。




「マリリーエでーす」

「ルリサナよ」

「クナベラよろしくね」


 三人の女性は品を作り挨拶してきた。

 何っすか。

 呆気に取られているうちに両脇を女性に固められソファーに座らされた。

 クナベラがワインが乗ったワゴンを押してきて、正面に座った。


「えーと、メインっす」


 俺は事態の推移についていけず、とりあえず名乗った。


「外は寒かったでしょう。さあ駆けつけ三杯。ぐっといきましょう」


 右に座ったマリリーエがワインを勧めてくる。




「えっと、商品を渡すのでお支払いお願いします」


 まいったなと頬をかきながら俺は言った。


「つべこべいわずに、さっ、さっ、飲んで」


 左のルリサナも同様にワインを勧めてくる。


「じゃあ、一杯だけ」


 俺は押しに負けて、なみなみと注がれたワインを飲む。

 超健康のスキル貰ってから泥酔しなくなった。ほろ酔いで酔いが止まるっす。


「メインさんは、どんな女の子が好き?」


 マリリーエが可愛いく首をかしげ尋ねてくる。


「大人しい人が良いっす」


 俺は問いに答えた。


「私は強い人が好き。あなたは強いの?」


 ワインのおかわりを勧めながら、ルリサナが尋ねてくる。


「てんで駄目っす。レベルなんて五っす」


 このワインは妙に美味い。おかわりを飲み干して答える。




「でも転移魔法使えるのでしょう? 魔法使いよね」


 クナベラがワインをコップに注ぎながら、聞いてきた。


「ここに来たのはスキルっす。魔法使いじゃないっす」


 俺の答えに三人とも警戒の色が見えた。

 別に怖いスキルじゃないのに、出前するだけっす。




「お酒の調達はどうしているの?」


 マリリーエが疑問を投げかける。


「近所の店から仕入れてるっす」


 なんか尋問みたいだなと思いながら答える。


「そろそろ、薬が回って正常に思考できなくなるはず」


 クナベラがポツリと呟くのを聞いてしまった。


「薬、入っているっすかこのワイン! 酷いっす! もてもてだなんて考えた俺のときめきを返して欲しいっす」


 俺は立ち上がって、驚きの声を上げた。




「あれ、おかしいわね。もう立ち上がれないはず」


 クナベラが呆然として声を上げた。


「ちっ。クナベラ、失敗したわね」


 舌打ちして、ルリサナは言った。


「きっと毒耐性スキル持ちよ。聞きたい事は大体聞いたから、監禁して洗脳しましょう」


 マリリーエが恐ろしい事を言う。


「そうね、薬の量を十倍ぐらいにすればどうにでもなるわ」


 クナベラが告げる。


 なんと両脇のマリリーエとルリサナがしがみついてきた。

 これじゃあ、今、帰還したら、二人共死んでしまう。

 殺人者にはなりたくないっす。


「今よクナベラ。一番きついのを打ち込んで!」


 ルリサナが叫ぶ。



 クナベラが毒針を俺に打ち込んできた。

 針は突き刺さらず、先端が曲がる。


「ちくしょう。刺さらないわ。どうなっているのよ」


 クナベラが言うのを聞いて、しがみついていた二人が応援を呼ぶ。

 奥の部屋から十人近くの男達が出てきた。


「ボス、情報は聞き出せたのですが、無力化に失敗しました」


 クナベラが少し沈んだ様子で話す。




「このままだと皆さん呪いを喰らう事になるっす」


 俺は少しきつい口調で警告した。


「どういう事でぇ?」

 スキンヘッドの大男が尋ねた。


「俺、神の眷属なんで契約違反すると呪いを掛ける神がやってくるっす」


 俺はうんざりしながら答えた。


「そうか、なら仕方ねぇ。マリリーエ、ルリサナ、離してやりな」


 大男の命令に従って二人が俺から離れる。




「どうでぇ、あんた俺の兄弟になってみる気はねぇか?」

「遠慮するっす」


 大男の誘いを俺はきっぱりと断った。


「まあ、そういうと思った。とりあえず、持って来た酒を出してくれ。代金はちゃんと払う」


 大男の言葉を聞いて、俺は一瞬迷ったが結局アルティメットボックスから酒を取り出す。

 大男は酒を一瞥し代金を持って来させた。


 ウィスキーを開けた大男はコップを持ってこさせ酒を飲んだ。


「これは、どうやってつくるんでぇ?」

「蒸留して樽に寝かせるっす。詳しい事が知りたければ、本を注文するっす」


 大男の問いに俺は投げやりに答えた。

 もし、注文がきたら、ぼったくりしよう。迷惑料を貰わなければやってられない。


「俺は悪人だが、売っても良いのかねぇ?」


 大男は俺の思惑などお構いなしにかなり買う気満々な姿勢だ。


「悪人には売るなとは言われて無いっす」


 俺はエルシャーラ様には客を選べとは言われていないのを思い出し答えた。




 大男は現状を話す。

 この国は禁酒法で酒が禁止されていると言う。

 昔のアメリカみたいっす。

 酒の注文がこのところ多かったのは酒飲みが神器を使って酒を仕入れていたせい。

 注文の減った闇組織がある酒飲みから神器を買い取って、今回の事が起こった。

 いい迷惑っす。




 藍地屋に帰り、今回の顛末をアキハに話した。


「もし、蒸留酒の本を注文する客がいたら、ふんだくるっす。翻訳料、金貨十枚は請求するっす」

「ふんだくってやりましょう」


 俺の怒りを滲ませた言葉に、アキハは頷いて元気に返事をする。


 今回はちょっぴり怖かったっす。

 でも、もてて悪い気はしなかった。

 エルシャーラ様が来なかったのは商品を渡す前だったからだと思うっす。

 神様の基準は良く分からない。


 そんな事を考えていたら、エルシャーラ様が現れた。




「えっ、何っすか?」


 突然の訪問に俺は思わず疑問の言葉を漏らした。


「見ていたわよ。女に抱きつかれ鼻の下伸ばしていたでしょ」

「見ていたなら、助けてくれても良いっす」

「今回は呪いは掛けれないけど、悪戯は出来たわ。でも、面白いから放っておいたわ」


 エルシャーラ様は面白そうに話した。

 俺は肝心な時に頼りならないのは酷いと思ったが追求するのはをやめた。

 多分、神にとって俺なんか遊び道具なんだろう。




「沢山、発明の芽が育ってきてるから、ボーナスを支給するわよ。何かスキルを追加してあげる」


 エルシャーラ様は突然話題を変えた。

 スキルを増やしてくれるとはさっきの事、悪いと思っているのかな。

 いや、そんな事はきっと無い。


 とりあえず増やすスキルを考えよう。

 戦闘力。それはやっぱり要らないっす。

 料理が美味くなるスキル。それは何となく負けた気がして悔しい。

 ここは人手不足解消の為のスキルを貰うと決めた。


「この世界でも使える分身スキルが欲しいっすけど、副作用は何っすか?」

「分身を出している間、十倍の速度で歳をとるというものよ。二人目では百倍。三人目では千倍。どちらにしろ、あなたの場合、問題ないわ」


 俺は疑問を言い、エルシャーラ様はなんでもないかの様に答えた。

 超健康が無くってこのスキルを貰っていたら、大変な事になっていたっす。

 神は侮れない。


「じゃあ、お願いするっす」

「アキハはどうするの?」


 俺の了承の声を聞いて、エルシャーラ様はアキハの方を向き直り問い掛けた。


「私は怖いから要りません」


 アキハは若干怖がりながら答える。心なしか怯えているようにも見える。


「欲の無い事ね。まあ、良いわ」


 エルシャーラ様は特に気も悪くせずに言い、そして指を鳴らす。

 俺の体が光ったので、早速スキルを試す事にした。




「分身」


 俺はポーズを取ってスキルを発動する為に声を発した。


「わぁ、メインさんが二人いる」


 アキハは拍手しながら言った。


 これで配達が忙しくなっても対応出来るっす。

 分身を使えば料理修行も捗るはず。

 これからも頑張るっす。



―――――――――――――――――――――――――

商品名   数量 仕入れ   売値    購入元

焼酎    十本 一万二千円 二万四千円 スーパー

ウィスキー 十本 三万円   六万円   酒量販店

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