第三話 クロスボウとジスクグラインダー

 情報屋を訪ねて酒場に行く。

 情報屋はいつもの席に座っていた。

 なんか雰囲気がいつもと違う。


「情報屋、何かあったのか?」

「ハータイ遺跡の所に行って情報を引き出してきたんですよ」


 俺の問い掛けに、情報屋は苦笑しながら答えを返す。


「そうか、何があったか知らないが大変だったな」

「神があんなに融通が利かないとは思ってもみませんでしたよ」


 俺の言葉に情報屋はげっそりとした感じで言った。

 世間話は終わりだな。ここからは仕事の話だ。


「それで情報はあるか?」

「ええ、銀貨三百枚の情報です」


 俺は少し弛緩した雰囲気を吹き飛ばす為に低い声で尋ねると情報屋は真剣な眼差しで答えた。




 金貨三枚と銀貨二十四枚をテーブルに置く。

 情報屋は金貨だけ確かめると話始めた。


「オーブから引き出した情報なんですが。オブロの森に砦の遺跡があるそうです」

「仲間に手伝ってもらって、道順が分かるように入り口まで木に印をつけておきました」

「遺跡の中はどんな感じだ」

「ゴブリンの巣になっています」

「そうか、武器が要るな。分かった行ってみるよ」


 俺は話しを締めくくり、念の為情報屋から地図を貰う。

 宿に帰ると早速、準備に取り掛かる。




「デマエニデンワ」


 俺は神器を作動させる。


 プルルルという音が神器からして、ガチャという音がして念話が繋がった。


 アイチヤに遠距離攻撃ができる物を頼む。

 今回は情報料が高かったから、お宝も大物だと踏んだ。

 金に糸目はつけない方針でいくことにした。

 アイチヤとは遺跡で落ち合う予定だ。


 ガチャという音で念話が切れた。


 食料品を買い込み、装備を整え遺跡に向かって出発する。




 オブロの森の近所の村に馬を預かってもらい森に出かけた。

 確かに木に三角の傷が付けてある。

 これを辿れば遺跡まで行けるのか、造作ないな。


 森は蔦が生い茂っている。

 下草もふんだんに生えていて、歩きにくい事この上ない。

 むっ、進行方向にオーガベアーが居やがる。




 遺跡には着いていないがアイチヤを呼び出す。

 アイチヤが光と共に現れた。

 光がどうやらオーガベアーの注意を引いたらしい。近寄ってくる。


「オルガイオ、熊っす。迫力あるっす」


 アイチヤは感動した様子だ。

 この状況は不味い。


「ぼやぼやしてないで、逃げるぞ」


 俺はオーガベアーに背を向け、後ろで見て見て言っているのん気なアイチヤに声を掛けた。


 アイチヤと二人きた道を逆に辿り、全速力で逃げ出す。

 アイチヤがいきなりこけた。

 さらば、アイチヤお前の勇姿は忘れない。


 薄情、いや冒険者は自己責任だ。

 自分のミスは自分で償うのが原則。

 アイチヤは冒険者ではないが、冒険者についてきたのだからしょうがない。




 オーガベアーはアイチヤの首筋に噛み付いた。

 あれアイチヤの断末魔が聞こえない。

 噛み付いて振り回すがアイチヤからは血の一滴も出たふうが無かった。

 アイチヤの怒ったっすと言う声が聞こえた


 アイチヤはスキルで取り出した袋を次々に破り粉を撒き散らす。

 次の瞬間、轟音と共に大爆発が起こった。


「粉塵爆発の威力、思い知ったっすか」


 粉が舞い散る中からアイチヤの声が聞こえた。

 アイチヤの服はボロボロだったが生きている。


「あの粉はなんだ!?」

「小麦粉っす」


 俺の驚きながらの問い掛けにアイチヤは簡潔に答えた。



 小麦粉って爆発するんだな。

 それと神の眷属というのは伊達じゃあない。

 オーガベアーの攻撃も受け付けないし、爆発にも無傷だ。


 オーガベアーはしぶとく生きていたので気絶している隙にさっくり倒す。

 アイチヤに死骸を収納してもらい、二人で遺跡を目指した。


「こういう探検も面白いっす。ロマンっす」


 どこか締まらないアイチヤの声。

 物見遊山のアイチヤとなんとか入り口に辿り着いた。

 入り口は蔦で覆われ一見しただけでは分からない。




「ゴブリンの見張りがいるな。武器をくれ」


 俺の真剣味を帯びた声にアイチヤはスキルから弩を取り出して無言で渡してきた。


 何だと言う疑問にクロスボウと言う名前をアイチヤは教えてくれた。

 俺は狙いを定めて引き金を引く。

 矢はゴブリンに当たったが、一撃では無理だったようだ。

 アイチヤは何も言わずに次のクロスボウを渡してきた。

 今度は仕留めたみたいだ。

 クロスボウは扱いが簡単なのが良いな。


 しかし、見張りのゴブリンが発した叫び声を聞いたのか次々にゴブリンが現れる。

 アイチヤはクロスボウをどんどん取り出して渡してきた。

 俺は夢中で撃ち続ける。




 今回はどうにかなったみたいだ。

 クロスボウに矢をセットし直し収納してもらった。

 ゴブリンの死骸も収納して貰い遺跡に入る。


 遺跡の中は酷い臭いだ。

 はっきり言ってけもの臭い。


 部屋を一つ一つ確かめ進む。

 かなり奥に進んだ時、通路に巨大な蜘蛛の巣があるのが見えた。




「メイン、何か良い武器は?」

「じゃじゃん、簡易火炎放射器っす。異世界だから危ない真似もオッケーっす」


 俺がアイチヤに尋ねるとアイチヤはスキルで金属の筒とライターを出して自信満々に答えた。

 ライターはこの間貰ったから分かるが、金属の筒はなんだ。


「やってみるっす」

 アイチヤは一声掛け、金属の筒を操作するとプシューという音がして霧が噴出した。

 ライターをつけるとボーっという音と共に炎が伸びる。

 アイチヤは蜘蛛の巣を焼き払い始めた。


 蜘蛛の巣は盛大に燃えていき、怒った二メートルもあるビックスパイダーが飛び出してきた。

 アイチヤは炎でビックスパイダーの顔面を焙る。

 ビックスパイダーが怯んだ隙に俺の所に戻ってきた。

 クロスボウをアイチヤが渡してきたので狙いを定めて撃つ。


 ビックスパイダーを針ねずみにしてなんとか倒せた。




 次に出てきたのはスライムの大群だ。


「まかせるっす。良いのがあるっす」


 アイチヤは胸を叩き言い、スライムに寄って行った。

 袋を取り出し中の粉をスライムに掛ける。

 みるみるスライムが縮んでいく。


「それはなんだ?」

「塩っす」


 俺は不思議そうに疑問を呈し、アイチヤは返答した。


 そして、手分けしてスライムに塩を掛けて回る。

 コアを回収し先に進む。




 次の角を曲がった時、突き当たりに荘厳な扉が見えた。


「お宝の匂いがプンプンする」


 俺は期待に胸を膨らませ自然と声がこぼれた。


「良いっすね。わくわくするっす」


 アイチヤは期待に目を輝かせ言った。


 俺は扉を念入りに調べるが、鍵穴や開閉する装置は付いていない。

 しょうがない無理やり開けるか。


 ドリルをアイテムボックスから取り出してあてがう。

 焦げ臭くなっただけで扉には少しも傷が付いていない。

 次にミスリルのナイフで傷をつけようとしたが駄目だった。


 使い捨ての魔道具を試す。

 これは金属を高温で焼き切るというものだ。

 扉に魔道具を貼り付け作動させる。

 駄目だ、焦げ後すら付いて無い。


 この扉は魔道具なのか。

 魔力波動はないから違う。

 きっと特殊な合金だ。

 もう手は無いお手上げだ。


「メイン出番だ」


 俺は扉の前から脇に退いてアイチヤを呼んだ。


「お次はこれっす。ジスクグラインダーとダイヤモンドカッターっす。本来は石を切る道具っす」


 アイチヤはスキルで道具を出してきて言った。


 道具を作動させるとギュイーーンと音がする。

 扉に回転している刃を当てるとキィーーンと音が変わった。

 そして、パリーンと音がして扉が粉々になる。


 見事なりという声がした。

 神の声くさいな。やばいぞ。


「ステータス・オープン」


 俺は焦った声でステータスを表示させる。


――――――――――――――

名前:オルガイオ LV18

年齢:25

魔力:96


スキル:

物品鑑定

アイテムボックス

――――――――――――――


 良かった呪いは付いて無い。




「その道具は凄いな」


 慌てっぷりを誤魔化す為にアイチヤに話題を振る。


「たぶん刃にダイヤモンドの粉が入っているっす」

「ダイヤより硬い物は聞いた事が無いから、凄いのもうなづける話だ」


 アイチヤの説明に俺は納得する。

 ダイヤの粉を使うなんて考えた事が無かった。

 機会があれば人を使って研究させるか。


「早くお宝を見たいっす」


 興味津々のアイチヤを連れ部屋に入る。

 部屋の中は灯りを反射してキラキラ光る武器や鎧で一杯だった。

 これ全部ミスリルなどの希少金属だ。


「うひょーー! 大儲けだ!!」


 俺は嬉しさのあまり武具に駆け寄り叫んだ。


「やったっすね」


 ニコニコしながら言うアイチヤに俺はサムズアップした。


 アイチヤに残らず武具を収納してもらい遺跡を後にする。

 アイチヤは眷属のふりをした金の神だ。

 そうに違いない。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――

商品名        数量   仕入れ   売値    購入元

小麦粉        二十キロ 八千円   一万六千円 業務用スーパー

クロスボウ      百具   百五十万円 三百万円  ネット通販

ヘアスプレー     一個   七百円   千四百円  ドラッグストア

塩          百キロ  一万円   二万円   スーパー

ジスクグラインダー  一台   三万円   六万円   ホームセンター

ダイヤモンドカッター 一枚   五千円   一万円   ホームセンター

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