第二話 ミニユンボと電動ドリル

 今日は水晶の取引だ。

 俺は商会に行き応接室で世間話をしてから切り出す。


「今回はこれを買い取って貰いたい」


 アイテムボックスから五キロ分の水晶を取り出しテーブルに山と積む。

 商人は水晶を手に取り品質を確かめた。


「この水晶はどちらで手に入れましたか?」

「盗品を疑っているのか。この水晶は宝探しをしている時に偶然鉱脈を見つけたんだ」


 商人は少し驚きながら確認し、俺は語気を荒め返答した。


「盗品を疑っている訳ではなく。大量なので少し気になったのです」

「まだ鉱脈は掘れる。値段が下がるようであれば量を減らす」


 商人の言葉とは裏腹に疑うような眼差しに、俺は話しを逸らそうと思った。


「鉱脈を独占とは羨ましい限りですな」


 商人の目が危険な輝きを見せる。


「ちなみに俺の後をつけても無駄だと言っておく。掘るのは仲間にやらせている」


 俺は商人に釘を刺したが、多分無駄だろうな。

 賭けても良い絶対に尾行してくる。


「いえ、そのような事は考えておりません」


 商人はハンカチで顔の汗を拭いながら、言葉を出した。


「さっさと値段をつけてもらいたい」

「そうですね。この量だと金貨四枚でしょうか」


 俺の他所に話を持って行きそうな態度に商人は焦った声で値段をつけた。


「それで良いぜ。また持ってくる」


 俺は了承し、商人から金を受け取り商会を後にする。




 上手くいった。心の中でほくそ笑む。

 金貨一枚分の水晶が金貨四枚に化けた。

 宝石の分の金が無くなってもアイチヤから水晶を引き続き仕入れようかとチラリと誘惑にかられた。

 しかし、欲をかきすぎると碌な目に遭わないと昔から決まっている。

 俺のスキルは商人向きだが、商人では無く宝探し屋だ。

 変なこだわりかもしれない。しかし、大切にしたい。




 やっぱり、後をつけてくる男がいるな。

 俺は酒場を何軒かはしごして宿に帰った。

 酒場では色々な人間と話しをしたから、今頃だれが仲間なのか分からなくて頭を抱えているだろう。




 その後、水晶の売り捌きは上手くいっている。

 買取値段が少し下がったが許容範囲だ。

 宝石を全て水晶に交換出来た頃、アイチヤからミニユンボが届いたと知らされた。




 ミニユンボの試験をするため廃村に買ったばかりの馬で向かう。

 廃村は人影も無く、雑草の生えた畑が物悲しい。

 そろそろアイチヤが来るはずだ。


 しばらく待つと光が溢れ、アイチヤが目の前に立っていた。


「オルガイオ、お待たせっす」

「メインよく来たな。歓迎するぜ。ミニユンボの試験が終わったら飲みに行こう」


 アイチヤは片手を挙げ挨拶、俺は肩を叩き挨拶を返す。


 アイチヤとは歳が近い事もあって水晶の取引で仲良くなった。

 いまでは呼び捨てで呼び合う仲だ。

 付き合ってみると神の眷属とは思えないほど良い奴だと感じる。

 まあ眷属も色々いるんだろう。


「ミニユンボ出すっす。下がるっす。アルティメットボックス」


 アイチヤの言葉を聞いて俺は急いでアイチヤの後ろに回った。

 次の瞬間ズシンと音をたててミニユンボが現れる。

 好奇心も刺激されるが、見たことのないミニユンボの異様は少し怖い。

 勝手に動き出したりしないよなこれ。


「俺のアイテムボックスに入るかな。アイテムボックス」


 俺は恐る恐るミニユンボに近づきスキルを発動しようとした。

 ミニユンボは微動だにせずスキルは不発に終わる。


「やっぱり、駄目か」


 どうするかな、そうだ。




「なあ、メイン。これ普段は預かってくれないか。もちろん保管料も払う」

「それなら保管料を月銀貨一枚っす」


 俺はアイチヤを拝む仕草をして、アイチヤは気軽に了承した。


 さあ、やるぞ。

 高い道具なんだから、役にたってもらわなくては。


「早く動かし方を教えてくれ」


 俺の言葉を聞いてアイチヤは運転席に座るとミニユンボを起動させる。

 ブルブルという音がした。

 アームの先端に付いた変わった形のシャベルみたいな物で畑を掘る。

 これなら人間の何倍もの早さで掘れるな。


 アイチヤに運転を教えてもらいミニユンボの試験は終わった。

 アイチヤにミニユンボを収納してもらい代金の金貨二十枚を払う。


「メイン、飲みに行こうぜ。馬に乗れよ」


 俺は馬に飛び乗り鞍の後ろを叩いた。


 アイチヤと二人で街に帰り久しぶりに気分良く飲んだ。




 翌朝、遅く起きた俺は情報屋に会いに行くと決める。

 情報屋は酒場のいつものテーブルに居た。


「情報屋、何かネタはあるかい?」

「今あるのは銀貨十枚のやつだけです」


 俺は少し頭痛のするこめかみを揉み情報屋に尋ねると、情報屋は水で口を湿らし答えた。


「それで良い聞かせろ」


 俺は銀貨十枚をテーブルに置いて頷いた。


 情報屋は銀貨を確かめると、おもむろに口を開いた。


「ハータイの丘の地面に何か埋まっているそうです。魔力波動を偶然通りかかった魔法使いが感知しました」

「どれぐらいの深さに埋まっているんだ」

「推定だと五メートルぐらいですね」

「分かった行って掘ってみる」


 情報屋との会話を終えると情報屋は懐から地図を出してきた。

 地図をひったくる様に手に取り、酒場を後にする。

 野営道具と食料をアイテムボックスに入れ馬で現場に向かった。




 ハータイの丘に来て目印の木を頼りに埋まっているであろう場所に立つ。

 なにも感じない。本当にこの場所なんだろうな。

 ミニユンボの出番だ。

 アイチヤを呼び出しミニユンボと軽油の入っているドラム缶を出してもらう。




 野営しながら三日間掘ったところで魔力波動を俺にも捕らえる事が出来た。

 お宝を想像しながら更に掘り進める。

 遺跡の入り口が現れた。


 入り口は金属の扉で出来ていた。

 何で出来ているのか分からないが少しも錆びていない。

 まいったな金属の扉なんて想定していないぞ。

 とりあえず開けようと頑張ってみたが、一向に開く気配は無い。

 見た感じ開ける機構に何か不具合が生じている。

 機構まで穴を開けられれば、開閉出来るはずだ。




 穴を開けるには道具が必要だ。

 街に戻っている間に誰かが扉を開ける可能性もある。

 よし、アイチヤを呼ぼう。




「デマエニデンワ」


 俺は神器を作動させた。


 プルルルという音が神器からして、ガチャという音がして念話が繋がった。


 アイチヤに金属に穴を開ける物を頼んだ。


 念話が切れ三時間ほど待つとアイチヤが光と共に現れた。




「充電に時間が掛かったっす。ドリル持って来たっす」


 少しすまなそうなアイチヤの顔。


「おう、穴を開ける場所はそのインクで印をつけた所だ」


 俺は顎をしゃくり、その場所を指し示した。


 アイチヤはドリルを作動させる。

 キュルキュルと音を立てドリルの先端が回る。

 扉にドリルが当たるとキュイーーンと音がして穴が空いていく。

 金属の削りかすがボロボロ落ちる。


「俺にもやらせてくれ」


 見ていて辛抱できなくなった俺はアイチヤからドリルを受け取り扉に穴を円状に開けていく。

 円が繋がったところでハンマーで叩くと十センチぐらいの穴が開いた。

 機構の歯車に何かゴミが挟まっているのが見える。

 針金を入れてゴミを取る。

 さて機構は作動するかな。

 扉を開ける取っ手を引くとガコンと音がして見事扉は開いた。


 カンテラに火をつけ一人で中に入る。

 不具合の原因が分かった何かの骨だ。

 大きさからして、ねずみの骨だろう。

 これが機構に挟まっていたのだな。




 お宝と対面といきますか。

 魔力波動を辿りお宝を目指す。

 大広間に入ったとたん念話が繋がる。


『知識の神である。オーブに触り、オーブに登録していない知識を与えよ。さすればオーブに登録してある知識を一つ与えよう』


 うわ、神器だよ。

 金にならないお宝を引いちまった。

 そっと広間を後にして外に出る。


「お宝何か見つかったっすか?」


 目をキラキラさせてアイチヤが尋ねてくる。


「見つかったが、今回ははずれだ。金にならん」


 俺はため息をつき返答した。


「残念だったすね」

「こんな事もあるさ」


 アイチヤの慰めるような声に俺は肩をすくめて答えた。



 代金を払うとアイチヤが帰って行き、俺は落胆しながら街に帰る。

 街に着くと情報屋の酒場に行く。


「情報屋、ハータイの丘の遺跡の情報を買わないか?」

「値段は物によりますよ」


 情報屋に俺は尋ね、情報屋は少し警戒した声で話した。



 情報屋に遺跡の情報を話すと大変驚いている。


「あなたにはこの価値が分からないのですか!! 失われた技法や技術が復活する可能性もあります。歴史の情報だけでもとても貴重だ」

「俺は高く情報が売れれば良い」


 情報屋は突然興奮し、俺は醒めた調子で言った。


「あんたに言っても無駄か。とりあえず手付けで金貨十枚払います。後は情報の売れ行きしだいで追加します」

「ああ、それで良いよ」


 情報屋は肩を落として言い、俺はホクホク顔で首肯した。


 銀貨十枚の情報が金貨十枚になりやがった。

 アイチヤはやっぱり金の神の眷属だな。



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商品名    数量 仕入れ  売値   購入元

電動ドリル  一台 一万円  二万円  ホームセンター

鉄工用ドリル 一組 千五百円 三千円  ホームセンター

ミニユンボ  一台 百五十万 二百万円 重機専門店


参考価格

商品名  数量     価格    購入元

ドラム缶 一個     一万一千円 ネット通販

軽油   二百リットル 二万六千円 配達業者

ポンプ  一個     五千円   ネット通販

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