第二話 マヨネーズとカレー

 俺は今、店が終わった後に料理人の寄り合いに出席している。

 前回は店の売り上げが落ち込んでライバル店の店長の顔が見たくなくて欠席していた。

 今回は売り上げが回復したので、ライバルの悔しそうな顔が見たくて足を運んだ。


 会場の居酒屋で料理をつつき酒を飲みながら歓談。

 皆の俺を見る目が変だ。何かたくらんでいるような嫌な感じがするな。


「それでだな。みんな売り上げが少し落ち込んでいる。わずか数パーセントだが、見過ごせない」


 ある料理店の料理人が発言した。


「そうだ。数パーセントでも食材が余ると経営に響く」


 違う料理人が発言。


「その原因はバルトサンダさんの店じゃあないのかい」


 またもや違う料理人が発言。

 流行る店が出てきたら皆で叩く。

 そんな事をしてるから隣の街の方が飯が美味いなんて言われるんだ。

 嘆かわしい。

 このまま、一方的に叩かれるのも癪に障る。


「それで、どうしろというのだ」


 俺が強気に発言するとライバル店の店長がしゃしゃり出てきた。


「いっそ、マヨネーズを特許登録して、皆がマヨネーズ料理を作れる様にしましょう」


 ライバル店の店長の言葉に俺は怒りかられた。

 なんだって、そんな事したら魂を取られる覚悟で教えて貰ったレシピを無料であげる様なものだ。

 なぜなら、レシピを改良すると新しい特許に認定される事があるからな。

 許せん。


 そうだ、この欲深い奴らから金をむしり取ろう。


「みなさんの店にも看板メニューがあるな。それを、特許登録しろと言われたらどうする?」


「それは……確かに困る。……だが売り上げが落ちたままなのも困る」


 最初に発言した料理人が考え考え言った。


「俺が皆の店にマヨネーズを供給しよう。皆はそれを使い料理をすれば良い」

「バルトサンダさんが適正価格で売っていると、どう証明する」


 俺の提案に別の料理人が口答えする。


「実は神の眷属からマヨネーズを買っている。彼が俺と同じ値段で売ると説明する」

「その神の眷属は本物なのか」


 俺の言にライバル店の店長が食い下がる。


「神を騙れば、呪いを受けると思うが」

「そうだな、その通りだ。皆これで良いか」


 俺は強気に言い放ち、料理人のまとめ役が良く通る声で言うと料理人一同がうなづいた。


 上手くいったな。

 手作りのマヨネーズと完成品のマヨネーズでは味が違う。

 今ほど流行らないかもしれんが、舌の肥えた客には違いが分かるはず。

 それと生卵は安い。手作りすれば値段にも差がでる。


「では眷属を呼んで来る」


 俺は内心の笑いを堪え、皆に聞こえるよう言った。


 夜道をほくそ笑みながら自分の店に帰る。手馴れた手順でアイチヤを呼び出す呪文を唱えた。


「デマエニデンワ」


 念話が繋がった。


 俺はアイチヤに完成品のマヨネーズの値段を説明して欲しいと頼んだ。

 マヨネーズの大量注文に手持ちが十個しかない事を言われ了承した。


 念話が切れ、光が溢れた。

 登場したアイチヤを皆の所に案内する。




 会場の皆は上手くいったと思ったからか、お酒が進んでいる人が多いように見えた。


「あんたが眷属かい。そうは見えないね」

「俺は眷属っす。神に誓って言えるっす」


 寄り合いの料理人の命知らずの発言だが、アイチヤは怒った顔も見せずに応対する。


「マヨネーズはどこだ!?」

「アルティメットボックス」


 別の料理人に聞かれアイチヤはスキルを発動した。

 アイチヤは黒い穴からマヨネーズを次々に取り出す。

 マヨネーズの取り合いが始まった。

 くじ引きで最初の十個の割り当てを決める事になる。


「マヨネーズは幾らだ?」

「マヨネーズは一個、銀貨一枚と銅貨六十枚っす」


 料理人の質問に気軽に答えるアイチヤ。


「もっと安くならないのか?」

「無理っす。嫌なら買わなくて良いっす」


 料理人の問いに断固とした口調で返すアイチヤ。


「しょうがないのか」


 料理人は納得すると酒宴に戻っていった。


「時間が貰えれば量は都合出来るっす」

「まあ量が好きなだけ手に入るなら問題ないな」


 アイチヤが皆に呼びかけ、まとめ役が皆を代表して答えた。


「注文は俺が受付る。開封しなければ十ヵ月持つと聞いた。なくなりそうになったら早めに注文してくれ」


 俺は以前アイチヤから聞いた賞味期限の話をした。

 アイチヤには帰ってもらい、料理人から注文を取った。

 こいつらには高くて少し味の落ちるマヨネーズを使ってもらうとするか。




 他の店でもマヨネーズを使った料理を出し始めた。

 店の売り上げは落ちたが、ライバル店が出来る前より流行っている。

 しかし、この状況には甘えていられんな。


 新たな味を求めなければいけない。

 という事でアイチヤを呼び出す呪文を唱える。


「デマエニデンワ」


 念話が繋がった。


 新しいレシピをアイチヤに要求した。

 アイチヤの国で愛されている物と注文をつける。


 念話が終わり、すぐに光が溢れた。。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」

「見せてくれ」


 何時もの言葉を言ってアイチヤが現れ、俺は一刻も早くレシピを知りたくて急かした。


「カレーを一緒に作るっす」


 アイチヤは紙の箱と白い器に透明な包装が付いた物を出してきて言った。


 肉と野菜を鍋で炒め、水を入れ煮込んだ。

 あくを取り野菜に火が通ったらルーというものを入れた。

 更に煮込み完成。簡単な料理だな。


 しかし、言いたくないのが、色と形状がアレそっくりだな。

 コメも形が虫の卵みたいで穀物だとは分かっているが不気味だな。

 これはお客には出せない。


 匂いは良いので思い切って食べた。

 美味い、コメというのと良く合っている。

 ピリッとした辛味とわずかな甘味、辛いのに辛すぎず複雑な味だ。

 正直、美味いと思った。

 でも、形状がな。封印だな。

 アイチヤは生卵を入れると更に美味いとかマヨネーズを入れる少数派も存在するとか色々語ってから帰った。




 アイチヤは次のレシピを考えてくれるようだ。

 期待せずに待つとするか。




 それから幾日か経ったある日の事。

 なんとうちの店にグルメで有名なオスカベルト氏が来やがった。

 オスカベルト氏はドッカっと椅子に腰掛ける。

 巨体に椅子が少し軋む。


「何にする」


 俺は早速注文を取る。


「この街ではマヨネーズ料理は食べ飽きた。この店オリジナルの料理を出せ」

「分かった」


 オスカベルト氏の苛立った声の注文に俺は短く答えた。


 困ったな。オスカベルト氏に酷評されて店を辞めた人もいるとか聞いたぞ。

 うかつな物は出せないな。

 厨房で散々考えて出した答えが、あの封印した料理だった。




 コメにカレーをかけて、どうせやるならと生卵を落とす。

 さあ勝負だ。


「おまたせ。カレーだ」


 俺は気合を入れてオスカベルト氏に言った。


 オスカベルト氏は形状にはびっくりしない。ゲテモノも食べた事があるのだな。

 何も言わずにスプーンでカレーを食べ始める。

 瞬く間に食べ終わった。


「おかわり」


 オスカベルト氏は満足気な表情で催促する。


 おお、気に入ってくれたか、料理人冥利に尽きるぜ。

 おかわりを食べて、色紙にサインまでしてくれた。

 帰って行く後ろ姿を見送り少しホッとする。




 それから、裏メニューとして知る人ぞ知るものにカレーはなった。

 店には偶にグルメな客が訪れる様になり、評判も上々だ。

 アイチヤは金の神の眷属に違いない。



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商品名   数量  仕入れ 売値    購入元

マヨネーズ 十キロ 八千円 一万六千円 業務用スーパー

レシピ       無料  一万円   ネット

カレールー 一箱  二百円 四百円   スーパー

パックご飯 六食  千円  二千円   スーパー

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