第三話 ショートケーキ

 今日は定休日だ。

 生卵を食べれるようにする魔道具の開発を頼んだ魔法使いを訪ねようと思った。

 魔法使いは街の城壁沿いに工房を構えている。

 尋ねると魔法使いのアロトルドは暖かく迎えてくれた。

 アロトルドは俺と同い年の男で子供の頃は良く遊んだ仲だ

 少し変わってはいるが良い奴のように思う。

 ピンクのローブを着た姿を見ると着る物のセンスはどうかと思うがとにかく良い奴だ。


「アロトルド、魔道具は完成したか?」

「天才の我輩に掛かれば簡単だ」


 俺の疑問にアロトルドは自信満々でピンクのローブをひるがえし棒状の魔道具を出してきた。


「これは我輩の傑作だ。いろいろな応用が利くぞ。瓶の中にある食べ物に使用したら、腐るのが遅くなった」

「どんな原理だ」

「極小の生き物を目標にして魔力で極小の力場を発生させるのだ。虫だけを殺す結界の魔道具を改良した」

「それなら、生卵に使用しても大丈夫そうだな」

「それどころか、傷に使うと化膿する確率を減らす事が出来るのだ」

「それはどうでも良いな」

「我輩の偉大な発明がどうでも良いだと、相変わらず料理馬鹿だな。ははははっは」

「特許登録でも何でもしてくれ」

「言われなくとそうするぞ」

「魔道具の代金は幾らだ?」

「無料で持っていけ。多分この発明は我輩を大金持ちにしてくれるはずだ」

「分かった。ありがたく頂いていく」


 俺とアロトルドの実にどうでも良い会話のやり取りは終わった。

 終始ご機嫌な様子のアロトルドから俺は魔道具を受け取る。


 魔道具は手に入った。

 次の段階の生卵の入手は難しいな。

 鳥魔獣の卵は大きくて美味いが、何時産んだのか分からない為に腐っている事もあるからな。

 普通の鳥を飼育しているやつもいるが、値段が高い。

 鳥魔獣を使役できれば良いのだが。

 方策を考えた。しかし、良い方法は浮かばず。


 アイチヤに相談すると、鳥を落ち着かせるのは目隠しすると良いと聞いた。

 結局、目隠しを遠隔コントロールするための魔道具をアロトルドに注文する。

 懐の暖かくなっているアロトルドは二つ返事で引き受けた。


 冒険者に駝鳥型の鳥魔獣を捕獲してもらい魔道具を取り付ける。

 飼育には引退した冒険者を雇う。

 上手くいくか不安だったが、思いの他上手くいった。

 目隠しで落ち着かせると徐々に飼育員に慣れたらしい。

 アイチヤに品種改良の話を聞いて、大人しい鳥魔獣と大人しい鳥魔獣を掛け合わせる。

 気の長い話だが、まあ良いだろう。

 鳥魔獣牧場は余った玉子を売って黒字だから、ゆっくりいくとする。


 有精卵と無精卵の区別をつける魔道具も作った。

 これは魔力のあるなしで簡単に見分けがつくから比較的簡単だ。


 魔獣の卵を使ったマヨネーズは更に美味しくなり大変嬉しい。

 マヨネーズの値段は上がるが、これで良かったと思う。

 せっかく美味しい卵を手に入れられる環境が整ったのだから、マヨネーズ以外のレシピも欲しいところだ。




 一週間考えた。しかし、玉子料理は昔からあり、とても新しい料理は考えつかない。

 そうだ、アイチヤに連絡しよう。




「デマエニデンワ」


 俺はお決まりの呪文を唱え、念話が繋がった。


 俺は玉子を使ったレシピを求めた。

 焼いた物、スープ、炒め物、蒸した物、意外の料理レシピを頼む。

 アイチヤにも、それに当てはまらない料理は思いつかないようだ。


 蒸した料理のプリンという物を提案してきたが、似たような物がこちらにもあるので代わりにケーキのレシピを提案される。

 試しにサンプルとして完成品のケーキを持ってきてもらう事になった。


 念話が切れた。


 ケーキはデザートらしいが確かにうちの店はデザートで人気メニューというものは無い。

 これは好都合だ。

 ケーキがもし人気メニューになるようなら、更なる発展が望めるだろう。

 店を大きくする為に改装しても良いような気がしてきた。


 しばらくしてアイチヤが現れる。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」


 アイチヤから紙の箱を受け取り、開けると乳の匂い、香ばしい匂い、甘い香りがする。


 まずは、暗い茶色のケーキからだ。

 アイチヤによると茶色の物はチョコレートと言うらしい。

 縮めてチョコとも言うと聞いた。


 食べると上に掛かったパリパリのチョコとチョコのチップが良い食感だ。

 チョコクリームと柔らかいなチョコスポンジの味わいが後を引く。




 次は果物が間に挟まったケーキだ。

 果物はイチゴというらしい。


 では試食だ。

 クリームと苺とスポンジの相性が絶妙だな。

 凄い美味しいぞ。




 次は黄色いケーキだ。

 中に何も挟まっていない。

 食べてみるとチーズの味わいが口の中に広がる。

 しっとりしてなめらかな口どけのケーキだ。




 マヨネーズの時はそれほど衝撃は受けなかった。

 なぜなら、あまり俺はマヨネーズが好きではないようだ。

 お客さんのなかにはマヨネーズが好きで堪らないというやつもいるが、俺はそこまで好きになれない。

 だが、ケーキは衝撃だ。見た目の華やかさと香り味もだ、デザートとしては俺なら満点を出せる。




 アイチヤにレシピを買う事を伝えると、翻訳に二日掛かるから待って欲しいと言われた。

 料金に金貨二枚を請求されたが、あれが俺にも作れるのなら惜しくない。

 大人しく待つこと二日。

 遂にレシピを手に入れた。

 レシピには二十ものケーキが載っている。

 これが全てできれば繁盛間違い無しだな。




 さっそくスポンジ生地を焼いた。

 何度か失敗してから成功させたが、色がよろしくない。

 全体的に黒いな。それと黒い点が混ざっていて歯ざわりも良くない。

 小麦粉の質と砂糖が黒いせいだと思う。

 レシピを見て気づいた。

 生クリームなんてない。

 バニラもない。

 イチゴは他の果物で代用できるとしても、他のページに書かれているココアパウダーとチョコはどうすれば。

 バターも塩が入っている物を使ったのでスポンジに少し塩が効いる。

 砂糖も白い砂糖が欲しい。




 結局材料はアイチヤに全て頼る事になった。

 マヨネーズの時も後で玉子の問題をなんとかできたので、今回も少しずつ解決するか。

 まずは小麦粉の改善からだ。

 錬金術士に声を掛ければなんとかなる気がする。

 先は長いのでゆっくりいくとするか。

 俺がアイチヤの食材では無い、この世界の食材で料理したいのは愛しい我が子にレシピを伝えたいからだ。

 親ばかだとは分かっているが、良い状態で店を受け継がせてやりたい。


 アイチヤとの付き合いがどれだけ続くのかも分からないのもある。

 いざという時の為に備えは必要だ。


 気を取り直してプリンを開発する。

 プリンはアイチヤの砂糖で無事完成した。


 新しいデザートは大変好評だ。プリンはすぐ真似された。

 しかし、黒い砂糖しか手に入らないのでプリンのあの鮮やかな黄色は出ない。

 ケーキの方は類似商品を今のところ他店でも出していないようだ。

 大繁盛に笑いが止まらない。

 アイチヤは金の神の眷属だ。

 せめてケーキがこの世界の食材で作れるようになるまで、アイチヤが逃げ出さないよう祈るぜ。



――――――――――――――――――――――

商品名 数量 仕入れ  売値    購入元

ケーキ 三個 千二百円 二千四百円 洋菓子店

レシピ 一冊 千五百円 資料    書店

翻訳料 一冊 無し   二十万円  藍地屋

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