第三話 玉子丼と秋刀魚定食とおかゆ

 料理の練習も一段落。

 失敗作も大分、アルティメットボックスに溜まっている。

 今日は炊き出しと言う名の失敗作処分に行こうと思うっす。


「出前行きます」


 俺はスキルを発動し光を潜り、スラムの曲がりくねった道に出た。


「何だ眷属のあんちゃんじゃないか、呼んでないけど」


 パシタが俺に気づき声を掛ける。パシタは不審に思ったようだ。


「いつもご飯ありがとう」


 マイラが子供らしく微笑んでお礼を言う。


「今日は炊き出しするっす。パシタの依頼って事にして、出来たら二人にも手伝って欲しいっす」

「俺は良いけど」


 俺の言葉に銅貨一枚を俺に渡し、承諾するパシタ。


「マイラ、やる、やる。お手伝いする」


 マイラは元気に手を上げてはしゃぐ。


「何か気をつける事はあるっすか?」

「顔役に話をつけといた方が良いかも。よそ者は歓迎されないから。俺が知らせてくる」


 俺の問いに、パシタは答えると元気に駆け出して行った。




 マイラと雑談しているとパシタが帰って来る。


「話はつけといた。スラムの入り口でやって良いって」

「そうっすか。ご苦労様」


 パシタは報告し、俺は労いの言葉を掛ける。




 スラムの入り口に行き。

 アルティメットボックスからテーブルと椅子を出す。

 顔役が触れ回ったのか二十人ぐらいのスラムの住人が集まっていた。




「食事は一律銅貨一枚っす!」


 俺は声を張り上げた。


 なんだ金とるのかと言って何人かが帰る。

 金は少なくとも良いから、絶対貰えとエルシャーラ様が言った。

 神なりの理由があるのだろう。

 メニューは玉子丼、秋刀魚定食、おかゆの三種類っす。




 アルティメットボックスから料理を出して銅貨と引き換えに渡す。

 パシタとマイラは食器の回収係だ。

 それと集まった人には神器を渡した。

 これはエルシャーラ様に頼まれた物。

 なんでもダンジョンの宝箱に忍ばせるのが面倒になったと言っていた。

 配ってきてちょうだいと言われて受け取った物だ。


「あんた、このサンマだったっけ。何で中途半端に身をほぐしてあるんだ?」


 客の一人が食べるの中断して聞いてきた。


「料理の練習で焼いたので火が上手く通ったか確かめたっす。生焼けは無いはずっす」

「そうか、おいしいよ。炊き出しの料理としては上出来だ。変な事聞いて悪かったな」


 俺の答えに満足して客は食事に戻る。


「さっき貰った羊皮紙はなんだい?」


 さっきとは別の客が話しかけてきた。


「それは神器っす。要らなければ人にあげるか、売ってくれっす。捨てるのはお勧め出来ないっす」

「神器かぁ。それはおおごとだな。この文字は読めないから、誰かに売るよ」


 俺の言葉に客は顔を青くして言葉を残し去って行った。



 あまり食べていないのか、フラフラな人もいる。

 そういう人にはおかゆを勧めた。

 中には泣き出す人もいる。




「玉子丼美味しいね。ママにも持って行こうよ」


 お父さんと娘と思われる幼児が玉子丼を持ち帰って行く。


 食器を持っていってしまう人もいるが、パシタとマイラには気にしない様にあらかじめ言ってある。

 百円ショップの安物だから、持って行かれても痛くない。

 回収した食器はアルティメットボックスにそのまま放り込んだ。




「秋刀魚定食、売り切れたっす!」

「ちくしょう! 後一回食いたかったんだが」


 俺の発言に先頭にいた人が悔しさを滲ませて叫ぶ。


 大抵の人が満腹になるまで何度でも並ぶ。

 でもそれで良いっす。失敗作の放出だから。

 人の数は続々と増えている。




 ガラの悪そうな人が集団で近づいて来たっす。


「おう、にいちゃん。こんだけ安く料理を振舞えるのなら、相当貯め込んでいるはずだ。有り金、全部出してもらおうか」

「駄目っす! 暴力に屈しないっす」


 腕にジャラジャラとアクセサリーをつけた男が脅迫してきた。

 俺は強く否定する。


「おまえら痛めつけてやれ」


 男が命令を出し、男達が動き出そうとした時、後ろで指を鳴らす音がパッチンと聞こえた。


「あなた達、この取引を邪魔すると言うのね」


 振り返るとエルシャーラ様がいつの間にか立っていて、確認の言葉を紡いだ。


「なんだ呪縛の魔法か、体が動けねぇ。そうよ邪魔してやる。早く呪縛を解け」


 男が答えるとエルシャーラ様はまた指を鳴らす。


「もしかして、呪い掛けたっすか?」

「ええ、その通り」


 俺の問いにエルシャーラ様は頷いた。


 疑問が生じた。神様は長生きのはず、ならレベルって上がる一方になる。

 頑張って上げなくても良いと思う。


「神にも生活があるのよ。神力で生み出した物はどの地上世界の物より優れてるわ。それで神力を使うとレベルが下がるのよ」


 俺の心を読んだのだろう。エルシャーラ様が俺の疑問に答えをくれた。


 つまり給料って訳か。

 ちなみに今の呪いで一日贅沢が出来るとエルシャーラ様は言った。

 炊き出しを何度もやるようにエルシャーラ様に命令される。

 俺は少し複雑な思いで頷いた。

 そして、エルシャーラ様は光と共に消えて行った。


 男達は呪縛が解けたようだ。

 再び殴り掛かろうとして、悶え転がる。


「いてぇ。許して。お願い」


 男達は絶叫し、阿鼻叫喚の嵐になった。

 呪いに掛かると悲惨っすね。

 しばらくしたら、男達は回復したのか、無言で立ち去って行った。


 気を取り直して料理を売るっす。

 心なしか並ぶ人の列がピシッとした。

 列の前の方の人の顔は引きつっている。

 神は怖い。でも、食い物は欲しいと言いながら、料理を買っていった。


 玉子丼も売り切れて、おかゆも残り少なくなった時、金属鎧を着けた騎士の一団がやって来た。


「通報があった。他国の間者というのはお前か!?」

「間者じゃ無いっす。料理を売っているだけっす」


 居丈高な騎士の問いに俺は素直に応じた。


「間者でなければ、貧民を扇動させ革命を起こすつもりだな。怪しい奴だ捕らえるぞ」


 どうやら、言いがかりのようっす。

 騎士はとんでもない理由を持ち出して来た。

 どうしても俺を逮捕したいみたいっす。


 男達が動き出した時、パッチンと音がした。


「あなた達も、この取引を邪魔すると言うのね。嬉しいわ」


 エルシャーラ様が微笑しながら現れ言った。


 男達は動けなくなっている。微動だにしない。


「今日は臨時収入があったから、神術を使って関係者全員の頭の中を覗くわ」


 エルシャーラ様の言葉から騎士は事態を悟ったのか表情に焦りの色が見える。


「エルシャーラ様、神術も神力を使うっすか?」

「ええ、その通りよ。今回は大量ね。命令した者も一網打尽よ」


 俺の問いに頷いてから指を鳴らし嬉しそうに結果を伝えた。

 そして、エルシャーラ様は帰って行った。


 呪縛が解けると男達は剣を抜いて悶えて崩れ落ちる。

 泣き言を言わないのは流石だが、押し殺した苦鳴は聞いていて気持ちの良いものじゃないっす。


 回復すると再び剣を拾い振りかぶろうとして、崩れ落ちる。

 流石に三度目は無かった。

 俺を睨みつけると足早に去って行く。




 程なくして用意していた料理は無くなった。


「パシタ、マイラありがとう。今日稼いだ銅貨三百枚を駄賃として渡すっす」

「あんちゃん良いのか。貰っておくよ。ありがとう」


 俺は感謝を述べ銅貨をパシタに渡すとパシタは満面の笑みで銅貨を受け取った。


「あんちゃん、マイラ次はお菓子が食べたい」

「また来るっす。デマエキカン」


 マイラは可愛くおねだりし、俺は再来を約束してスキルを使い帰還した。


 色々あったけど、無事終わって良かったっす。


 何日か経過し、パシタに呼び出された時に領主が優しくなったと聞いた。

 なんでも悪事をしようとすると激痛が走るらしい。

 国中に依頼をだして、呪いを解ける者を探したと言っていた。

 まだ呪いは解けてないらしい。



――――――――――――――――

玉子丼 百杯


商品名  数量   仕入れ

米    十キロ  3千円

玉ねぎ  二十五個 千二百五十円

玉子   十パック 千円

粉末出汁 一箱   千円

醤油   二本   四百八十円

みりん  三本   千五百円


秋刀魚定食 百膳


商品名  数量   仕入れ

米    十キロ  3千円

秋刀魚  百匹   一万円

醤油   二本   四百八十円


おかゆ 百杯


商品名  数量   仕入れ

米    十キロ  3千円

塩    一キロ  百二十円

粉末出汁 一箱   千円


購入は全てスーパー

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