第三話 漫画と絵本

 姫様に困ったものだわどうやら、文字の練習を逃げ出したらしい。

 姫様を探してあちこち歩く。

 居ないわね。どこに隠れたのかしら。

 あれ、姫様の自室でゲームの音がする。

 クローゼットの中でゲームをしている姫様を見つけたわ。


 姫様を甘やかし過ぎたかしら。

 しかし、私は侍女だから、あまり強くは言えない。

 でも、姫様に我がままな大人にもなって欲しくないわ。

 ここは、断固とした態度を取るべき場面ね。

 言えば姫様は分かってくれるでしょう。


「そんな事をしているとゲーム機を叩き壊します」


 見つけた姫様に私は目を吊り上げて話し掛ける。

 姫様は見つかった時は悪びれた様子もなかったが、ゲーム機を壊すと言った瞬間に目に涙を浮かべた。


「フロードレアはそんな酷い事しないはずなの」

「いいえ、姫様の態度が改まらない限りは実行します。本気ですよ」


 姫様のすがるような言葉に、私は固い口調で警告した。


 姫様はすごすごと勉強に戻って行った。




「フロードレア、アイチヤを呼んで。文字が分かるようになる道具を出してもらうの」


 姫様は勉強を終えると、とんでもない事を言い出した。


「あの男は危険です。姫様の為になりません。諦めて下さい」


 私は幾分強い感じで姫様に警告する。


「グラデリカも何か言って」

「そうですよ。文官が酷い目にあったとか。姫様もお小言を貰いたくなければ、諦めましょう」


 私は話をグラデリカに振ると、グラデリカもきつい感じで姫様に警告した。


「そんなことないもん。計算は出来るようになったの。もし駄目なら一切勉強しないの」


 口を尖らせて反論してくる姫様。

 不味いわね。こういう態度に出た時はてこでも動かなくなるから、しょうがない。


「姫様、これで最後ですよ。良いですか約束ですよ」

「分かりましたの」


 私の諦めの混じった口調に、姫様も頷いて承諾する。



 私は神器を作動させる呪文を唱えた。


「デマエニデンワ」


 プと奇妙な音がしたと同時、ガチャという音と共に念話が繋がったわ。

 今日は早起きね。


 マンガというものもあるらしいが、とりあえず絵本をアイチヤに注文した。


 念話が切れた。



「姫様、アイチヤは呼びました。約束は守って下さい。今日逃げ出した時間の分、文字の練習をしてもらいます」

「分かったの。大人しく勉強するの」


 私は姫様に優しく呼びかけ、姫様はしょうがなさそうに従った



 姫様の文字の勉強をみていると、光が溢れた。

 来たわね。最後だけど、とんでもない物は持ってこないわよね。




「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」

「商品を見せて」


 アイチヤの呼びかけに、私は命令口調で喋った。


 商品は普通に本だった。ページ一枚に文章が多くても三つ。

 絵は綺麗だけどこんな物で文字が分かるようになるのかしら。

 とりあえず危険はなさそうね。

 アイチヤに帰ってもらう。


 姫様に見せると分からない単語の説明を求めてくる。

 見せながら読み聞かせると早く覚えるとアイチヤに聞いたから、やってみると好感触。

 本は子供がトラ退治すると言う物だったわ。

 なるほどストーリーが奇抜ね。

 次の本はうさぎが主人公だわ。

 これは、シリーズで色々あるのね。

 ほんわかした雰囲気でとても良い。

 危険な内容は無い。良かったわ。




 三日もすると姫様は絵本では物足りなくなった。

 新しい本をアイチヤに頼もうかしら。

 マンガとか言う物を試す必要があるわね。


「デマエニデンワ」


 私は神器を動かすための呪文を唱えた。


 プルルルと何時もの音がしたわ。毎回寝てるなんてズボラな眷族ね。

 ガチャという音と共に念話が繋がったわ。


 マンガを注文した。

 高いので払いを姫様に持ってもらうのを了承してもらう。


 念話が切れ、本の値段を考えたわ。

 この辺りの本は高くても大体銀貨十枚だわ。

 銀貨五十枚はしない。なんでマンガは高いのかしら。


 本は複写のスキルで写本が作られるから安い。

 絵本が一冊銀貨三枚って事を考えるとかなり割高ね。

 神の力とかで本を作っているなら、おかしいわ。

 眷属だから力に限界があるのかしら。

 神の関係者はプライドが高いから力が無いのですかとは聞けないわ。

 とにかく姫様にお金を出して貰いましょう。ついでに絵本の分も。



 マンガは二日後に届いたわ。

 マンガも見たところ文字が多い絵本だ。

 内容は仲間を集めて冒険するといった在り来たりの英雄譚ね。

 吟遊詩人が好きそうな話だわ。


 読ませたところ姫様には大好評だった。

 姫様に続きをせがまれて、あまりのしつこさにアイチヤから続きを買ったわ。

 何回か繰り返した後、とうとう姫様の小遣いが尽きた。

 問題だわ。こんなに中毒性があるなんて。

 アイチヤを甘くみていたわね。

 どうしましょう。

 そうだ、本を特許登録すれば良いわ。




 商業ギルドは色々な手続きをする商人で溢れかえっている。

 王都の商業ギルドだけあって窓口の数も三十ぐらいあった。

 特許登録の神器使用の窓口にいくと、おじさんが暇そうにしているわ。

 特許登録したいのですと声をかけたらびっくりされた。

 神と会話する事になるがいいかと何度も念押しされる。

 神器の使用料、銀貨五枚を払い、少し不安になったけど勇気を出して神器のある部屋にはいったわ。


 祭壇がありその上にオーブが設置してある。

 あれが神器ね。手で触ると念話が始まった。


『この本の特許登録をお願いします』

『マンガや絵本といった概念は登録できぬ。しかし、本単体では著作権を登録可能だ』

『ではそれでお願いします』

『今回は特例である。本をコピーしたアイチヤは眷属だから、登録できない。お金を出して買ったエルバータ姫に権利を認めよう。地球の著作権も異世界では適用できない』


 ふう、地球とはなんなのか疑問が残ったけど、登録できて良かったわ。




 出版した本はもの凄く売れたわ。

 続きを要望する声の大きさにめまいがしそう。

 姫様の収入は騎士の給料を超えるほどになった。

 私、侍女を首になったら、これでお金を稼いで暮らそうかしら。


 収入のおかげで姫様はマンガの続きが読めるようになった。

 中毒性をどうにかしなければ。まあ物は考えようね。

 お酒だと思えばいいんだわ。量が過ぎれば害になって、少なければ薬。

 姫様は子供だから、私達大人がコントロールしないと。


 姫様との良い交渉材料が出来たと喜ぶべきところかしら。

 結局アイチヤとはまだまだ付き合いが続きそうだわ。

 いったいマンガって何冊ぐらいあるの。

 そういえばゲームも種類が沢山あるって聞いたわ。

 姫様が汚染されていくような気がするのは気のせいかしら。



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商品名   数量 仕入れ 売値    購入元

絵本    五冊 五千円 資料    書店

絵本翻訳料 五冊 無し  一万五千円 藍地屋

漫画    一冊 五百円 資料    書店

漫画翻訳料 一冊 無し  五万円   藍地屋


 『』内の会話は念話です。

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