第四章 山賊の頭

第一話 ウィスキー

 俺はブロルディオ、山賊の頭だ。

 今日は商人をぶっ殺して懐も暖かい。食料も手に入って万々歳だ。

 手下は三十人ほどいる。この辺りではでかい山賊団だ。

 天然の洞窟を利用したアジトでこれからの算段を考え始めた。


「おまえら酒盛りするぞ」

「頭、酒がありませんぜ」


 俺の呼びかけに、アジトの食料庫を覗き込み手下の一人が答える。


「面が割れてない奴に買いに行かせろ。幸い金ならある」

「それだと夜中になっちまいやす」


 俺が命令すると、手下が生意気に口答えする。


「うーん、もう一丁商人をぶっ殺して酒をもっているのを期待するか」

「頭、良い方法が有りますぜ」


 俺の提案に自信ありげに別の方法を示唆する手下。


「とっとと、その良い方法を聞かせろ」

「今日の商人が持っていた使い捨ての魔道具なんでやすが、商人を呼び出せるそうで」


 俺が急かすと俺の感情を読み取ったのか手下は羊皮紙を片手に早口で説明する。


「ほう、それで」

「古代語で書かれた羊皮紙なんですが、商人の覚書があって使い方はばっちりでさぁ」


 俺が相槌を打つと手下は得意げに説明してくる。

 羊皮紙と覚書を受け取った俺は覚書を読む。

 手下の言う通りだな、と言う事は魔道具で呼び出される商人は魔法使いに違いない。

 魔法使いは強敵だが魔法を封じれば勝ち目がある。

 どうせ武器なんて使ったことが無いはずだから、楽々ぶっ殺せる。

 よし、やるぞ。


「一戦交えるぞ。虎の子の魔封じの魔道具を出せ」

「「「「「へい」」」」」


 俺が声を上げると、手下達は立ち上がり同意した。



 よし、魔法使いに対する準備は出来た。

 後は呼び出すだけだな。


「おい、お前、魔道具を使え」


 そばに居た手下に話しかける。


「あっしですかぁ。危なくは無いんですよね」

「つべこべ言わずにやれ。そらよ、これが呪文だ」


 まごまごする手下に覚書と羊皮紙を投げつける。

 のろのろしやがって。手下を軽く蹴飛ばす。


「へい、今やりますって。デマエニデンワ」


 商人の覚書と羊皮紙を拾うと手下はしぶしぶ呼び出しに掛かる。


 プルルルという音がアジトの洞窟に響きわたる。なんだ魔法攻撃か。ガチャっという音がした。

 手下は黙ったまま、ちっとも動きを見せない。呪縛魔法でも喰らったか。

 しばらくして、またガチャっという音がした。


「お頭やりましたぜ。一時間後に酒を持ってきてくれるそうです」

「よくやったな。野郎共、宴会するために料理に掛かれ」


 手下の報告に、俺はほくそ笑み命令した。


「「「「「へい」」」」」


 手下は返事すると一斉に動き出した。



 手下の料理が終わった頃、突然アジトの洞窟が光に溢れる。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」

「おう、ごくろう」


 能天気な声で話すアイチヤに、俺は取り繕い感謝の言葉を述べる。


「今、注文のウィスキー百本を持ってくるっす」


 疑いもしないでアイチヤは言葉を掛け、光をくぐり何回も往復する。


 馬鹿な奴だ。殺されるのに酒を運び込んでやがる。

 俺達の風体を見て山賊だと思わないとは間抜けな奴も居たもんだ。


「お支払いを。金貨六枚になるっす」

「野郎共やっちまえ!」


 疑いもしないお気楽な口調で支払いを求めてくるアイチヤに、俺は手下に襲撃の合図をする。


「「「「「おー!」」」」」


 手下はときの声を上げ一斉に武器を抜いた。


 魔封じの魔道具は上手く働いているようだ。アイチヤは呆気に取られて微動だにしない。

 手下は思い思いの武器で打ちかかる。

 手下の攻撃は全て弾かれる。


「かてぇ。何だスキルか。お頭だめです。攻撃が通じませんぜ」

「どいてろ。俺がやる。肉体強化!!」


 手下の窮状の言葉に俺はスキルを発動した。


 肉体強化は優れもののスキルだ。力、防御力、速さ全てが一時的に上がる。

 腹が減るという副作用はあるが、今までこのスキルで強敵を打ち破ってきた。


 大剣をアイチヤに叩きつけるとなんと大剣が砕けやがった。


「デマエキカン」


 アイチヤが謎の言葉を残して、光と共に消えうせる。

 野郎スキルで逃げやがった。


「野郎共、宴会をしたら、アジトを引き払うぞ」

「頭、どうしたんですか。奴が逃げ出したのに」


 俺の言葉に手下は疑問を呈した。


「騎士あたりに通報されて、討伐されるのも気にくわねぇ」

「悠長に構えてて良いんですか?」


 俺の言葉を聞いて、手下はうろたえ疑問を投げかけてきた。


「そこは大丈夫だろう。転移のスキルは強力だが、複数人を転移出来るとは思わねぇ」


 俺は答え、手下は皆、頷く。




 俺達はアイチヤが持って来た酒で酒盛りを始めた。

 おっ、こいつは美味い酒だ。口に含むと芳醇で甘い香りがした。

 信じられないぐらい強い酒だ。

 喉がカァーっと来る。

 作り方も聞けば一儲けできたのに。

 こんなに美味いなら、もっと持って来させたら良かったな。

 スキルを発動した副作用も大分収まってくる。

 俺達は皆酔ってきて良い気分になった。


「おい、なんか芸をやれ」

「へい、腹踊りをやります」


 俺の要求に手下は立ち上がり上着を脱いで答えた。

 手下の間抜けな踊りを見て、酔っている事もあり、俺は愉快な気分になった。


「がはははは、おもしれぇ」


 俺の笑い声がアジトにこだまする。


 なんだ、光が洞窟に満ちる。アイチヤの奴、復讐に来たか。


「野郎共、魔封じを使え」


 俺は大急ぎで手下に命令を下した。


 光が収まると凄い金髪美女が立っている。

 寝て夢でも見ているかと思って思わず頬をつねったぜ。

 いてぇ、夢じゃない。


「おい分かってるだろうな。でかい傷をつけるんじゃねえぞ。後でたっぷり可愛がるんだからな」


 俺の言葉に手下は頷き、縄や棍棒を用意した。


 手下が動き出す寸前、美女がフィンガースナップで指を鳴らす。

 俺は身動き一つ出来なくなった。声も出せない。

 見えている範囲では手下も同様のようだ。


 再び美女が指を鳴らす。

 今度は酔いが醒める。何がおこっているんだ誰か説明してくれ。


「あなた達、契約を破ったわね。嬉しいわ。呪いを掛けれる」


 美女が微笑みながら言葉を発する。


 呪いを掛けるという事はこの美女は女神か。

 という事はあの魔道具は神器だな。

 不味い事になった。呪いだけで命は取られないみたいだが、厄介な事になった。


 女神が指を鳴らす。


「あなた達の呪いは三つあるわ。悪事を行うと激痛が走る。一日の内一回は善行をしないと悪夢を見る。酒の味がしないという呪いよ」


 女神が残酷な仕打ちを淡々と説明する。


 やばい、呪いを喰らっちまった。

 盗賊稼業が出来ないばかりか、善人の真似をしなけりゃならない。

 酒は好物なのに味わえないとは、えげつないぜ。


「私は優しいから、酒の味の呪いは酒の代金、金貨六百枚を返したら解いてあげる」


 女神は更に説明した。


 えっ金貨六枚じゃなかったのかよ。百倍とはまったく悪質だぜ。高利貸しも真っ青だ。


「借金は頭割りね。借金返済スキルを付けといたから、頑張って返すのよ」


 女神は説明を終えると消えうせた。


 女神が消えると、体も動くようになった。


「野郎ども山賊は廃業だ。溜め込んだ金は俺が貰う」


 俺が貰うと言った瞬間激痛が走る。


「痛たたた。俺が悪かった平等に分ける」


 悲鳴をあげて俺は前回の発言を取り消した。


 激痛が引いていく。こんな事でも呪いが発動するのかよ。

 参ったぜ。神の物語は本当だったな。

 こんな事になるんだったら酒盛りするなんて、言い出すんじゃなかった。


 金を分けると手下達は思い思いの方角に散って行った。

 俺はとりあえず残った酒を飲んでみた。

 本当に味がしない。おまけに酔えない。酔いも味の内に入るのかよ。

 とりあえず人里を目指す。途中暗くなったので野営をする。


 眠ったとたん跳ね起きた。飛び切りの悪夢を見たぜ。

 汗で体中びっしょりだ。内容を思い出すのも辛い。

 こんな目に遭うのなら、寝れないじゃないか。

 野営を中断して夜通し歩く。

 小さい村を無視して、更に歩く事三日。


 良かった昼になった頃に街に着いたぜ。

 街はかなり大きくて身を隠すのにはうってつけだ。

 善行はとりあえず教会にお金を少し寄付しよう。

 教会は神を祀ってある訳ではなく、恵みをもたらす精霊を祀ってある。

 教会に大急ぎで行き。銀貨一枚を寄付した。


 これで、やっと寝れる。

 宿で昼間から爆睡してしまったぜ。悪夢は見なかった。


 起きたら夕飯の時刻だ。飯を食い、繁華街を歩く。

 居た、女が扇情的な服装で通りに立っている。

 気が滅入っているから、景気付けだ。

 娼婦と話がまとまり、お金を払おうとしたら激痛に襲われる。

 おいおい、これだから女って奴は。これからの人生、俺は楽しみを奪われて生きていかなくてはいけないらしい。

 神って奴は糞ったれだ。



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商品名   数量 仕入れ  売値   購入元

ウィスキー 百本 三十万円 六千万円 酒量販店

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