第二話 菓子パンとペットボトル飲料

 砦は砂賊の襲撃から四日目の朝を迎えた。

 朝食を栄養の友となけなしの食材で作ったスープで素早く取る。

 執務室に入るとサモドルトが既に中で待っていた。


「どうだ何か問題が起きているか?」


 わらわはサモドルトに現状を確認する。


「砦の修復は問題なく進んでおります。ただ、食事で少し不満が出ているようですな」

「確かにな。あの栄養の友は味は四種類あるのだが、飽きがくる」


 不満を口にするサモドルトにわらわは頷き返して返事をした。


「そのようですな」


 サモドルトは苦笑して頷いた。

 サモドルトの様子に解決を急がねばと思う。

 現在打てる手はあまり多くないが、打てる手の一つ調達部隊は既に出した。

 砦の周辺で栽培可能な苦草は既に増産中だ。

 幸い硬貨だけは砂賊から強奪した分が腐るほどあるから、アイチヤに相談してみよう。


 アイチヤとはあれから何度か取引をして、契約を守っている限りでは怖い存在ではないと判断した。

 時々、謎の言葉を吐いて好奇心をくすぐられるが、気にしたら負けだ。

 でも、とても気になる。

 勇気を出して聞きたいが、怒らせると困る

 とりあえず、注文だ。




「デマエニデンワ」


 わらわは神器を作動させる呪文を唱えた。


 何時ものプルルルという奇妙な音がする。

 ガチャという音と共に念話が繋がった。


 アイチヤにパンと飲み物を注文した。

 料金は銀貨八十八枚。

 どんな食料がくるか少しわくわくする。




 執務室で部下の報告を受ける。


「食料調達の部隊は現在、二十名が街まで移動中です」

「到着予定はいつだ」


 わらわの問いかけにメモを見ながら答える部下。


「念話では後二日で街まで着くそうです」

「そうか、一日早い到着だが、できるだけ急がせろ」


 焦りを声ににじませない様に注意して命令する。

 一番上の立場というのは楽ではないな。

 弱音は絶対に吐けない、常に強気でなければいけない。

 人望を失うような発言も出来ない。

 時には無理を言う事も必要だ。

 息苦しいと思う事もあるが、やりがいもある。


 突如、光が溢れた。

 部下は突然の出来事に驚愕の声を上げる。


「うわ、なんだ! この光は!」


 来たか待っていたぞ。

 神の眷属との付き合いは三日だが、気心は知れたと思う。

 まあ、神の関係者だから油断は出来ないが、話した限りでは普通の男に思える。

 実害のある行動は取ってないから、問題を起こすとは考えられない。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」


 能天気な声のアイチヤ、この男には悩みなど無いのだろうな。



 茶色い四十センチ程の紙の箱に色々入っている。

 それは、透明な物に包まれた沢山のパンだった。

 パンの包装はよく分からない色とりどりの文字が書かれている。

 紙の箱は便利そう、後で幾つか自分用に使おう。

 続いて紙の箱に十二本、透明な瓶に入った飲み物が運ばれてくる

 一つ試しにパンを食べてみるとする。


「すごい。種類が五十ぐらいあるのではないか。どれを食べるか悩むな。アイチヤお勧めはどれだ」

「そうすっね。定番だとこのアンパンっすね」


 わらわの問いかけにアイチヤは返答と共に一つのパンを手に取ると渡してきた。


 どれどれ、外からみた限りではなんの変わりもないパンだな。

 包装を取りかぶりつく。

 あまい、やさしい甘さだ、驚くほど軟らかいパンと良く合う。

 中に入っているのは何だろうか、割ってみると少し紫掛かった黒いペーストと粒が入っている。

 木の実の一種かな。

 後で似たものを今度さがしてみるか。

 瞬く間に一つ食べてしまった。

 同じ包装を探し、もう一つアンパンを手にする。

 お茶が欲しくなるな。

 そうだ、頼んだお茶を貰おう。

 お茶の瓶を物色していると。




「お茶なら緑茶が合うっす」


 アイチヤが気を利かしてお茶を素焼きのコップに注ぎなから口を開く。

 なんだこのお茶は緑色をしているではないか、薬茶のたぐいか。

 少ししぶいが、アンパンに良く合う。

 美味いお茶だ。




「お前も一つ食べてみろ」

「ではこれを」


 わらわはサモドルトにパンを進めると、サモドルトは返答と共にパンを一つ手に取った。

 サモドルトが選んだのは切れ込みの入った細長いパンに茶色の紐状の物が挟まったものだ。

 包装を破いて食べると香ばしい匂いが微かに漂った。


「どうだ美味いか?」

「甘辛いソースが具材にからんでいてパンにとてもあっていますな」


 わらわの問いかけに口をもぐもぐさせながら、満足げに返すサモドルト。


「飲み物はどうだ?」

「ではこの黒いのを貰います」


 わらわはサモドルトに飲み物を勧めるとサモドルトが瓶を一つ手に取る。

 サモドルトが瓶を取った時、訝しげな表情をする。


「どうした何かあったか?」

「重さが……軽いのです」


 わらわは疑問に思いサモドルトに問い掛けると、口ごもりながら答えた。

 わらわも瓶を持ってみる。

 中身の分を考えても確かに軽い。

 どうなっているんだ。


「この瓶は何でできている?」

「ペットボトルといいまして。ペット樹脂で出来ていて、それ以上は知らないっす」


 アイチヤに問うと少し困惑したようすで返した。


 そうか樹脂というくらいだから木の樹液でできているのか。

 開け方が分からずあたふたしているサモドルトをアイチヤが手助けする。

 蓋を開けるとプシュという音がした。

 恐る恐るサモドルトが黒い液体をコップに注ぐと、黒い液体はシュワシュワと音立てている。

 気泡が不気味だ。


 度惑っているサモドルトにわらわは声を掛けた。


「嫌なら飲まなくてもいいんだぞ」

「大丈夫っす。自分もよく飲んでるっす。甘くてうまいっす」


 何の気負いもなくアイチヤが飲み物を勧める。


 嘘じゃないだろうな。

 神は悪戯好きだから、眷族もそうなのかも知れない。

 侮れないな。

 サモドルトはおずおずと飲み始めた。


「不思議なのど越しだ。たしかに甘い。しかし少し薬っぽいですな」

「あと栓を閉めないと炭酸が飛んで泡がでなくなるっす。冷やすとうまいっす」


 飲み物の感想を述べるサモドルトにアイチヤが親切に説明する。


 よくサモドルトはあんな飲み物を飲めるな。

 わらわだったら絶対に手をつけない。

 だが、サモドルトがお代わりを勢いよく飲むのをみて、少し考えを変える。

 アイチヤが帰ったら少し試そう。




「ところで今回の商品はどうっすか?」


 アイチヤは興味深そうに、疑問を投げかけた。


「これなら、これから毎食頼む」

「それが、ちょっと不味いっす。近隣の店全て集めたっすから、毎食は無理っす。後二食は弁当にして欲しいっす」


 わらわの依頼に、アイチヤは困惑気味に答えを返す。


 わらわは弁当を了承し、銀貨八十八枚を払う。


「リョウガエ。ありあとーしったー! デマエキカン」


 謎の言葉を発して、アイチヤが帰って行った。




 包装の文字が気になる。

 なんて書いてあるのだろう。

 ここは魔法使いに解読させたいが、魔力の無駄遣いは不味い。

 スキルならいいか、確か知識授与を持っている兵士がいたはずだ。


「誰か、アヴァルバートを呼んでこい」


 わらわは近くにいる兵士に命令した。



 学者上がりのアヴァルバートは異色の経歴で兵士になった。

 偏屈だが、その知識とスキルは役に立つ。


「拙者をお呼びですか」

「このパンの包装の文字が読みたい」


 現れたアヴァルバートにわらわは要求を伝える。


「拙者の知識に無い文字です。スキルにお伺いを立ててみます。知識授与!」


 アヴァルバートは文字を確認するとスキルを発動させた。


「どうだ分かったか?」

「これはメロンパンと書いてあります」


 わらわの問い掛けにパンを指差しながら答えるアヴァルバート。


 指差したパンを見て美味そうに感じる。

 メロンパン食べてみるか。

 包装を破くと果物の甘い香りがほのかに匂う。

 見た目は黄色で表面はザラザラして少し硬い。

 噛むと外側はサクッとしていて中はふんわり柔らかかった。

 これも美味いな。




 一人三個の計算だが、調達隊の分が余る。

 四個目は雲の形をしたパンだ。


「この雲の形のパンはなんて書いてある?」

「知識授与! クリームパンですな」


 わらわの問いかけに再びスキルを発動して答えるアヴァルバート。


 クリームはありふれてるな。

 まあ、良いか。

 割ると黄色いペーストが中にある。

 豪快にかぶりつく。

 何が混ぜてあるのか美味い。

 むっ、この味は卵黄が入っているな。

 砂糖もかなり使っているようだ。

 こんな、貴重な物が銅貨二十四枚だなんて恐れ入るな。




 手が止まらん、五個目に手を伸ばす。

 五個目は普通の形のパンだが割ると中に焦げ茶色のクリームが入っている。

 うむ、食べた事のない匂いと味だ。

 濃厚なクリームが食欲を誘う。

 思わず一気に食べてしまった。

 今度から一人五個にしてもらうとするか。

 今日は鍛錬を倍にしよう。


「このパンはなんだ?」


 わらわは質問と共に今食べたばかりの包装を指し示す。


「知識授与! チョコパンですな」


 三度スキルを発動して少しめんどくさそうに答えるアヴァルバート。


 チョコとは変わった響きだ。

 とても気に入った。




 食後のお茶という事で違う飲み物に挑戦する。


「おい、この黒い液体はなんだ?」

「知識授与。ブラックコーヒーと書いてあります」


 わらわの問い掛けに投げやりに四度目のスキルを発動して返答するアヴァルバート。


 黒い液体の入った瓶を開ける。

 プシュという音はしない。

 コップに注ぎ様子をみ、泡が立たないのを確認した。

 ゆっくりと味わうように舌で転がす。

 少し苦いが香りも悪く無い。

 飲んでしばらくすると頭がすっきりした気がする。

 きっと薬茶の一種だろう。


「苦労を掛けたな、お前も何か食べるが良い」


 少しやさしい声でアヴァルバートをわらわは労った。


 それにしても神の国のパンは凄い、種類も豊富だし本当に凄い。

 何かをパンに包むというのは中々おもしろそうだ。

 王都に帰ったら出入りのパン屋に研究させるか。

 自分用にペットボトルも空のを幾つかほしいな役立ちそうだ。



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商品名  数量  仕入れ   売値    購入元

菓子パン 三百個 三万六千円 七万二千円 スーパーとコンビニ

飲み物  五十本 八千円   一万六千円 スーパー


参考価格

商品名 数量 価格  購入元

弁当  一個 五百円 仕出し屋

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