異世界出前専門店アイチヤ~異世界貿易はぼったくり~

喰寝丸太

悪戯の神編

第一章 姫将軍

第一話 携帯食と水道水

「で状況はどうなっておる、報告せよ」


 守備隊長である、わらわクロルティーナ・ゴールステン・マルレントは砦の会議室で戦後の処理についての話し合いで口火をきった。

 会議室の空気はピンと張り詰めている。

 小隊長八人は空気を読んだのか誰も発言しない。




 それと言うのも昨晩未明に、砂賊が砦に攻め寄せてきたのだ。

 砂賊は砂漠に跋扈する盗賊で、その行動は神出鬼没だ。

 噂では魔法を使い砂漠に砂でアジトを作くっているらしい。

 普段は商人や旅人を襲うはずが、なぜだろう昨日は砦に来た。

 連中何をとち狂ったのだろうか、投石機など持ち出して攻めてきた。

 砦を攻めるには戦力不足というのが、分からなかった訳ではあるまい。




「報告します! 敵方砂賊二百名余りの内、死者百五十二名残りは逃走した模様。現在、追跡中アジトを割り出す予定です」


 上手くアジトが割り出せれば良いが。

 砂賊の殲滅は守備隊の悲願だ。

 何時もは砦に駆け込んできた商人の一報を聞いて出動していたが、今度こそ根こそぎ退治してやる。

 決意を新たにして、更に報告を聞く。


「建物の被害が……」


 言い淀む小隊長に嫌な予感がした。

 こういう時の勘は外れた事が無い。

 覚悟を決めて報告を聞こう。


「どうしたしゃきっとせんか!」


 副守備隊長のサモドルトが部下に激を飛ばす。

 わらわが叱っても問題ないが、それだと砦で一番偉い人間から叱責を受けた事になってしまう。

 溝が出来ると厄介だ。

 その点、副官なら後でわらわが小隊長にフォローすれば丸く収まる。


 本当にサモドルトは頼りになる副官だ。

 わらわを良く補佐してくれるし、部下の信頼も厚い。


「建物の損壊が八棟です。その内、倉庫に火矢があたり三棟全焼で中身は全部食料です。投石機の岩が井戸に当たり現在井戸は使えません」


 叱責を恐れてか、幾分早口で報告する小隊長。


 嫌な予感はやっぱり当たったか。

 非常に不味い。

 食料がないとこれから戦闘もままならん最悪餓えるな。

 一番近い街まで、いそいでも七日。

 補給の物資を持って帰りが九日だ到底間に合わんな。

 念話は魔法使い同士しか繋がらん。

 しかも、距離が街までギリギリ届かない。

 知り合いの魔法使いが近くにいる事なんてどんな幸運だ。

 当然当てにはできん。


 ざわめく会議室に事の重大さを飲み込めていなかった者も不安そうな表情になる。

 こういう時トップはうろたえないように、しなければいけない。

 平静を装い考え、無いのはどうしようもないと考えた。

 よし、食料がある場所から持ってくれば良いのだ。


「隊長どうしますか?」


 内心の心配を押し殺しているのだろう。

 なんでもないという口調でサモルドが判断を促す。


「よし砂賊のアジトが分かりしだい全力で襲撃を掛ける。食料を奪うのだ」


 わらわの答えに、それならと一同相槌を打つ。

 場の空気も明るくなった様に思う。

 これでは、どちらが賊かわかったものではないな。

 とりあえず、部下の反乱などという結果にならなくて良かった。

 最適解を出せたように思う。

 さて、行動の時間だ。


「井戸が修復できるまで水は魔法を使い補う事とする。煮炊きに火の魔法を使うのは禁止だ。魔力を節約せねばならない。襲撃の指揮はサモドルトに任せるたのむぞ。会議は終わりだ解散」


 わらわの命令に従い小隊長達は襲撃の準備を整える為、足早に会議室を後にした。




 執務室の窓を覗き兵士が帰ってきていないか確認する。

 遅い、遅いぞ、まさか負けたのでは無いのだろうな。

 人数、武器の質、戦闘能力全てはこちらが有利なのだ。

 負ける要素は微塵もないはず。


 もう何度部屋の中を行ったり来たりしただろうか。

 砦の修復をサモドルトに任せて、わらわが行くべきだったとも思う。




 執務室のドアがノックされ入室の返事を待ってから、サモルドが部屋に滑るように入ってくる。

 来たか待ちわびたぞ。

 離れて暮らしていた恋人が会いに来た気分だ。


 サモルドが敬礼を行い報告する。


「ただいま帰還しました」


 サモルドの表情は硬い。

 問いを発するのが怖くなる日が来るとは人生思いもよらない。

 一部以外飢えて死ぬのなら、わらわは死ぬ方を選ぼう。

 覚悟はして、サモルドに問いを投げかける。


「どうだった食料はあったか?」

「かんばしくありませんな。戦闘はこちらは死者を出すことなく終わったのですが、食料が百人を二週間も持たせる量ではありません。よくて三日ですな」


 わらわの問いにサモドルトは絶望的な報告をする。

 砂賊めの襲撃の理由がこれか、二百人が一日半暮らせる量では誰でも焦るというものだ。

 これでは砦の兵士は砂賊の道連れになったようなもの。

 なんて運の悪い事だ。

 今日は厄日に違いない。


「それとですな。財宝がかなりありその中に神器がありました」


 サモルドはわらわに話しかけ、懐からサッと羊皮紙を取り出した。

 羊皮紙には説明らしき物が古代語で書いてある。

 どうか使える物であってくれ。


 羊皮紙の神器とは変わっている。

 わらわが知っているのはオーブの形だ。

 まあ、神器は使い方さえ誤らなければ、問題はない。


「神器の機能はなんだ?」


 この状況を打破したいと願いわらわは尋ねる。


「古代語を解析させた守備隊の魔法使いによれば、説明書きの内容は神の眷属に金銭を払えば希望の品を売るということです」


 サモルドは神器をわらわに渡しながら答えた。


 精霊のお導きに違いない。

 素晴らしい、この窮状にぴったりだが、神に係わり悪戯されたという話は良く聞く。

 契約を破った為に呪いをかけられたなど碌なことがない。

 ただし、神は嘘を言わない。

 そこだけが安心出来る点だ。

 砂賊も使う勇気が出なかったのだな。


「どうしますか隊長?」

「すこし一人で考えたい」


 判断を問う声にわらわはゆっくりと答えた。




 執務室の椅子に座って足を組み、人差し指で肘掛をコツコツと叩く。

 調達部隊を街まで送るか、駄目だなどうやりくりしても食料が足りない。

 街にたどり着けるだけの人数を撤退させるか。

 残りに死んでくれというのは酷すぎる。

 ちまたでは姫将軍など呼ばれている、わらわがなんたる様だ。


 砦からわらわが撤退した場合、名前が三つあることから分かるように、仮にも王族だから罪に問われはしないだろう。

 しかし、軍の勤めは終わりクズ貴族に嫁がされるだろう。

 それに指揮官として味方を見捨てて逃げるなど出来るはずもない。

 よし一か八かだ神器を使おう、気は進まないが。




 起動の呪文は確かこうだったな。


「いくぞ! デマエニデンワ」


 わらわは神器を起動させる。

 プルルルと奇妙な音が神器からした。

 ガチャという音と共に念話が繋がり、若い男の声が脳内に響く。


 念話に出たアイチヤという男に食料と水を注文する。

 栄養の友と水道水を売ってもらった。

 料金は栄養の友が金貨一枚と銀貨二十枚。水が銀貨二枚らしい。


 砂漠では水は貴重で、相場ではコップ一杯で銅貨十枚。

 二百リットルでは銀貨十枚程になる。

 水が安いのは良い、代わりに一食銅貨四十枚は高いな。

 大体銅貨三十枚で街では食事が取れる。

 背に腹は変えられん。

 金額について承諾したわらわに、能天気なアイチヤの配達時刻を告げる念話が聞こえた。


 ガチャと言う音と共に念話が切れる。

 魂とか要求されずに良かった良かった。

 神は契約を守るというから、眷族も同様だろう。

 もう多分大丈夫。

 こんなに緊張したのは久しぶりだ。

 とりあえず危機は去ったと考えて良いだろう。

 踊り出したい気分だ。

 今ならダンスを一日踊っても良い。

 アイチヤが配達に来たら砦の皆にも知らせねば。



 書類に目を通しサインをする。

 そんな作業を一時間位しただろうか。

 突然光が溢れて思わず目を閉じると男が立っていた。

 そばかすのある髪が短い純朴そうな二十代後半ぐらいの黒髪黒目の青年だった。


「ちわー、アイチヤです。配達に来たっす」


 能天気なアイチヤの声。

 これが神の眷属か到底そう見えんな。

 こいつ騙りではないよな。

 もしそうなら、こいつを脅して転移を使わせて避難しよう。



「アイチヤと言ったか。ところで、鑑定しても良いか?」

「良いっす」


 インク壺に蓋をして、わらわは問いを発し、笑顔で承諾するアイチヤ。


「人物鑑定!!」


 わらわはスキルを発動した。


――――――――――――――

名前:メイン・アイチ LV1

年齢:26

魔力:0


スキル:

翻訳

出前行きます

出前帰還

両替

攻撃無効

超健康

――――――――――――――


 さすが、神の眷属。

 訳が分からんステータスだ。

 魔力0がまず分からない。

 魔力は生物なら持っているはずでは。

 レベルが1だと赤子並だな。

 今まで見たことの無いスキルもある。

 出前行きますと出前帰還と両替は見たことがないな。

 特に出前関係は分からない。

 無効スキルも見たことない。

 耐性スキルならある。

 しかも攻撃無効、無敵じゃないか。

 超健康は何だ、もしかして不死のたぐいか。

 やはり神の眷属だな十分納得した。




「運び込んで良いすっか?」


 アイチヤは問いかけ、わらわは呼び鈴を鳴らし少し待つように伝えた


 呼び出された兵士に人を呼んでくれる様に頼む。

 人が来ると荷物が運び込まれ始めた。

 板に取っ手と車輪が付いた物に荷物を載せて、光をくぐり続々と運び込まれる。


 黄色の地に文字がいろいろ書かれた厚さ二センチ縦横十センチぐらいの箱が沢山ある。

 これが食料か一箱一食か思っていたより小さいな。

 水は白い半透明で注ぎ口と持ち手のついた半透明の大きな容器に入っている。

 大きさは四十センチぐらいだな。

 それが、二十個ある。


「ちょっといいか、試しに飲み食いしたいのだが」


 わらわの提案に対し、食料を一つ手に取り食べ方を教授するアイチヤ。


 わらわも真似して箱を開けた。

 むっ、甘くて旨いな携帯食料とはとても思えん。

 菓子と言っても通用するぞ。


 水の入った容器の説明をするアイチヤ。

 早速試しに水を少し飲み、変な味はあまりしないが美味くないと感じた。

 水にはほのかな薬品の香りがある。


「又注文があれば呼ぶっす、お支払いお願いするっす」


 アイチヤの要求に約束の金貨一枚と銀貨二十二枚を渡す。

 アイチヤは金を受け取るとスキルを発動させた。

 硬貨は形を変えて行き十枚ぐらいの紙になった。

 なんだ、あれは神の国のお金か。


「ありあとーしったー! デマエキカン」


 ありあとーしったーと大声で言うアイチヤ。

 謎の言葉だ、大きい声で言わないと駄目なのか。

 デマエキカンと言うのも謎だな。

 まあ、神の事は分からんから、気にする必要も無いだろう。


 アイチヤが光と共に帰って行った。

 やったぞ、やりとげた。

 これで生き残る目が出てきたぞ。



―――――――――――――――――――――――――――――

商品名   数量     仕入れ 売値   購入元

栄養の友  三百個    六万円 十二万円 ドラックストア

水道水   二百リットル 八百円 二千円  水道局

ポリタンク 十個     一万円 初期投資 ホームセンター

台車    一台     六千円 初期投資 ホームセンター


 金額は適当です。間違っていても無視して下さい。


 『』内の会話は念話です。

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